「秋葉の火祭り」は実は雨乞い祀り

 今年の西日本は記録的な干天続きです(もっとも今日から本格的梅雨空になりましたが)。四国の某ダムでは、河童のような格好で雨乞い踊りをやっていました。これなどはご愛敬ですが、仏(密)教にも降雨術というものがあります。どういう様にするかと云うと、壇を築き、曼陀羅を掲げ、壇上で大量の護摩を焚き・・・降雨術に火を使うとは面妖な、と御思いでしょうが、これはこれで理に叶っている・・・導師が請雨経を謂するというものです。分類上はいわゆる前期密教(雑密)に属するものです。
 平安時代、日照りが続いたので、朝廷の要請で、比叡山の高僧・・・純密に属する天台宗がこのような俗事をやるのも不思議ですが、純密行者は雑密もクリアーしていなければならないということでしょう・・・がこの降雨術を行ったところ、あら不思議、一天にわかにかき曇り、雨が降り出し、人々はその法力に畏れたという伝説が残っています。
 この現象は次のように説明できます。まず、大量の護摩を焚き大きな火柱を作ります。火柱の温度はどれぐらいかというと、我が家に比叡山の某別院で行われた護摩焚き(室内)の写真がありますが、それから推定すると、火柱の中心部ではおおよそ1500゜C以上になっているようです。なお、このような高温になると普通の人間では近寄れないので、導師はそれなりの修行を積んだ人で(上の例で挙げた導師は千日回峰行を何度もやった大アジャリと云われる人)、導師自身も何日も前から塩絶ちなどの前準備をしておかないと生命の危険があるらしい(現代では別室に医師・看護師が待機していないとうっかり出来ない)。降雨術では、これを野外で大規模に行うわけです。朝廷(国家)の威信を懸けた降雨術ですから、現代の公共事業と同じで金に糸目は付けません。使われた護摩木の量もハンパなものではないでしょう。さて、このようにして高温の火柱が出来ると、その周りの空気は加熱され、周囲に高温の上昇気流が発生します。これが上空の冷たい空気の層と衝突すると、そこに水滴が発生し、最後に雨になります。これは、冬の窓の結露、火山の噴火や原爆の爆発後に雨が降るのと同じ原理です。古代インド人が何故、このような原理を知っていたのか、それも謎ですが、これの方が雨乞い踊りよりは理屈にかなっています。なお、最近よく見られる都市型集中豪雨も、このメカニズムで発生しているのではないかと考えられます。ヒートアイランド現象で都市熱が高くなり、空気が加熱されたところに高層ビルがあると、これが火柱の芯となり、それに沿って上昇気流が発生して集中豪雨が発生しやすくなるのではないか。大阪も最近市内で超高層建築が盛んになっています。そろそろ下水道の断面拡幅を検討しておいた方がよいでしょう。
 我が国によく見られる火祭りも、ひょっとすると古代の降雨術が変化したもので、農業仏(神)事が儀式化したものかもしれません。但し、降雨術の場合は実際に雨を降らせようとするのですから、火の量もけちなものでは効果はありません。又、何日にも渉って空気を加熱する必要があります。莫大なエネルギーが必要です。しかし、それから得られる雨の量はたいしたことはない。費用対効果を考えると、全く採算にあわない。他に沃化銀を使った人工降雨法がありますが、これも将来の健康被害補償や裁判費用を考えれば、採算線上に載るものではありません。従って、一時的渇水対策には、別の安定水源を確保しておくべきだ、というのが結論になります。(07/01)


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