調布市の陥没

技術士(応用理学) 横井和夫


 大阪市十三の道路陥没は一転、老朽化した水道管の破裂らしい。老朽化の程度にもよるが、突然破裂するケースがないわけではない。しかしその多くは路面の不等沈下とか大型車の過積載によるもの。陥没個所は大型車が通行する様には見えない。近くで地下工事が行われた場合、その影響で周辺が沈下するケースはよくある。この沈下によって地下埋設管も変形し、応力集中が生じて破断する。これが偶々近くの推進工事とタイミング的に一致したとも考えられる。
 当該地点では推進工法による下水管敷設工事が行われている。この影響も当然考えられるのである。現代の推進工事は殆どシールド工事と変わらない。当該地点は淀川三角州の中州の一部に当たり、水で飽和した緩い砂地盤で出来ている。そういう場所を薬注抜きで推進をやると、常にとは言わないが逸泥を起こす可能性が高くなる。逸泥がしょうじると、切羽前方の土砂が崩壊し遂には陥没に至る。
 果たしてどちらのケースが正しいか?原因究明、責任の所在について大阪市・施工業者の間で結構揉めるかもしれない。
(23/12/09)

 東で調布市のNEXCO東外環道路で溢水が起こったかと思うと、西では大阪市淀川区十三で道路の陥没。これは近傍の下水道工事の所為とされる。調布市の件は三年前の住宅地での道路陥没に始まるが、色々あって結局はNEXCO東の責任となった。そこで家屋の補償と対策工でとりあえずは一件落着、に見えたが世の中そうはいかない。
 今月に入ってシールドから試験注入を行ったところ、あちこちで水が噴き出す現象が現れ、あえなく中止。これは地盤改良のための薬液注入が不十分で、部分的に効果がなかった箇所・・・所謂水路・(ミズミチ)・・を作ってしまった結果と考えられる。水路がどうしてできるか、どうやって出来るかは確率の問題で予測できない。やってみなければ分からないのである。
 このトンネルは結構長期間・・・ほぼ三年近く・・・殆ど放置され続けてきた。その間に周囲の地盤の緩みが生じた。これが周囲の地盤の強度や透水性に不均質性を生じる。この不均質性を是正し、均質化するのが地盤改良工である。この種の工事に使われる工法の一つが薬液注入工で、現場の環境からこれ自身間違いではない。
 では何故水路が出来てしまったのか?いくつか原因が考えられるが、その代表的なものを挙げてみる。
1、地盤の緩みの結果、地下水に動水勾配を作ってしまった。この場合粒径の揃った砂なら、流出し地下水経路・・・即ち水路・・・を作る可能性がある。
2、一旦水路が出来ると薬栄を注入しても、薬液はそこから流出してしまうので、結果として効果がない。
3、注入材や注入圧が不適切だった。注入材をモルタルだけとか、圧力の加えすぎ。
4、注入孔で穴曲がりが生じて、地下深部で予定区間と注入孔がズレてしまった。
 その他あるだろうが、とにかく都市部で深さ60mの薬注というのはあまり例が無い。まあ始めからやり直しだ。
 一方西の大阪十三では夜中にいきなり道路に水が噴きだし、道路が約20mにわたって陥没。下水道は圧力は掛からないので、管の破裂ではない。近くで下水道工事をやっていたというから、これは管の敷設工事に伴うもの。道路の状態から見てこれは幹線工事ではない。支線で推進かミニシールドだろうと思っていたら、本日朝ネットニュースを見ると、近くで推進の立て坑とヤードの写真があった。最近の推進は泥水加圧式が普通で、工法的にはシールドと殆ど変わらない。
 事故のあった十三の辺りは、古くは淀川三角州の一部で、付近には「中島」とか「加島」とか島が付く地名が多い。これは淀川の氾濫でできた、デユーンと呼ばれる紗堆の跡。水が豊富な緩い砂層で出来ている。そこへ薬注もせずにいきなり泥水を加えたので、砂が液状化を起こし、空洞が出来て砂と一緒に泥水が噴き出したのではないか?不用心。
 以上2件。結論はいずれも施工業者の「施工ミス」です。
(23/12/08)

 NEXCO東外環調布工区での陥没対策工事。工法はモルタルと地盤を撹拌混合して固めるCCPのような者らしい。写真はケーシングを釣り上げているが、これは下のドライビングユニットに接続している。ケーシング先端にビットがついているから、ケーシング掘りをするのか。だったらソレタンシュ注入か?機種は大口径専用ボーリングマシンだが、一部なので、機種もメーカーもよく分からない。
 報道によれば、工事が始まると、騒音や振動が激しく夜も寝ていられないらしい。ボーリング工法でそんなことがあるはずがないので、矢板打設のような多分別工事のせいだろう。別の写真では鋼矢板を直打ちして、道路との間に隙間が出来ている。これが振動の原因か?バイブロでも使ったのか?住宅地でこんなの使ったとすれば、非常識も甚だしい。元受請けはカジマだろうが、とにかく施工が下手だ。
(23/11/05)


 東京都戌江市の道路で突然起きた陥没。何故かNEXCO東が黙って補修したが、土を入れても次の日には穴が開いてしまう。その繰り返し。何故補修をNEXCO東がやったのか?どうも昨年隣の調布で起きた外環陥没事故との関連と勘違いしたらしい。
 この陥没は外環道路とは関係ありません。一列に並んでいること、それが道路脇の切削線上にあることから、これは下水道か何か地下埋設工事の失敗です。おそらく管の裏込めに、上総層群か何か粒度配合の悪い・・・見てくれは綺麗・・・砂を使ったのでしょう。
 この手の砂は締固め効果も乏しく、地下水に大きな動水勾配が発生すると流動化しやすい。最近関東地方は豪雨が多い。大量の雨水が地下に浸透すると地下の流速が大きくなる。それが裏込め土(砂)を流出させたのでしょう。西日本のマサと並んで土木材料に使ってはならない土の代表です。なお、この種の陥没は、砂を上から埋めても無駄。埋め戻した砂が同じように流失するから、何度でも繰り返します。思い切って管を全部取り換え、始めからやり直すことです。
(23/10/17)

 東京都調布市でのNEXCO東環状八号線陥没池点修復工事が始まりました。モルタルを注入して空隙を充填・固化するだけの単純工法。大丈夫かあという気はするが、ここでは深く触れない。問題は陥没事故の本当の原因である。事故の経緯は既に公開されているが、それでもNEXCO東やカジマが隠している部分があるように思える。
 NEXCO東は事故の原因を、「東久留米層」という特殊な地盤によるもの、と説明する。では陥没地点での「東久留米層」とは如何なるものかというと、N値が50以上の密実な砂層で、これが40m以上に渡って堆積し、管底部に僅かに砂礫層が見られるのみである。
 地盤は均質で締まっており、シールドにとって何の問題もない。こういう地盤を地下40mで掘進すれば、地表にはまず何の影響も与えず、殆ど気付かないうちに通り過ぎてしまう。ところが20年2月に、突如ドカーンという物音が生じ、その後振動が続き、8月に陥没が生じた。地下40mのシールド工事でこんなことが起こるなんて聞いたことがない。つまりこれは、地盤の問題ではなく、何らかの人為的原因による坑内トラブルが発生したことに間違いない。
 最初の陥没が起こって、丁度丸三年。三年も掛かって一体全体何をしていたのか?地盤の復旧工事は始まったが、本体工事再開の目途は未だ全く立っていない。今後何か起きたら目も当てられない。呪われた環八だ。大阪万博もこうはならないように、他山の石だ。
(23/08/04)

今朝朝刊を開いてみると、谷本親伯が例のNEXCO東調布陥没事故について、辛辣意見を述べている。辛辣といっても、筆者らまともなトンネル屋の目では、ごく当たり前常識的意見。批判の要点は
1、事業者(NEXCO東)の事故報告書は、問題を地盤の特殊性とか排泥処理のような素人騙しの論点にすりかえ、被災者に対しまともに向き合おうとしていない。
2、事業者が設置した第三者委員会も、事故原因の追及には目をつぶり、被災者にまともに向きあおうとしていない(要するに八百長委員会・・・筆者注)。
3、事故原因の究明が不徹底。警察が関与していない。イギリスの例では検察による原因究明が行捜査われ、責任者は刑事告発されている。
4、10日も、前から予兆現象とみられる振動があったにも拘わらず、モニタリングも何もしていない。
 筆者ならこれに加え
5、工法がシールド工法というのは妥当としても、マシンや周辺設備の設計が地盤に対し適切であったか?排泥管やツースビットが地盤にあったものか?*
 を指摘しておきたい。
 それはそうと、毎日のような全国一般紙にこのような論説が載ることは重要である。谷本親伯は元々ゼネコン出身で、左翼ではなくむしろ保守派。保守だからこそ、今の日本土木の現況が嘆かわしく感じられ、論調も辛辣になるのである。筆者もサラリーマン時代経験したが、正論を吐くものは疎んじられ、忖度するものほど引き立てられる。しかし土木が相手にするものは自然である。役所や地元など人間相手の場面では幾らでも都合のよい話ができるが、自然相手はそうはいかない。自然は残酷である。ほんの少しのミス・手抜きも許してもらえない。人間社会で通用する手練手管は、自然界では通用しないと思っておいたほうが良い。中にはこうやって誤魔化して上手くできたと自慢するのもいるが、それは単に運が良かっただけ。
*本来シールド工法というのは静穏で、外からは工事などしているかどうかさえ気が付かないのが普通。しかし本件工事では、春ころから大きな振動や騒音があったといわれる。これは異常である。内部艤装に問題があるとか、切羽崩壊を生じたとか、何らかの異常事態が生じたのは間違いない。
(22/06/09)

 いささか旧聞に属するが、東京外環8号工事で、調布市陥没箇所とは反対側のシールド工事で、カッターの1/3が破損し、工事が約1年中断するという事故が発生した。工事は立て坑・・・多分到達立て坑で、連続地中壁・・・の鉄筋にカッターが引っ掛かったためとされる。つまり施工者は立て坑をシールドでそのまま切断しようとした訳だ。  ところが切断できず逆にシールドに破損が生じたのである。
 NEXCO東はその原因として、施工図が製図ミスにより、設計より、水平に10㎝、垂直に90㎝ずれたことを挙げている。筆者はそのずれがカッターの破損と何の関係があるのか理解出来なかった。そもそも今の設計図面は全てCADによるコンピューター図化だから、製図ミスなどあり得ない。また上に挙げたずれは数値として非常に大きく、只の施工誤差ではない。現代のシールド工事は全てコンピューター制御だから、人為ミスが入る余地はない。上で挙げた誤差が出てくると、コンピューターから警告音が出るので、直ぐ修正に掛からなければならない。
 通常立て坑とシールド本体との接合部は、予めシールド外径に見合った穴を開けておき、そこにシールド本体を誘導する。元々その位置が間違っておれば問題だが、数㎝程度ならいざ知らず、1m近いずれが分からなかったというのが不可解千万。日常の検査・検測を怠っていたからだ。北海道知床海難事故も、船体検査をはじめ安全検査を怠っていたからである。
 今の日本の問題は、社会全般に表に見える短期的利益を重視し、目に見えない基本を軽視する風潮が強くなり、それどころか主流を占めてしまっていることである。この傾向は小泉ー竹中改革に始まり、安倍内閣で拡大し、現在のような円安・日本売り状態を作ってしまった。円安・株安と外環シールド事故、知床沖海難事故は無関係ではないのだ。
(22/05/02)

 東京外環調布陥没事故の住民提訴に対し、東京地裁は原告主張を認め、工事停止を命じました。公共事業におけるこの種の訴訟では「・・・原告の主張は理解できるが・・・、しかし事業によるメリットと工事停止によるデメリットを勘案し・・・」てな理屈をつけて、原告主張を斥けるのが一般的だった。今回の様に一審で原告主張を全面的に認めるのは珍しい。よっぽどNEXCO側の言い訳が下手だったのだろう。
 NEXCO東の説明は、ズバリよくわからない。例えば薬液を含むと流動化しやすい”特殊な地層”があった、とか地盤を緩めるための薬液を注入したところ崩壊が始まった、とか色々意味不明な部分が多い。その中で筆者が注目したのは、崩壊が始まったとみられる昨年四月頃は、夜間作業を中止していたということである。その頃から騒音が激しくなったので住民の要求を汲んで、夜間作業を中止したのではあるまいか?
 シールドであれ、山岳工法であれ、トンネルは昼夜兼行で行うものである。それは何も施工効率を高めるといたt実利的な目的ではなく、切羽の安定を維持するという点でも重要である。よっぽど安定な地山で、断面が数m程度であれば別だが、不安定な未固結地山で切羽を長期間放置すると、切羽周辺の地山が緩んで崩壊を起こす。これを避けるために切羽は休めず昼夜通しで施工するのである。東京外環ルートは未固結の第四紀層分布地帯であり、昼夜通しが当然で、夜間休止は本来あり得ない。
 今回のシールドの排泥材を、ベントナイトではなく気泡にしたことが原因という妄説がある。ベントナイトでも水が多く未固結不安定な地山では逸泥を起こしたりするので、粘性の維持が難しく万能なものではない。
 それはそうといずれにせよ、工事は何らかの形で再開せざるを得ない。どうするのでしょうか?これまで通りのシールド方式では、到底地元が納得するとは思えない。すると開削か山岳工法になる。市街地で60m近い開削など論外だ。筆者は意外に山岳工法という選択肢はあるのではないかと思っている。例えば前方のどこか適当な場所に立て坑を入れ、そこから斜坑で本線に取りつき、停止点まで山岳工法で迎え掘りをする。工法としてはアンブレラだろう。また地山の状態・・・地下水や緩み・・・に応じて、補助工法として地表から薬液注入を行う。そのための用地を確保する必要がある。やっぱり難しいですねえ。
(22/03/03)

NEXCO東日本は環八調布市陥没事故の補償範囲について、トンネル直上16mだけの範囲にするつもりらしい。一体全体この会社の頭はどうなっているのか理解しがたい。そもそもこの事故、NEXCO東は最初から嘘をつきっぱなしである。最初は陥没はトンネル工事とは無関係と言い張り、原因がトンネルに起因すると結論されれば、今度は特殊な地盤だったからだ、とか特殊な工法をつかったからだとか、責任を他人に転嫁することばかり。
 今明らかになっているのは、シールドマシンが「東久留米層」という地層に含まれる礫を処理できず、先端でトラブルを起こし、それが切りは崩壊を起こし地盤をゆるめてしまったということだ。「東久留米層」という名前がついているから、この地層は地質学的には旧知のもので、その性格も既に分かっていたはずだ。その性格が如何に特殊であっても、それが具体的であれば対策はとれたはずであるし、又取られなければならない。それが技術力である。
 それができていないということは、NEXCO東にも、設計はどこか知らないが元請コンサルも、ゼネコンのカジマにも基本的な技術力がなかったということに他ならない。シールドマシンというものは量産品ではなく、メーカーが発注者の要求に応じて設計して製造する。要するにシールドマシンの設計ミスだったということだ。
 話を陥没の影響範囲に戻す。筆者のこれまでの陥没調査の経験からは、陥没にともなう地盤の緩み域の形状は、地下では徳利のような形に広がる。その広がり方は地盤の剪断強度、特に内部摩擦角に依存する。小さければ緩み域は広がり、大きければ狭くなる。内部摩擦角は土の密度により変化するが、通常の堆積土(沖積層から洪積層の砂や礫地盤)では、25~40゜の範囲に収まる。つまり緩み域はこの値から決まるある範囲までは広がるのである。
 NEXCO東がいうように、緩み域がトンネル直上にしか広がらないというのは、地盤の内部摩擦角が90゜という自然界にも理論上もあり得ない数字が前提になる。無論硬い粘土であれば数10mも直立する。これは地盤剪断強度の内粘着力成分が極めて大きい過圧密粘土の場合。この場合は緩み域は極めて小さいので陥没は生じない。あるいは硬くてシールドでは掘れなくなる。つまり工法選定ミスになる。どっちにしても、NEXCO 東とカジマは見え透いた嘘をつき、苦し紛れの言い訳をしているに過ぎない。阪神高速松原線飛鳥工区といい、JX倉敷水島トンネル崩壊事故といい、東電福島第一原発の漏水対策といい。、カジマの工事はチョンボばっかり。技術力なし。
(21/10/20)

 昨年秋に起こった調布市の陥没事故。最近の調査で地盤のゆるみ範囲はトンネル直上より広範囲に広がっていることが判明。これは事故発生直後、筆者が予見していた通りです。理屈は別に難しくはありません。ゆるみ範囲は最大でトンネルセンターから左右70~80mの範囲です。これが何時まで続くかはわからない。常時定点観測していれば収束点の予測は可能です。
 さてどうすれば良いか?方法はない。補償で行くしかないでしょう。絶対に側方への変位を許容しない、というなら、トンネルの左右に連壁を打設するしかない。それなら一体何のための「大深度法」なんだ、という議論に跳ね返る。そもそも「大深度法」とは、移転不能な住宅地でも地下工事を可能にするための法律。補償義務など考えていない。もしそれが義務化されれば、事業者(NEXCOとかJRなど)はビビッて、そんな事業はやらなくなる。補償費は国で面倒見てください、だ。
(21/10/16)

 首都高環状8号調布市陥没事故でNEXCO東が最終報告書を出しましたが、その要点を挙げると「・・・特殊な地盤で小石が挟まりこれを除去するために特別な工法を使った・・・地盤の緩めるため特殊な薬液を使った。これはよく使われている。・・・このため地盤が流動化しやすくなった。トンネルの上の地盤は流動化しやすい特殊な地盤だった。・・・原因は施工ミスだった」。
 ズバリ言ってさっぱり分からない。最後の施工ミスを認めただけマシだ。とにかく特殊だの特別だのと云った、実態をごまかす言葉を使いすぎている。これでは素人からも信用されない。あの会社は何を云っても”特殊で”といって誤魔化す、という具合だ。
 そもそも地盤を緩めるための薬液とは何か?そんなもの聞いたことがない。地山が岩盤のような固いもので爆薬を使えないときは、ブライスターのような膨張性セメントを使うことはあるが、シールドでやろうと云う地盤にブライスターもないものだ。トンネルは緩めないで掘るのが鉄則で、緩めて掘るというのは邪道である。
 思うに昨年2月頃、先端部で何かトラブルを生じた。その修復に手間取っているうちに切り刃が崩壊し・・・ドーンという音・・・前胴部が土砂に食いつかれた。所謂ジャーミングである。この結果シールドは推進出来ず立ち往生。モタモタしているうちに周辺地山が緩み”=空洞が成長し”、昨年10月の陥没に至った。
 問題は最初のトラブルが何か、である。機械的な故障も勿論考えられる。其の他考えられるのは排泥材である。ネットに出てくる環八シールドでは気泡が使われているようだ。安物の発泡剤を使って、泡がまともに出来なかったのか?水圧が高すぎて泡が潰れてしまったのか?泥水加圧の場合だと、やはり泥水管理のミスが挙げられる。どちらにしても排泥管が詰まってポンプに負荷が掛かり、排泥材が遅れなくなる。その結果が切り刃崩壊に繋がる。要するに、一番最初に云ったとおり、「施工が下手だった」のだ。何故こんなことになったかと云うと、一つは工法の過信。二つ目は施工者想像力不足。三つめは責任者(決断者)不在である。
1、工法過信とは、施工条件をろくに調べもせず、この工法ならなんでもできると思い込むことである。この背景には、土木技術に対する慢心・傲慢がある。これにはメーカーが無責任なことを売り込み、アホな役人がそれを信じ込むことが原因になる。無論、その裏に見えないマネーやメーカーへの天下りと云った側面もある。今回の工事では、気泡シールドなら、どんな地山でも掘削できると、関係者が信じ込んだことが原因である。
2、想像力不足とは、上の工法過信に関連するが、何か工法が決ると、それに不利な情報を拒否する空気が産まれる。その結果、不測の事態が発生したときの対応策が無視されることになる。
3、責任者不在とは、問題が起こった時誰も決断から逃げ出すことである。今回環八工事の場合、事業主体はNEXCO 東だが、実際の事業者は東京都であり、国交省も関連している。NEXCOも出資はしているが、それは一部に留まる。この場合、何か大幅な設計変更・計画変更事案が生じた時、NEXCO 単独では決定できず、バックにいる東京都や国交省の了解を得なくてはならない。これの協議が大変で、膨大な資料作成が要求される。しかし誰も決定しない。資料と情報がグルグル周りするだけである。当に「船頭多くして船山に登る」状態。
 このため、現場は対策工事どころではなく、協議資料作成にエネルギーと時間の大半を消費させられる。この間、切り刃での事態は益々悪化進展し、あちこちで陥没が起こり、そこにマスコミが殺到するという最悪の事態を迎えるのである。実はこの状況、現在の新型コロナ感染対策にそっくりだ、とは思いませんか?
(21/03/22)

 NEXCO東日本がとうとう調布市陥没事故の原因に「外環シールド工事がある」と認めました。しかしその理由の一つに「緩みやすい特殊な地層があって」とあるのが気に入らない。かつての博多駅前陥没事故でもそうだが、こういう事故が起こると土木屋は大抵、現地の地盤が予想外で・・・云々で誤魔化す、あるいは地盤や地下水という自然現象に責任を転嫁する。何故なら地盤や地下水に手錠はかけられない、だからみんな無罪放免メデタシメデタシだからだ。
 実はそんなことはない。博多駅前を例にとれば、福岡の地盤は岩盤の起伏が激しく地質も変化しやすい。また、谷を埋める砂もルーズで液状化しやすい程度のことは、少し福岡地盤に携わったことがあるなら常識だ。筆者などたった一月の出張でそのポイントは掴めた。その経験から云えば、あの箇所は接続立て坑もしくは凍結などの補助工法を併用すべきだった。福岡の土木屋や九州の学者は何をしていたのかね?無知・無能の極みとしか言いようがない。今回の調布事故でも同じで、気泡泥水で緩むような特殊な地盤など聞いたことがない。もしあるとすれば、それは調布市だけでなく東京都あるいは関東平野全体にも分布するはずである。
 NEXCOの説明どおりなら、どういう現象が起こるかを考えてみる。シールドのテールパッキンが効いていれば切り刃は非排水状態である。そこに泥水で加圧すると切り刃の水圧は一時的に高くなる。ある種の土質・・・粒径の揃った過圧密度の小さい砂質土であれば・・・これが限界を超えると液状化を生じ、地盤を緩める。この種の地盤は当然ながら地震時に液状化を生じやすい。このことは、こういう地盤が東京都下にあることを意味するので、東京都防災計画にも影響する。東京都は直ちにNEXCO東が発見した特殊な地盤の分布を調査すべきである。
 NEXCOの言い訳を敷衍するとこうなってしまう。はっきり言って筆者自身こんな馬鹿げたことをいいたくはない。液状化しやすい地盤は東京湾沿岸地域にはいくらでも存在するが、内陸の洪積台地下に存在することは非常に珍しい、というより理論上もあり得ない。つまりNEXCOはあり得ない現象をねつ造して事故の顛末を曖昧にしようとしているのである。
 事故の原因はずばり施工の問題である。但し工法が間違いなのか、施工法に問題があったのかは別。筆者が疑っているのはコロナ対策の影響である。1月からはじまった新型コロナ感染で、2月下旬頃か、大手ゼネコンを中心に施工現場の一時全面停止が始まった。本工事のプライムコントラクターのカジマが最初だった。当然この工事も停止に追い込まれる。ところで、シールドだけでなくトンネルの施工は切り刃を休めず連続施工するのが原則である。一旦長期停止すると、切り刃だけでなく周囲の地山も緩んでしまって後で厄介なことになる。
 調布市で近隣に被害が出だしたのがその頃である。今のトンネル工事は坑内で作業しているのはほんの数人で、全く密状態ではなく、換気も十分だから、明かりと同様に扱う必要はない。現場よりカジマの本社とかNEXCOが過剰に反応したのが原因ではないか?素人はこれだから困る。
(20/12/19)

 調布市陥没箇所から東へ約30mの地点で新たな陥没発生という報道。この値はある程度予測可能な数字である。トンネルの土被りを40m、トンネル外径を16mとする。地盤の内部摩擦角θを平均30度とすると主働崩壊角はθ=(45゜+Φ/2)=60゜となる。これが地表に達するとするとその位置は約40m.。これとトンネル外周との接線が辷り線になる。地表から5m程関東ローム層があると、その部分は垂直になるので、トンネルから30m付近に引っ張り亀裂が発生し、それが陥没に発生したと考えれば不思議ではない。これは短期的な現象で長期的に地盤の安息角30゜に収束するとすれば辷り線が地表と交差するのはトンネルから70~80m。つまりトンネルセンターから左右70~80mの範囲は何らかの変状(沈下や亀裂)が生じてもおかしくない。以後十分気を付けて下さい。
 陥没・・・地すべりも・・・とは地下に何らかに欠損が生じて地盤内応力のバランスが崩れた時、それを回復するプロセスの一形態である。一旦陥没が発生すると、地盤内応力が平衡するまで地盤内の崩壊は継続する。NEXCOや東京都やらが有識者会議を作ってあれこれ議論している間も陥没はつづいている。
 これは今の新型コロナウイルス感染にも共通するテレビ討論会で政府与党関係者がゲストで出るとき、色々注文が付く。その時の決まり文句が「今政府でもこの件につき検討を始める予定です」だ。予定している間にもウイルス感染は広がっている。その想像力が決定的に欠けている。
 調布市事故の場合、事業者や行政がまずやらなくてはならないのは、事故発生地点付近の地盤の変状・変位の調査・観測である。その範囲は概ね筆者が示している。その結果で影響範囲を特定し、変状の状況に応じて、緊急避難を含む対策をかんがえる。
 コロナ感染問題でも同じで、クラスターが発生したと考えられたら、周辺地域のPCR検査を徹底的に行う。それによって感染源を特定し対策を講じるのである。それを漫然と・・・本人はそうじゃないというだろうが・・・本日新規感染者がこれだけ発生しました、大勢集まってどんちゃん騒ぎをするのは止めてください、と云っておるだけでは何時まで経ってもこの騒ぎは収まらない。大阪は最早コロナ対策を超えて、知事・市長を交代させるべきである。但し維新にはそれに見合う人材がいない。
(20/12/11)

 調布市つつじが丘で再び地下に空洞が見つかった。深さは約4mで、幅長さとも前回のそれと大きくは変わらない。さてどうして見つかったかというとボーリングでだ、という話。しかしボーリング単独では空洞の位置は分かっても大きさまでは分からない。どうやって見つけたのか?おそらくこんなことだろうと思う。①まず地下レーダーか表面波探査であたりを付けておく。地下レーダーなら数mオーダー、表面波探査なら地下10数m位の情報は採れる。②ここで異常が見られた箇所にボーリングをやる。これなら空洞の有無あ大きさを推定することは可能だ。
 問題は空洞の下の地盤がどうなっているかだ。この情報が一向に公開されないので筆者も結論が出せない。ボーリングデータを全部公開してもらいたいものだ。
(20/11/22)

 今から30年以上前、大阪市住吉区の一角で突如陥没が起こった。そこは大阪市洪水対策の一環で、平野川幹線築造にともなうシールド工事地点。地下河川だから断面も15m位、施工深度も既存の地下鉄や何やかやを考えれば40m位になる。丁度今回の調布市NEXCOトンネルと同じぐらいだ。この事故マスコミには一切出なかった。大阪市やゼネコンがマスコミを抑え込んでしまったのだろう。では原因は何かということになる。実はゼネコンが某権威に頼み込んで、陥没地点に断層があったことにしてしまったのだ。
 筆者の見方は別で、丁度事故発生時期直前は正月休みで作業員がみな帰省してしまった。そこでやむなく作業を停止したが、その間に切り刃の地山が緩んでしまった。そこへいきなり水圧を加えたものだから逸泥を生じ、切り刃の土砂崩壊が続いて陥没してしまったのだ。今年は春からのコロナ騒ぎで、全国の主な工事現場はみな止まってしまった。調布のトンネル工事も同様長期間停止しただろう。その間にトンネル周辺地山が緩んでしまった可能性がある。
 さて調布の事故も断層の所為に出来るでしょうか?もしあったとすると、トンネルルートは断層に一致していたことになる。実は山岳トンネルの場合ではこういうことはよくある。それは地形的に断層は直線状の地形を作りやすいから、ルート計画でも都合がよいからである。しかし平野ではなかなかこういうことは起こらない。何故なら平野が形成されてからの時間はせいぜい数万年に過ぎない.。ということは断層が活動しても、それが平野の地形に及ぼす影響は僅かで、みんなそういうものに気を使わないからである。従って調布市のような関東平野の一画で、断層と道路計画が一致することがあれば、それはものすごい偶然である。立証は簡単ではない。
(20/11/10)

 調布市つつじが丘陥没事件で、とうとうNEXCOは有識者会議を設置。しかし本当にこれ陥没に関する有識者でしょうか?なんとなくNEXCO に責任なし、原因不明で終わらせるための会議の様に感じられます。
 それはともかく、陥没が生じるには地下に何らかの空洞がなくてはならない。空洞には色々あって、鍾乳洞の様に自然に出来るものもあるが、これは石灰岩という岩石にのみ出来る。調布は石灰岩地帯ではないからこれなない。古い下水道管など地下埋設物が原因になることは多いが、それなら行政が把握しているはずで、原因不明ということはあり得ない。そこで現在の高速道路工事が犯人扱いされるのである。
 そこで少しNEXCOの肩を持って別の原因を考えてみよう。ポイントは「調布」という場所である。調布にはかつて陸軍飛行場があった。この手の軍事施設の場合、大戦末期に軍用のトンネルが掘られていた。この種のトンネルは爆撃のショックを避けるため地下20m位に掘られることが多い。しかし戦後の宅地開発で地表部が掘削され土被りが小さくなる(極端には数mというケースもある)。そういう場合、空洞が拡大して陥没を発生する。空洞の位置が本当に地下数m程度なら、その可能性も考えられる。しかしこれでも行政(東京都)はトンネルがあるかどうかは把握していたはずである。当然それはNEXCO に伝えられていたはずで誰も分からない、ということは考えられない。又、陥没箇所・空洞とトンネルルートが極めて一致していることから、トンネル工事とは無関係と主張するのは難しいだろう。

20/11/09)

 なかなか決まらないアメリカ大統領選、なかなか真相を吐かない菅学術会議問題、そしてなかなか本当のことが明らかにならない調布市陥没事件。本日NEXCO東が会見を開き、新たに見つかった空洞の上には固い粘土層がありこれは地上三階建てのビルを支えられる強度を持っているから大丈夫と説明。これは嘘です。三階建てのビルを建てるぐらいなら大した支持力は必要ではない。せいぜい数t/㎡ある場合,N値も3~4もあればよい。しかしこれも地盤が地下に半無限状態に連続している場合で支持層直下に空洞があれば別だ。NEXCOは空洞は成長するものだ、ということを知らないらしい。
 空洞が成長する速さは一律ではないが、一般には硬い地盤ほど遅く、軟弱地盤ほど早いという傾向はある。大阪府高槻市北部丘陵には戦時中に掘られた旧陸軍のトンネルがある。この丘陵は下部最新世大阪層群と呼ばれる地層で、今から数10万年前に堆積した砂、粘土の互層。ここで昭和30年代に大規模開発が行なわれた。実は大阪府も地下にトンネルがあることは知っていた。ところが技術指導に当たった某阪大助教授が、「上にブルドーザーが走ってもなんともないから大丈夫やろ」といい加減なことを言ったものだから、大阪府はそのまま宅地として販売した。そして20~30年後、あちこちで陥没が起こって大騒ぎ。
 調布市の粘土というのは何者か?調布市は武蔵野台地と呼ばれる洪積台地が広がっている。この台地の下には武蔵野ロームなどの所謂関東ローム層と呼ばれる火山灰質土が広く分布する。NEXCOの云う粘土層とはこのローム層ではないか?これは確かに三階建てぐらいなら十分な支持力はもっているがそれは一時的なものである。所詮火山灰が固まったものだから土の構造は脆弱で簡単に潰れてしまう。空洞が成長拡大すれば知らない内に地盤がなくなってしまうのだ。強度や支持力云々の話ではない。問題はこの空洞の中にあった土が何処へ行ったかだ。
(20/11/07)

 調布市つつじが丘町で新たに見つかった空洞箇所。ズバリこの原因は直接的には、トンネル裏込め材の流出です。問題はそれを作った要因です。緩み範囲は既に相当広範囲に及んでいると考えられます。但し地下の空洞をどうやって見つけたのでしょうか?それが興味ある。物理探査法では結構難しい問題。
 シールドトンネルは、先端の掘削体の外径とそれに接続するトンネル本体径(セグメント外径)とは異なる。後者は前者より10数㎝程小さい。つまりトンネル本体と地盤との間には10数㎝程の隙間が空く。これを埋めるために裏込め注入というのをやるが、それが上手くいかないことがある*。その結果、隙間が地山の緩み域に、更には空洞に成長し、陥没を起こす。ま、そんなところではないかと思う。
*その理由は色々ある。実態は上手くいく方が珍しいのだが。裏込め材流失防止には2~30m毎に隔壁を設け、圧力ゲージをセグメントに取り付け、圧力を見ながら注入せなあかん、と昔々大林組のトンネル屋に教わったことがある。
(20/11/05)

 昨日いきなりフジテレビの「めざましテレビ」というのから電話が懸かってきて、何事かと思えば、東京調布市で生じた陥没事故に関し意見を聞きたい、というのでしばし応対。やや説明不足の点もあったので、本日朝不足点をメールしておきました。ここで改めてこの事故に関する所見をまとめておきます。
 事故の顛末は既に報道されているのでポイントだけまとめると
1、事故地点は調布市内の住宅地で、幅5mの市道に幅5m程の陥没が発生した。
2、事故地点の40m地下ではNEXCO東が高速道路用のトンネルを掘っていた。
3、フジによると現場では数日前から何らかの異変(前兆現象)があったらしい*1。
 この手の事故は過去何度も起きており珍しくはない。施工があまりにもお粗末で下手過ぎるということ。ズバリ言えば話にならない、擁護もできない。何故か?
1、地盤について;事故発生地点の地盤は地下水が豊富な砂地盤*2と考えられる・・・そうでなければ陥没は生じない。高速道路だから最低でも断面は10数mはある。こういう地盤に大断面トンネルを施工するには何らかの補助工法の併用が必要だが、それを無視している。
2、工法について;工法はシールドだ。これは深さ(大深度法のギリギリ)と地表条件(密集した住宅地)から見て、これ以外に選択肢はない。但しシールドでも色々あって、採用した工法が地盤に合っているかどうかは別。
 採用した工法が地盤に合わなかったり、坑内のトラブル・・・例えば電源が落ちてポンプが停止するなど・・・で排泥システムが損なわれると、地盤の緩みが発生する。地盤が緩むと地下水流動が加速され、さらに緩みが広がり、最終的に陥没を起こす。
3、問題点と対策;地盤の緩みは時間をおけば置くほど拡大する。深さを考えると最終的には影響範囲は150~200mに達すると予想される。要は、そうならない内に緩みの拡大を防ぐことである。
 対策としてはとりあえず地上と坑内からウレタンを注入して地下水の流動を抑える。地下水流動が止まれば地盤の緩みも抑えられる。その間に次の対策を考える。対策としては「凍結工法」などが考えられるが、何を使うにしても難しい。
 多分現場はパニック状態なので、最も避けなくてはならないのは、国交省の役人とか政治家が余計な口出しをして混乱に輪を掛けることである。落ち着いて頭を冷やして考えること。その時の必須アイテムは正確な地質情報である。周辺地域に入念な地質調査を行い、事故地点及び前方の正確な地質断面図を作成し、それと相談すること。頭の悪い土木屋同士が幾ら相談しても拉致は開かない。
*1;ある報道によると現地では今年2月頃から、異常な振動や音が発生し、住民から苦情が出ていたらしい。深さ40数mのシールド工事で、地上までそんな騒音・振動が発生するとは普通は考え難い。大抵は全く気が付かない内に通り過ぎるものである。原因としては掘削地盤の土質が硬質岩塊を不均質に含む砂礫層でシールド本体が振動を起こしたり、切り刃で崩壊が既に始まっていたというような現象が考えられる。
*2このような地盤が偶然に現れるというのは考えにくい。例えば洪積層中に「化石谷」があって、そこに地下水が滞留していた可能性も考えられる。このモデルの方が今回の陥没事故を上手く説明できる。谷の幅を何らかの方法で決められれば、対策工でも、・・・工法は別にして・・・その所要区間長を決められるので話が早くなる。
(20/10/20)