仏生寺活断層セグメント

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 仏生寺活断層セグメントは近畿北東部鈴鹿山地北西麓に発達する「鈴鹿山地西縁起震断層系」の一部を構成する、活断層セグメントです。例に漏れず単一の断層系ではなく、幾つかの副次的断層の組み合わせですが、ここで紹介するのはその内の一つです。ここで紹介する断層露頭例は所謂第四系を切断変形させている典型です。最近話題になる原発再稼働問題では活断層の認定が焦点になります。中にはこれが断層か?(活断層以前の話し)と言うものもあります。人・・・・専門家と称するシロウトに毛が生えた連中・・・の話を聞く前に、みんなが活断層とはどういうものか、を知ることが重要なのです。

 
図-1

 彦根から国道306号を三重県員弁の方に採り、山に近づくと国道右に何やら造成地のようなものがあり、そこに本断層の好露頭(図中This Locatin)があります。

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図-2

 造成地に入るといきなり上の写真のように、見かけ30゜ぐらいに傾斜した地層からなる露頭が現れます。傾斜した地層の上にも別の地層が重なっていますが、これは崖錘かもしくは上の道路造成で出てきた土砂と考えられるので、この地点の断層運動には関係ありません。
 その下の地層は第四紀最新世の古琵琶湖層群蒲生累層。約200万年前の古琵琶湖に堆積した地層。ここでは主に細かい砂礫からなっていますが、特徴的に白い地層が挟まっています。これは何でしょう?最初は火山灰(タフ)かと思ったのですが、触ってみるとタフの手触りではなく・・・このあたりがプロの勘・・・、ただのシルトです。おそらく湖底に溜まった珪藻土か?色の白いのは石灰質の所為・・・・・背後の山地には伊吹山や霊仙山などの石灰岩岩体がある・・・・かもしれませんが、よくは判らない。

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図-3

 上の露頭の下部。写真中央に立ての線が入り、これで地層がずれているのが判ります。これも断層です。断層の左では上位にある白色シルト層が、右側では断層に沿って滑り落ちていますからこれは正断層センス。これの向かって右にも同じ様な断層があります。これらは主断層の活動に伴う小断層と云います。小断層の変位センスから、この位置は引っ張り応力下にあったと推定されます。これらの小断層に平行又は斜交する小さな割れ目が見えます。これらはある角度を持って規則的に配列しています。これは断層が形成されたと同時に出来る剪断面の跡で、所謂「共役節理」と云います。

下の写真は蒲生累層の砂礫を切る断層(クリノメーターの横の肌色の筋)です。小さいけれどこれも断層には間違いない。

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図-4

 更に南に行くと下のような露頭がありました。

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図-5

 白色シルト層に着目すると、図ー3では南側の地層が相対的に下位になる正断層センスですが、ここでは逆に下位のシルト層が上位の砂礫層の上に来る逆断層センスになっています。この様に逆断層と正断層が組み合わさるケースは珍しくはありません。一般には大きな逆断層が生じると、その上盤及び下盤に正断層が発生します。今回は露頭オーダーでの例ですが、規模が多きなると地質図オーダーとなり、更にはテクトニクスオーダーにもなります。この例は非常に多いのですが、皆さんあまり関心がない。だから知らない人の方が多い。

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図-6

 これは別の場所での断層露頭です。ここでも下位白色シルト層が上位砂礫層の上に被さる逆断層センスが現れています。断層の右側のシルト層の中をよく見てみましょう。シルト層の中に暗灰色の薄い砂層が挟まれています。この層は僅かに屈曲しています。これを「撓曲」と呼びます。そしてその右に右上から左下に伸びる筋があり、それに沿って左側のブロックが下方にずれている様子が見えます。立ての筋は断層であり、センスは正断層です。
 この露頭の意味する事は、大きな逆断層が形成されると、その背後には「撓曲」と正断層が発生するということです。このことを逆に言うと、「撓曲」か正断層が見つかれば、その近くには大きな逆断層があると云うことで、その位置規模も予め推定することが出来るということです。

 この露頭は筆者が観察しただけで100mぐらいの延長がある。その中でもこれだけ多数の小さい断層が認められる。と言うことは一断層系でも非常に複雑な構造を持っていると云うことで、一つの現象だけを取り上げて全体を見てはならないということです。

 仏生寺断層そのものは活断層としてそう大きなものではない。又、ここで紹介した断層も本体ではなく、おそらくこの露頭の裏側・・・つまり鈴鹿山地寄り・・・にもっと大きな断層があるはずです。

 ここで敢えてこの断層露頭を取り上げた理由は次の通りです。
1)活断層問題で東通原発や東京の立川断層などのトレンチ掘削断面が時折マスコミに登場する事があるが、下手なエロビデオ紛いに、どれも肝心なところを隠すか曖昧にしている。あれでは一般の人は第四紀断層がどういうものか判らない。
2)ここでは規模は小さいが典型的な断層が現れている。初心者(学生やアマチュア)のためのトレーニングフィールドとして適当である
3)今話題になっている敦賀原発や東通原発の断層もせいぜいこの程度、或いはこれ以下の規模かもしれない。それをみんなよってたかって大騒ぎしているのである。

(13/03/09)