中越沖地震色々
今回の中越沖地震は、現在様々な形でメデイアに取り上げられています。しかし、地震の規模も直下型地震としては普通のものだし、被害も特に際だって珍しいものはない。殆どは阪神淡路大震災で見慣れたものです。只、違うのは、稼働中の原子力発電所が地震に遭遇した、世界で始めての例だということです。そこで出てきたのが、訳の判らないコメンテーターや評論家の、幹も枝葉も一緒にした滅茶苦茶な評論・議論。これに与野党政治家や総理大臣まで一緒になるからかなわない。ここでは、一つまともな議論をやってみたいと思います。
東電柏崎原発関連(3)
東電柏崎原発関連(2)
中越沖地震の断層(1)
地震災害(1)
・柏崎市の無責任
・柏崎ゴミ処理場煙突破損
東電柏崎原発関連(1)
中電浜岡原発即時操業差し止め訴訟に対し、原告敗訴の一審判決(静岡地裁)。まあ妥当な判決とは思うが、問題がないわけではない。一審判決では原発場内で見つかっている断層を、既に固着しているから活断層ではないと結論づけている。断層面が固着しているかどうかと、活断層かどうかとは関係はない。その断層が現代で震源断層になりうるかどうかが問題である。これの判定には、第四紀後期における地殻応力場での位置づけを明確にしておかねばならない。その点の吟味が十分に行われているかどうか、が疑問である。被告側証人の入倉先生も、原告側証人の石橋も地震屋(地球物理屋)である。双方とも断層の実体がよくわかっていないのではないかと懸念される。我々地質屋は、断層をきわめて厳密に認定するが。
筆者自身は、浜岡原発の地盤や建物の安定性については、それほど心配していない。むしろ問題は津波だろう。今のところ、中電は過去の津波高から現在の浜岡原発は安全であると主張している。しかし本当だろうか?過去の最高津波高と原発の地盤高の間に、それほど余裕があるわけではない。津波高は、同じ地震帯の中でも、発生地点の水深で大きく異なる。過去の経験はそれほど当てにはならない。なお、津波や地震被害は原発だけではなく、周辺地域にも平等に発生する。地元自治体が中電や国からの電力交付金を、どのような目的でどのように使用しているのか?市民団体はむしろこの方面に目を光らせるべきだろう。
(07/10/26)
今回の中越沖地震は、現在様々な形でメデイアに取り上げられています。しかし、地震の規模も直下型地震としては普通のものだし、被害も特に際だって珍しいものはない。殆どは阪神淡路大震災で見慣れたものです。只、違うのは、稼働中の原子力発電所が地震に遭遇した、世界で始めての例だということです。そこで出てきたのが、訳の判らないコメンテーターや評論家の、幹も枝葉も一緒にした滅茶苦茶な評論・議論。これに与野党政治家や総理大臣まで一緒になるからかなわない。ここでは、一つまともな議論をやってみたいと思います。
柏崎原発関連(3)
想定外の地震とは、事前の応答解析で想定された卓越周期より、長周期側で発生した大きな揺れです。当初これは地盤に起因するものと思っていましたが、地盤系の地震動記録を検討すると、これは地盤によると云うより、建家の構造に由来する可能性が大きくなりました。
対策は色々考えられるので、ゆっくり考えて下さい。ワタクシは最早耐震構造よりも、免震工法や制震機構を取り入れるべき、と考えています。
以下は
ここをクリック。
東電柏崎原発関連(2)
原子力安全委員長が早速、「消火栓まで安全審査の対象にすると使い勝手が悪くなる」と牽制球を投げる。今時こんな事を言うなら、始めから詰まらぬ事を言わぬ方が良かったのだ。こういう腰が定まらぬ委員長こそクビにしたほうがよい。この委員長、あまり世間のことが判っていないのではないか?建築物の消火栓の配置・構造は、消防協議で決まる。消防署がOKと言えばOKだし、NOと云えばNOなのだ。消防署はいつ何時でも栓が開けられて、水が出るようにしておけ、というだけ。それをどうするかは、電力会社の責任で解決するのだ。だから、電力会社の使い勝手で決まるものではなく、原子力安全委員会が口出しすべき問題でもない。電力会社は消防署の指示に従わなくてはならない。電力会社が従わない時は、消防署は使用許可証に判子を押さないから、県も発電所の使用許可証をださない。その結果、いつまで経っても発電所は動かせない。柏崎は再会の目処が立たないことになる。使い勝手云々の問題ではなく、電力会社がどれだけ安全を担保するかの姿勢の問題だ。原子力安全委員長というものは、そもそもが電力会社の回し者だから、こういう発言がでるのだろう。委員長がこのような姿勢では、ことは経産省vs総務省のバトルになりかねない。
(08/07/25)
IAEAが柏崎原発を視察して、「被害は微弱」と発表。これで政府や行政は一安心、一件落着と行きたいところだろう。ワタクシは元もと原子炉本体が停止している以上、被害はこれ以上に拡大せず、又、連日TV・新聞で報道されている発電所内の異常も、原発の安全性とは無関係の枝葉末節の問題と考えていた。一応IAEAと見解は一致したようである。但し放射能漏れは別。しかし、世間やマスコミがこれで満足している筈がない。原理的反原発主義者や、無知なる環境系市民団体、それに迎合するマスコミ、或いはこの騒ぎで東電から幾らか巻き上げようとたくらんでいる悪党達(これには地元の漁業組合から政治家まで、様々なレベルがある)が、今後も色々騒ぎ立てるでしょう。その一例が、原子力安全委員会で、「今回の地震は良い実験だった」と発言した東大教授が委員をクビになった件です。反原発主義者は、この東大教授に対し「今更実験などと云わず、実験してから造れ」と反発する。一見もっともに見えるが、これは反原発主義者が如何に「実験」というものを理解していないか、ということを物語っているのである(反原発主義者には、理科の苦手な文系人間が多いから仕方がないかもしれないが)。重要なことは、今回の地震被害を他山の石として、他の原発の地震対策に役立てることである。
ここではその後公表されたデータを基に、原発の地震対策の問題について検討してみよう。
1、原子炉建家と長周期地震動・・・・何が想定外だったか?
ここで云う「長周期地震動」とは、一般的に云う周期数秒程度の地震動を指すのではなく、設計上の卓越周期に対し相対的に周期が長い振動のことである。今回の地震で、稼働中の原子炉の一部から微量の放射能漏れがあったことが確認された。・・・・・・
加速度だけでなく、周波数領域でも想定外であったことを検討します。
以下はここをクリック
中越沖地震の断層(1)
・地震は何故断層の端っこに起こるか?・・・・誰でも出来る簡単な震度予測法
・近畿地方にもこんな断層があるか?
を追加しました
(07/08/04)
地震に関連して、断層の記事もマスコミを賑あわせています。それはそれで結構ですが、一般ピープルには何のことかさっぱり判らない。そのあげくが、「断層て恐いんやなあ」という曖昧印象しか残らない。それが極端になると、様々な社会的リアクションが発生し、物事を訳の判らない方向に引っ張っていこうとすることになりかねない。その原因は、不完全な情報と、浅薄な知識、冷静な判断力の欠如です。ここではこれまで公開されている情報に基づいて、今回の地震を引き起こした断層について、出来るだけ判りやすく解説したいと思います。
なお、これの根拠は東京大学地震研究所による次のレポートに依っています。
1)平成19年(2007年 )新潟県中越沖地震の地質学的背景;佐藤、加藤 (07/07/24)
2)2007年新潟県中越沖地震の余震活動(07/07/24)
3)2007年新潟県中越沖地震の余震活動(07/07/26)
余震の断面分布は3)を採用しています。未だ基礎データの変更があるようなので、データが確定した後に、もう一度再検討してみたいと思います。
(07/07/29)
以下は長文になるので、ここをクリックして下さい。
地震災害(1)
柏崎市の無責任
マスコミでは、連日東電の責任ばっかり問われていますが、柏崎市に責任はないのでしょうか?柏崎市の無責任体質も相当のものと思います。
1)備蓄食糧の配布を丸一日忘れていた。柏崎市西山町が備蓄食糧があるにも関わらず、それを把握していなかった為に、被災者への食糧配布が丸一日遅れた。これに対し、西山町は、仮に食糧備蓄を把握していたとしても、本庁の指示が無ければ配給出来ないと逃げを打つ。一方柏崎市は、そんなもの無くても自主的に判断すべきだと反論。ズバリ、柏崎市も西山町も担当者が地震対策についてさぼっていただけだ。
2)柏崎市での家屋被害の多くは、築50〜60年経過した老朽家屋。実はこれは阪神淡路大震災で経験済みのことだ。伊丹・宝塚方面での木造家屋圧壊の原因の大部分は、白蟻による梁・柱の腐朽によるものであることは周知の事実であり、消防(即ち自治省《現総務省》)も把握していたはずである。新潟県は3年前に長野県中越地震を経験しており、もう少しましな対応がとれたはずなのだが、それが全く出来ていない。
報道によると、柏崎市では老朽家屋の殆どが耐震補強をしていなかったと云われる。又、水道管の一部が劣化し、地震で破損し給水が不可能になった例がある。この水道管は設置後半世紀を経過していた。
さて、財政事情の厳しい地方自治体では、水道管の補修もままならなかったり、一般住宅への耐震補強の援助も不可能だ、ということは珍しくないだろう。しかし、柏崎市には国や電力会社から毎年莫大な電力交付金や協力金が入ってくるのである。選挙の時には電力会社から、使途を問わない寄付金まで入ってくる(関電や中国電力の例を見よ)。これらの資金を家屋の耐震補強の補助金や地域の防災インフラ整備に廻しておけば、地震被害は遙かに小さくてすんだのである。しかもこれに要する費用は交付金全体の数分の一にしかならない。一体全体、柏崎市は電力交付金や協力金を何につかっていたのか?この際、その明細を明らかにすべきだろう。これは単に柏崎市だけの問題ではない。その他の原発都市に共通する問題でもある。又、電力交付金は使途を勝手に出来ず、経済産業大臣の認可を必要とする。その点で、国、特に経済産業大臣の責任は厳しく問われるべきである。
(07/07/27)
柏崎ゴミ処理場煙突破損
柏崎ゴミ処理場のコンクリート製煙突が根元で座掘し、処理場機能が停止してしまいました。座掘部分で上下がややずれており、鉄筋が破断・屈曲してしまっている。この光景は、実は阪神淡路大震災でよく見られた、上下方向の座掘によく似ています。阪神淡路大震災での建築構造物の座掘原因として考えられたのは、鉄筋の段落としです。これは下層階より上層階の方が支える荷重が小さくなるので、鉄筋を全階等しく入れる必要はなく、上層階は下層階より鉄筋を減らして良い、とする考え方です。ところが、地震で段落とし部分で、多く座掘が発生する事が判った。そこで、その後の建築基準法は、段落としを禁止することになった。幾つかの原因が考えられます。
一つは地震により強い鉛直方向の加速度が加わった、とする考えです。地震時加速度により、通常の状態の何倍かの荷重が加わるケースです。地震時鉛直加速度をα煙突の自重をWとすると、最大αWの荷重が発生する。本地震では柏崎原発での最大鉛直方向加速度は6号機の488ガル=0.49gである。本消却場でのそれは不明だが、加速度は震源からの距離に応じて急速に減衰するので、この値がそのまま加わったとは考えられない。せいぜい0.25〜0.35gではなかろうかと思われる。つまり、常時荷重の1.25〜1.35倍ぐらいの荷重にしかならない。鉄筋コンクリートの安全率を考えると、これだけで簡単に座掘するとは思えない。
一つは強い水平力が加わった場合である。煙突は背が高いから、曲げモーメントが大きくなるので、根元で破壊することがある。しかし煙突は真っ直ぐ立ったままで、根元の部分で少しずっただけである。だから水平力による曲げ破壊ではない。
もう一つ考えられるのが衝撃波である。阪神淡路大震災で、鉄道高架橋に多くの被害が見られた。いわゆるX型の破断である。これも上部工荷重に地震力を加えても、破壊を説明することが出来ない。これの説明として、大阪市大チームが考えたのが衝撃波理論である。下から衝撃波が柱に入ってくると、衝撃波は柱の先端で反射し、下方に向かう。入力波と反射波の位相が一致すると大きく増幅し、構造物に大きな応力が発生する。これによって、高架橋の破壊が説明出来る。残念ながら、この理論は保守的な建築学会によって無視されました。
この煙突の映像を見ると、何となくこれが思い出させられます。
(07/07/26)
東電柏崎原発関連(1)
6号機クレーン取り付け部の破損 阪神淡路大震災では、神戸・阪神間で高速道路の落橋事故が相次ぎました。大体が、橋台間の相対変位が大きく、可動シューが外れたものです。今回はクレーンだから端点ローラーということはないので、おそらく構造は両端ピンの単純バリと考えられます。クレーン軸方向への変位が許されないので、地震で建家が大きく揺れ、端部の相対変位が大きくなった時に、一方に過大な応力(おそらく引っ張り)が集中したのではないかと思います。或いは、揺れが大きいと、相対的に一方が支点、他方が自由端となって大きく振り回されたような現象が起こったのかもしれない。
使用済み核燃料プールの漏水 3号機のビデオから推測すると、プールの水がスロッシングを起こしたようだ。そもそも原子炉建家の中3階辺りに設置しているのだから、揺れて当たり前とも云える。但し、スロッシングを起こすということは、やや低周波の波が長時間続いたと言うことを意味する。余震観測からは、2本の断層が分岐している様子が伺われる。各原子炉に最大加速度を与えた波とは別の波が作用した可能性が考えられる。地震の発生、及び構造物への影響メカニズムは、かなり複雑なものだろう。
各発電器で何故観測加速値がこうも大きく異なるのか?
東電のhpを見ると、柏崎原発で、1、2、4号機と他とで観測加速度が大きく異なるのは何故でしょうか?特にこの3機では、設計値と観測値との乖離が大きい。想定外と大きく報じられた680ガルというのは、1号機E-W成分。
各発電機毎の最大加速度(かっこ内は設計時加速度応答値 単位;ガル)
プラント |
位置 |
N-S |
E-W |
V |
1号機 |
B5F |
311(274) |
680(273) |
408(235) |
2号機 |
B5F |
304(167) |
606(167) |
282(235) |
3号機 |
B5F |
308(193) |
384(193) |
311(235) |
4号機 |
B5F |
310(193) |
492(194) |
337(235) |
5号機 |
B5F |
277(249) |
442(254) |
205(235) |
6号機 |
B5F |
271(263) |
322(263) |
488(235) |
7号機 |
B5F |
267(263) |
356(263) |
355(235) |
1、地盤構成が違うのか?・・・それなら設計時点でその差が出ているはずだ。設計時での地盤評価を加速度応答値から推測すると、1号機が最も悪く、次いで5〜号機、2〜4号機は比較的良好と判断していたように思える。特に2号機地盤は柏崎原発の中では、最も良好にランクされる。
2、基礎の構造が違うのか?・・・何らかの理由でこの3機が増幅された。
3、地震計の設置方法に問題があるのか?
よく判りませんねえ
(07/07/25)
柏崎原発停電の理由は変電用トランスの不等沈下。同原発の基礎地盤は、鮮新統西山層。関西で云えば、大阪層群最下部相当かそれよりやや古い程度。支持力は十分あり、トランス荷重程度で不等沈下を起こすわけがない。当該地区は盛土で、盛土が液状化を起こしたのだろう。場内各所で地盤が波打っているという報道があったが、これも液状化によるもので、特に珍しくはない。阪神大震災でも西宮海岸部で発生している
(07/07/19)
中越沖地震災害の当面の所見
中越沖地震について、あまりマスコミに載ってこない、マスコミが注目しないような点について、所見を述べておきましょう。
1、東電柏崎原発について
当原発については当初(国の安全審査)ではM6.5を想定していたが、今回の地震はM6.8だった。これは想定外だった、というのが東電の言い訳だが、実際は活断層の長さを誤魔化していた可能性が強い。原発立地地点に活断層が見つかった場合、よくやる手が@長い活断層は二つにちぎる、A短くする、B曖昧なのは消してしまう。この間の能登半島沖地震で、その後海底活断層が見つかった、などと言い訳していたが、実態は始めから判っていたが、能登原発と関電の珠洲原発の関係から消してしまった可能性が高い。原発だけでなく、大規模ダム(特に国の直営)でも、消されてしまったのではなかろうか、と疑われる断層はあるのだ。
何故、こういうことが起こるかというと、問題は二つあります。
一つは、国(経済産業省)と電力会社、原子力安全委員会が、実は裏で一体化しているからです。甘利が原発の安全性を厳しく審査するなどと声を張り上げていますが、あんなのは参院選向けパフォーマンス。実際に原子力安全審査など棚に上げて、電力会社の尻を叩いていたのは経済産業省(通産省)。
もう一つは、原発立地の許可条件が形式的過ぎる、ということです。上で挙げたように活断層の長さを短くするメリットは、想定地震動の規模を小さく見積もることが出来、その分コストダウンに繋がるということになります。しかし、実際そうでしょうか?柏崎原発では今回、想定地震動の2.5倍の揺れ(加速度680gal)が観測されたと云われますが、仮に設計地震動を680galとして設計して、建設費は2.5倍になるかというとそんなことはない。第一、用地費は地震動とは関係ない。直接建設費はせいぜい3〜4割り増しです。それも原子炉建家のような中核施設の話しで、その他の付属施設はとてもそんなオーダーにはならない。又、中核施設でも免震工法を取り入れれば、建設費はもっと安く出来る。仮にコストが2.5倍になったところで、そんなものは電力料金を少し上げるだけ直ぐに回収できる。つまりコストは関係は無い、ということです。
では何故、電力会社は活断層の長さに拘るのか?それは、原子力施設設置基準の中に「直下に活断層が無いこと」が条件の一つになっているからである。例えば、東電が新潟県で原発を作りたいと県に申し入れたとする。どの市町村もみんないやがる。その中で柏崎が手を挙げてくれば、東電にとってこんな有り難い話しはない。この間でも、東電は国(昔の通産省)から「さっさとやれ」と尻を叩かれていることに注意すること。そこで柏崎で行こうということになって、事前調査に入った(事前調査の義務、内容は法律で明文化されており、活断層調査もその一つ。電力会社として逃げる訳にはいかない)。それだけではなく、賛成派を作るために、ドンドン金を注ぎ込む。ところが、意に反して活断層が見つかり、しかもそれが原発予定地点まで延びて来ることが判った、とすると山崎さん(関西テレビ報道部デスク)、貴方が東電の担当者だったらどうしますか?普通の人間なら、上に挙げた@からB三つの方法のどれかを選ぶのですよ。しかも、そうした人間の責任は問われないシステムが、いわゆる「原子力村」では出来上がっている。活断層があるのに、無いと云って、首を吊った人間は誰もいない。しかし云うことを聞かなかった人間もいたはずだ。そういう人間は大抵クビになって「原子力村」から追放。そんな人間は、国の原子力政策の前には、只の捨て石に過ぎない。日本の原子力事業は死屍累々、優れた技術者の犠牲の上に成り立っているのですよ。
だから、設置許可基準の中に、「施設近傍に活断層があっても、その実態を十分に考慮し、対策に反映させる」ようにしておけば、事業者が敢えて誤魔化す必要は無くなるのです。
つまり、国(経済産業省」が、活断層だらけという我が国の実態を踏まえずに、きれい事だけの基準を作るから、誤魔化しがはびこる結果になるのです。
2、新潟平野の地盤
今朝8ch「トクダネ」にチャンネルを廻すと、いきなり「沖積層」とか「軟弱地盤」「固有周期」という言葉が飛び込んできました。画面には液状化の跡もあります。地震被害が柏崎に集中していることの説明です。「沖積層」とか「軟弱地盤」については今更説明するまでもないと思います。山崎さんなら、新潟平野になぜ軟弱地盤が出来るかを理解出来るでしょう。只幾つか付け加えておく必要があります。それは、@何故あの地区に柏崎市街地が出来たか、A砂地盤の液状化が何故起こったか、です。
6000年前には新潟平野は一面の海だった。それが3000年ほど前から海面が低下し、段々と陸地に変化した(新潟平野の形成)。この過程で、地表面下には腐植土が堆積し、それが最も新しい天然ガスを作るのは判りますね。その間に新潟平野には信濃川や阿賀野川といった大河川が出来、その河口から大量の土砂が吐き出される。この土砂は北東→南西方向の沿岸流(北半球ではコリオリ力により、時計回りの海流が発生する)により南西方向に運搬される。ところが、この流れは、その先にある東頸城山系の西端である米山山塊にぶつかり、その手前の北東側に滞留する(漂砂)。そこに大陸からの西風が加わって、砂が海岸に吹き溜まり海岸砂丘を形成する。その結果この部分は周辺平野よりは一段高い高地を形成する。周囲の平野は一面の湿地で、水田稲作農業には適しているが、あいにく信濃川や阿賀野川は暴れ川で水害が絶えない。人間の生活空間としては最悪である。そこで人間は水害を避けるために、砂丘の上に移り住む。ここに柏崎市街地が形成された理由がある。これに似た地形としては、近畿地方では和歌山県田辺海岸や京都府京丹後市網野海岸がある。今では殆ど判らないが、かつての河内平野では、旧大和川の流路に形成された自然堤防沿いに集落・市街地が形成された。今の近鉄大阪線は、旧大和川の河道沿いに走っているのである。こんなことは今の若い人は殆ど知らないでしょうねえ。この辺りを理解すると、関テレはキーのフジどころか、NHKよりズーット知的レベルが上がります。テレビでコリオリ力なんて云って見なさい、ミーンナびっくりしますよ。
3、JR青海川駅崩壊
何となく、行政の谷間で起きた事故のような気がします。まず、報道写真を見ると、この斜面では、既に数次に渉って崩壊が繰り返されてきたことが判る。これに対しJRが採ってきた手段は、法面補強のような積極的対策ではなく、トンネル手前のロックシェッドのような、受動的防護工でしかない。
本法面は、外形的に見ると、明らかに急傾斜地崩壊防止法指定斜面になる。それを何故今までほったらかしにしてきたのか、が今問われることなのだ。本法に指定されると、自治体は崩壊防止工事を行わなくてはならない。又、指定に当たっては自治体単独の判断だけではなく、地権者や関係者の同意も必要である。これがなかなか難しい。何故なら、地権者は用地を提供しなくてはならないし、工費は国庫補助もあるが、地元負担もある。鉄道安全という建前なら、JRも応分の負担をしなくてはならない。普通なら、新潟県が設計してJRへの委託工事になるはずだ。実態は、工費負担割合を巡って、国交省、新潟県、JRの間で協議がもつれ、その結果対策が先延ばしにされてきたのではないか、と疑われるのである。
対策工としては、法枠+アンカー工でほぼ決まりだろうが、下に鉄道、上に民家があるため施工は大変難しい。特に掘削土砂の排出計画が問題。従ってJRの協力がなくては、施工は出来ないかもしれない。ひょっとして、JRが何かを理由に知らん顔(つまり嫌がらせ。昔の鉄道省対内務省の対立を反映)をしたのかもしれない。土木の世界ではよくあること。
4、その他
地震報道に隠れてあまり目立たなかったのだが、当日河内長野で起こった法面崩壊で人が生き埋めになった事故がある。テレビ報道によると、当該法面は「現場打ち吹きつけコンクリート自在枠工(いわゆるフリーフレーム工)」により処理される予定だったが、鉄筋枠が施工された段階で法面の一部が崩壊し、作業員が生き埋めになった事故である。
さて、ここで用いられたフリーフレーム工法というのは特殊なものではなく、ズーット昔から法面工の標準工法だったのである。標準工法だから、これは役所も認めている、だから安全、従って何も考えなくて良いというのが、いつの間にか当たり前になったのだろう。ところで切土と言うのは、実際は掘削してから法面工を完了するまでが、一番不安定なのだ。この間何が起こるか判らない。そこで旧道路公団では、設計で出てきた法面工は飽くまで予算要求の為めと割り切り、実際に法面を切り落とした後に、不安定な部分は全部落ちてしまうだろうから、その後に実際に見合った法面工をやるのが、結局は安上がりという結論に達した。この考えでは、法面土工とその後の法面工の間に一呼吸を置かなくてはならない。実はこの一呼吸が重要なのである。河内長野事故では、これを省略し、法面土工と法面工とを同時並行で行った疑いがある。
高速道路の工事でも、施工中に法面が崩壊するのはざらで、それ自身珍しいことでも何でもない。しかし、そこに人身事故が加わると言うことが、極めて希なことなのだ。何故、人身事故が発生したか?普通、全面崩壊の前に前兆現象としての部分崩壊が発生する。これに注意しておけば、人身事故は防げるものなのだ。それが出来ていないと云うことは、現場に経験者がいなくなったこと、受注業者にそういう人員を配置出来る余裕が無くなっているということである。つまり、末端では素人ばっかりが日当目当てに何も考えず、闇雲に働いていることになる。これが規制緩和、成果主義のなれの果てである。
しかしこれは末端土木のことばかりと笑っていられない。今回の東電事故。放射性物質の漏出は量の問題ではなく、あってはならないことが起こったことだ。それは河内長野事故と性格としては同じなのである。しかも、それはシエスパガス爆発事故と、意味内容としては全く変わらないのである。
(07/07/18)