13´09 パキスタンの地震島

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


泥火山か泥ダイアピルか?パキスタン南部で何故こういう現象が起きるのか?】

 27日に、ネットを見ていると、ある外国人学者が、これを泥火山と説明していた。ところがワタクシこれを泥ダイアピルと考えている。火山とダイアピルとでは、何処がどう違うのでしょうか?どちらも基本的メカニズムは同じです。地下に流動性に富む、軟らかい泥質の堆積物が厚く堆積しているところへ、急激な力が作用したとき、堆積物は安定性を失ってしまう。
 深 さZの地下の有効応力は次式で表されます。
      σ´=σaーU
         σ´;有効応力
         σa;全応力でρZで表される。ここでρは土の密度
         U;間隙圧で U=Uw+Ua
             Uw;間隙水圧  ここで地下水圧が静水圧分布の場合 U=ρw(ZーZw)
                 ρwは水の密度、Zwは地下水位
             Ua;間隙空気圧或いは間隙ガス圧
 ここに刄ミという力が急激に作用すると、儷という間隙水圧が発生する。儷は次式で表される(式の誘導は結構複雑なので省略)。
      儷=刄ミ/(1+n(mf/mv))
        ここで、n;土の間隙率
             mv;土の骨格構造の圧縮率
             mf;流体相及び気体相の圧縮率
             儷;発生する間隙水圧
        正規圧密粘土ではmf/mv≒0なので
      儷≒刄ミ
 この増加間隙水圧儷は時間とともに消散し、元の状態(=0)に戻るが、粘性土の様な透水性の低い土の場合(粘性土の骨格構造は砂や礫の様な粒状体の集合ではなく、針状の粘土鉱物が、綿毛状に絡み合ったもので、その表面は+かーに帯電している。これが間隙水中のイオンと互いに引き合い、水の流れを拘束する)、間隙水圧は短時間では消散しない。地震の様に繰り返し応力が作用すると、間隙水圧が間隙の中に蓄積される。ここで重要なものは間隙ガス圧である。ガス圧も同じように繰り返し応力で高くなる。ある物体の中で、水圧とガス圧が儷、儕だけ上がったとすると、その内圧の和は
      Uw+儷+P+儕
 である。ところで地震が終わって、外の圧力が元のUw+Uaに戻れば、この差が泥の骨格構造に向かう。その結果、粒子骨格が引き延ばされたり、破断したりする。こうなると泥は、もはや固体としての形は保たれず、流動化する。これが泥ダイアピルである。一方、間隙圧の蓄積が更に過酷になると、間隙水やガスは粒子骨格構造を破壊し、泥を伴って外に噴出する。これが泥火山である。今回の地震島の形成を見ていると、水の噴出は無かったので、泥ダイアピルと呼ぶべきである。
 だから、泥ダイアピルは地震の最中に起こるのではなく、少し遅れてから発生する。これは(1)今回の地震島や、前のインダス地震での泥ダイアピルが、地震が終わって暫くしてから始まったこと、又(2)今回の地震島でメタンガスの噴出があったことを裏付けている。
 この様な現象は珍しいものか?泥火山と泥ダイアピルは伴って起こると考えられる。泥火山は前世紀だけで、7件の目撃例があった、と云われる。目撃されていないのも多数あるはずなので、地球上では少なくとも数年〜10年おきに起こっていると考えられる。
 日本では四国や紀伊半島南部の四万十層群の中に、分断された砂岩や、軸が横倒しになった過褶曲構造の様な異常堆積構造がよく見られる。これらは泥ダイアピルの化石と考えられる。決して珍しいものではないのである。

 では何故パキスタン南部でよくこの様な現象が起こるのか?これをプレートテクトニクスを用いて説明します。
 インド亜大陸はかつては超大陸パンゲアの一部として、オーストラリアと一緒に南極大陸にくっついていました。約2億年前(三畳紀)にパンゲアから分離し、北方に移動して古第三紀末にはユーラシア大陸南部に衝突付加した。第四紀に入ってこの地域は隆起に転じ、現在のヒマラヤ山脈やチベット高原を作った。ヒマラヤ山脈から流れだした水が、ヒマラヤとインド亜大陸との境界の低地帯を東に流れたのがガンジス川、チベット高原から流れ出し、ヒマラヤの脇を通って南に流れるのがインダス川。どちらも産まれたのは、今からせいぜい200万年程度だから、非常に若い川と云える。ヒマラヤの隆起速度は世界でも最大級だから、毎年莫大な土砂が吐き出される。それが河口に堆積すると、ガンジス川ではガンジスデルタ、インダス川ではインダスデルタという、広大な三角州を形成する。ここでは莫大な泥土が堆積し、豊かな農地を作る。この泥土が、今回の地震島、つまり泥ダイアピルを作る素になっている。
(13/09/29)

今朝ネットを見ていると、地震島を作った原因は、地下のマッドダイアピル(昨日の予測の後者の方)と言うことが判ります。つまり、地下のダイアピル(塑性流動)作用によって、上の地層が持ち上がった現象です。まず全体を見てみましょう。


図-1

 これは地震島の全体像です。島の側面に細かい筋が入っているのが判ります。特にはっきりしているのは、島の中央右下に入っている筋です。これらは地層の境界を表します。そして特徴的なのは、これらの筋が、水平ではなく湾曲していることです。これは島のほぼ中央を軸とする、背斜構造を作っています。つまり、この軸の下にダイアピルの中心があったことが判ります。


図-2

 これは島の頂部の一部です。沢山の割れ目が入り、地層がバラバラに砕けている事が判ります。島が持ち上がると、周辺には引っ張り応力が作用します。その結果引っ張り亀裂が発生して、地層がブロック化していくわけです.

 なお、この地震島何時までもあるとは限りません。ダイアピルを起こした地下の間隙圧が低下すれば、、この地震島は又海の底に沈むかもしれないのです。それが何時かは、判りませんがね。まあ、今だけの現象と思っておけば良いでしょう。何故パキスタンの南部で、こういう現象がよく起こるかは、後ほど。
(13/09/26)  

 パキスタンでM7.7の地震。海上に直径230mの島が出現した。島が沈んだのなら、液状化だが、出現したのだから違う。島の写真が未だ届いていないのではっきりとは言えないが、マッドダイアピルかマッドボルケーノ(泥火山)の可能性がある。数年前のパキスタン南部地震では、陸上に長さ100m程のマッドダイアピルが出現した。
 今回現れた島が泥で出来ていれば、泥火山だし、そうでなければ、地下でダイアピルが生じ、その圧力で上の地層が持ち上げられたのかもしれない。なお、液状化と違ってダイアピルは長期間(1年以上もある)継続するから、今後この島がどうなるか、興味深々ですねえ。
 又直径数100mそこそこのダイアピルなど、大したことはない。日本には紀伊半島南部の中新統の中に、直径10数qのダイアピルの跡が残っている。
(13/09/25)