グアテマラ陥没(2)

グアテマラで又大雨が降っているらしい。これが終わると、またまた陥没が起こるかもしれません。その内、グアテマラ高地は無くなってしまうでしょう。
(10/09/06)


 07年に続いて、最近(10年5月)に再びグアテマラで陥没が発生しました。規模は前回と似たようなものです。前回〔グアテマラ陥没(1)〕で、将来、陥没が多発するだろう、と予測したらその通りになりました。この種の事故に関する議論で大事なことは、事故の再発を防ぐこと、そのために何をすればよいかを考えることで、徒に不安を煽ったり、興味本位に奔ることは避けなければなりません。インターネットを見ていると、前回の陥没も含めいろいろ情報が集まったので、とりあえずそれを整理して陥没のメカニズムを考えたいと思います。

1、下図はグアテマラ市周辺の3D映像です。市は三方を山に囲まれた台地上に発展していることが判ります。この台地が何で出来ているかが問題ですが、常識的に考えれば、付加帯中の石灰岩です。日本で云えば、山陰の阿哲・帝釈台辺りに相当するでしょう。

図-1


2、前回も今回も陥没の規模形態はよく似ているので、両者を作るメカニズムは同じと考えられます。
3、このメカニズムについては色々取りざたされていますが、ズバリ石灰岩ドリーネ説が正解。但し、ドリーネが形成されるためには地下(これまでの情報では地下150mぐらいか)に何らかの空洞があるはずです。この空洞の大きさには制限はありません。人が入れる規模の鍾乳洞のケースもあれば、水さえ流れればよい小さな割れ目でも構わない。洪水説もありますが、洪水は只の誘因であって、主因ではない。

図-2

 これは三重県のある石灰岩鉱山。中央に三つ小さい穴があり、そこから水が沸き出しています。これが大きくなると、鍾乳洞となりドリーネを作って、グアテマラのような大陥没を引き起こします。グアテマラでも、台地の下を調べれば、必ずこのような穴があります。これを対策しなければ、何度も同じ失敗を繰り返します。なお、グアテマラ市はいずれ陥没により、地上から消え去るでしょう。
4、陥没が発生する数年とか数日前から地下で音がしていたという住民証言があり、最近の洪水で地面が陥没したなどという人がいますが、こんな大規模縦穴がそんな短時間で出来る訳がない。まず、遙か過去に、石灰岩中に上の写真のような小さい空洞が出来る。石灰岩中の縦割れ目を伝って縦方向に空洞が成長する。これがドリーネ(下図参照)です。今回の陥没はドリーネが地表に到達したケースです。

図-3

5、もう少し細かく陥没過程を考えてみましょう。図-3のような空洞ードリーネ系が出来るには、通常数万年ぐらいは懸かる。おそらくそれぐらいの時間を懸けてグアテマラ市街の地下にはドリーネが形成されてきた。しかし、直ぐに地表まで達するわけではない。重力によって落ちようとする力と、それに抵抗する力(剪断抵抗力)があるからだ。しかし、長期間の間には、剪断抵抗が段々と弱まり、序序に空洞は成長する。重力と抵抗力が釣り合っている限り、地表にはなんの変状もなく、人々は平穏な暮らしを続けていける。しかし、その間にも地下では空洞の拡大が続いているのです。空洞がある深さ(限界自立高さHc=c´(45゜+φ´/2)/2)迄達すると、後は何時陥没を起こしても良い状態になる。これに何らかの力が引き金となって作用すれば、簡単に崩壊する。つまりグアテマラ市は数年前から、こういう状態になっていたはずです。大雨と洪水は、その仮の安定状態を破壊する引き金にすぎない。
6、ではどうすれば良いでしょうか?神に祈っても大した解決にはならないでしょう。対策には次の3段階が挙げられます。
1)予知
 他に陥没が発生しそうな箇所があるかどうかの調査である。これには@空洞を作りそうな場所の調査(慨査)と、空洞が生じているかどうかの確認調査(精査)の2段階に分かれる。
@慨査 
 図-1を見ても判るように、空洞は岩盤中の割れ目の交差点付近に出来そうだ。空洞発生の候補地である。これを探すには、グアテマラ台地全体を含む広域地質調査が必要で、補完手段としてマルチバンドの衛星画像解析やレーダースキャナー探査などの併用が挙げられます。但し無料では出来ません。
A精査
 @で候補地が見つかれば、具体的に空洞が存在しているかどうかを調査する。この方面の調査法は、未だ十分ではないものの、近年進歩を遂げている。地下数10〜100数10m、直径数m オーダーの空洞探査法としては、高周波のMT探査や微重力探査などが挙げられる。逆に、このような探査法で引っかかるようでは、空洞は十分な大きさを持っていると考えて良いでしょう。
2)予測
 1)予知で空洞が見つかれば、それに対して危険度判定と監視を行います。これには振動計とAE測定が挙げられます。陥没の前に振動があったという住民証言があります。これは空洞周囲の岩石の崩壊によるものです。岩石が崩壊する前には前駆現象として、微少な割れ目が発生し、それに伴い僅かな音が生じる。これがAEで、これをキャッチすることがAE測定です。グアテマラ市内地下に何カ所かAEセンサーを埋設し、AEの発生を監視する。AEが発生すればそれがどこからか判る。AEカウントが累積し出せば、その地区には避難勧告を出す。なお、AE法は日本では20数年前の栃木県大谷町陥没調査や、それ以前からもトンネル落盤予知に使われているので、別に珍しくもなく、実績はあります。
 更に振動計に反応が出てくれば、相当危険なので、直ちに住民を避難させる。これぐらいやれば、なんとか陥没被害を極小化できるでしょう。グアテマラでも当然やっていると思いますが。
3)対策
 陥没に対する最終解決法はありません。一番良いのは都市をそっくり移転させることです。そういっては実もふたもないので、その中間として何とかならないか、と言われると幾つかアイデアはありますが確実と言えるものはありません。ワタクシなら、とりあえずは、グアテマラ市地下に広域排水トンネルを掘り、それと空洞とを繋いで、地下水を確実に排除しておく。又、既に出来ている空洞については、単なる埋め戻しのような単純なやり方は採りません。少し複雑なやり方になります。

 それよりも何も、まず第一は陥没メカニズムの確認。そのためには、現在の陥没孔の崩壊土砂を一旦撤去し、専門家を孔内に入れて陥没構造を確認し、その上で対策工を講じるべきでしょう。こういう細かい仕事は、アメリカ人には不得手なので、日本人に任せた方が良い。

 それにしても、すさまじいグアテマラ市の住宅密集度。地方から多くの農民が、首都に集まって来ているのでしょう。そこで発生するのは当然貧困、格差。この都市の問題は陥没よりはそっちでしょう。
(10/06/07)

グアテマラ陥没(1)

 これは先日、中米グテマラはグテマラ市で発生した陥没の状況です。直径は20〜30m、深さ約150mの竪穴が開いた。その後当局は地下の下水管が破損して陥没が生じた、と説明しています。しかしそんなこと信用出来るでしょうか?第一、地下150mの深さに下水道をどうやって敷設するのでしょうか?各家庭から150m下の下水本管まで縦坑を掘るのでしょうか?馬鹿げた説明はいい加減にして貰いたいものです。
 本地域の基盤が石灰岩台地だという可能性が考えられます。石灰岩中の鍾乳洞が発達してドリーネを作り、それが陥没孔となって地表に達したというのが考えられるストーリーです。数年前、日本でも岡山県で同じような陥没が発生しています。逆に言うと、この地域では将来この種の陥没が多発するということです。それが噂になるのが嫌で、当局は下水道破損という話しをねつ造したのでしょう。
 なお、写真を見ると、陥没地盤は大きく2層に分かれます。上部は地下数mまでの赤色層。その最下部白色層がありますがこれが何かは判りません。これらは最も新しい堆積層です(沖積土?)。その下の褐色層はやや締まった砂質土層です。日本でいうと大阪層群相当でしょうか?その後、別の写真がインターネットに掲載されていたので、それを詳細に検討すると、赤色部は石灰岩の強風化部で、石灰岩がラテライトしたもの。赤色部の下に薄く見える白色部は石灰岩の成分(おそらく炭素)が、地下水により溶脱を受けた部分と考えられます。

ギアナ高地の巨大陥没孔と石林


ギアナ高地が出来たのは数億年の昔と云われます。NHKスペシャルの解説に従って、全体をレビューしてみましょう(但し、途中で筆者の見解に変わります)。
1、約20億年前のゴンドワナ大陸の一部に広大な湖が出来、そこに大量の土砂が堆積する。これがギアナ高地を作るロライマ層群。約2億5千万年前(ということは二畳紀末か三畳紀の始め)ゴンドワナ大陸は分裂を始め、ジュラ紀にはほぼアフリカ大陸と南米大陸は分離する。
2、数億年前頃からロライマ層群は隆起し、2000万年前頃(とうことは中新世半ば)にギアナ高地を作る。浸食により、高地の周辺に斜面が出来る。
3、地下に微細な割れ目が出来る。大きさは幾ら小さくても構わない。但し、斜面まで達していること。
4、この割れ目を伝って地下水が流出する。それに伴い割れ目周辺の岩盤が浸食され、初期空洞が形成される。
5、浸食が進み、初期空洞がある程度大きくなると、空洞周辺の岩盤が緩み、断続的に崩壊を繰り返す。この結果、空洞は加速度的に成長する。
6、空洞の何処かに、縦方向に脆弱な部分があると、そこでは崩壊は垂直方向に拡大し、地下に縦抗が形成される。
7、縦抗が地表近くに達し、ゆるみアーチが地表に達すると、一気に陥没する。
 ここで、4、5のプロセスが始まったのは、大体2000万年前あたり?と言うことは中新世で、丁度アルプス造山期に当たります。6が始まったのはせいぜい数100万年のオーダーでしょう。7は非常に最近のことと考えられます。まず、穴の周囲が明瞭だから長期的な二次崩壊の影響を余り受けていない。高地上の植生と穴の中の植生が共通している模様なので、高地表面が熱帯雨林化して以降。おそらく1万年以内。地表に穴が空いたのはグアテマラ陥没と同様、殆ど一瞬の出来事です。崩壊年代は、穴の廻りの地表で最も新しい土壌の年代と、穴の中に保存されている最も古い土壌の年代を測定すれば、かなりの精度で決定できます。
 では、この穴はランダムに発生したのでしょうか?どうもそうではなく、何か規則性を持っているようです。
 日本の様な変動帯では、こういう弱線は断層のような構造線であることが多く、それは主に地震によって作られます。しかし、ベネズエラのような地震の無い地域では、別の理由を考えなくてはならない。
上の図のように、台地の両脇に垂直に近い崖が出来ると、台地端に引っ張り応力が発生し、永い間には引っ張り亀裂が出来てそこから崩壊が発生し、新しく切り立った崖が出来ます。すると更に内側に新しい引っ張り亀裂が発生し、そこに陥没孔が発生する。更にそれが崩壊を繰り返す。穴を繋ぐ直線は、このようにして出来た引っ張り亀裂である、とするモデルは考えられます。無論、地震(ギアナ高地の隆起を作った造山運動に伴う)が考えられれば、話しはずっと簡単です。但し、それを証明する為には写真だけでは無理で、現地で岩盤の割れ目解析をする必要があります。割れ目にストリエーション(擦痕・・・岩盤が剪断で破断したときに出来る模様)が見つかれば、地震説で決まりになります。
 現在、台地の周囲には鬱蒼としたジャングルが広がっていますが、かつてはここにも同じような台地が在ったはずです。それは上に述べた様なプロセスで陥没と崩壊を繰り返して、地上から消えてしまったのです。周囲のジャングルの表面にその残骸が残っているはずです。
 では、引っ張り亀裂の発生と崩壊・陥没を繰り返して行けば、この台地は将来どの様になるのでしょうか?その良い例が中国雲南省の石林です。
 石柱が林立する中国石林の奇景は、いろんな旅行ガイドやTV映像などでご存じと思います。切り立った石が当に林のように林立しています。これは石が木の様に成長したのではなく、元もと台地を作っていた岩石が、崩壊・溶蝕を繰り返して今のような状態になったものです。
 石林はギアナ高地と異なり、石灰岩で出来ています。石灰岩と云ってもその中には硬いところ、軟らかいところがあって、堅さは一定ではありません。そこに割れ目が入る(中国では地震の影響を考えて構いません)と、割れ目を伝って雨水が浸透します。石灰岩は岩石といっても炭酸カルシウムの塊ですから、簡単に水に溶ける。次第に割れ目は拡大して、地下に空洞を作る。これが横に連なったものが鍾乳洞、縦方向に拡大したものがドリーネです。軟らかい部分は次々と崩壊・溶蝕を繰り返し、次第に横方向に拡大します。ついには、硬い部分だけが針のように取り残されます。これが石林です。
 ではこの石林は最期はどうなるのでしょうか?幾ら硬い部分が残っていると云っても、所詮は炭酸カルシウム。いずれは溶けて無くなります。数万〜数10万年後には跡形もなく消え去っているでしょう。
 同じようにギアナ高地もいずれ消え去ります。現在のギアナ高地は元のロライマ層群堆積盆地の1/10位でしょう。2000万年懸かって9割が無くなったとすると、残り1割の寿命はおおよそ200万年ということになります。つまり200万年先には、ギアナ高地も地球上から消え去っているはずです。では無くなった部分は何処へ行ったのでしょうか?みんな海に流れ、ギアナ高地から流れ出した砂や泥は大洋底に堆積し、島を作ったり、石油や天然ガスを蓄えたりしているかもしれません。石林の石灰岩は海水中の炭酸カルシウムとなって、珊瑚や貝殻、鯨や魚の骨に変化しているわけです。このように地球上では常に死と再生のドラマが繰り返されているわけです。

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