JR西日本は安全か


横井技術士事務所 
技術士(応用理学) 横井和夫

福知山線脱線事故強制起訴
山陽新幹線の問題


 

 JR高崎線事故の影響が未だ続いていますが、事故原因とされたのは架線碍子の腐食。テレビの映像ではそれほど腐食しているようにもみえなかった。もう一つ考えられるのは碍子を固定するネジの緩みである。ネジというものは振動が加わると必ず緩む。だから常時振動が加わる環境下では、定期的に締めなおさなくてはならない。緩みが進み隙間が出来ると、そこに雨水が浸入するから、そこから腐食が発生する。だから緩み対策を先行しなければならない。
 高崎線沿線は最近人口が増加し、そのため運行本数も増え、高速化が進んだ。そのため列車振動の頻度や大きさが増加する。この振動は架台から架線に伝わる。架線は両端フリーの状態だから、架台の揺れ方によっては自由振動を起こす。これがネジの緩みを発生させた疑いがある。
 これに似たケースに、国鉄民営化後山陽新幹線で発生したトンネルコンクリート片落下事故がある。この原因についてJR西日本は手抜き施工を挙げ、施工したゼネコンに損害賠償を求めている。しかしそうでしょうか?筆者はトンネル覆工の設計ミスと、JR西日本の過度な運行本数と運行速度の増大が最大の原因と考えています。
 なお緩みついては、世の中には絶対に緩まないネジとか、ネジを緩まさない方法がある。少々割高になるが、三日も電車を止めてそれから発生する損失に比べれば十分元は取れる。後は腐食対策だけをやっておけばよい。何故こうなったかというと、民営化後の過度なリストラだ。目先の利益を追求するばかり、営業を重視し、運転・保線を軽視する経営方針になった。特に一番に割を食ったのが、直接利益を産まない保線。保線と言うのは運転以上に経験がものをいう。経験のある保線屋をリストラ下ばっかりに、JRの基礎技術はすかすかだ。
(16/03/17)

本日JR山手線秋葉原ー神田間での架線支柱倒壊事故。JR東日本は早速支柱の老朽化が原因だ、この支柱は翌日取り替える予定だった、と責任逃れに必死。責任を部材や何かに押し付けて自分だけは助かろうという姑息な木っ端役人根性は旧国鉄時代から何も変わっていない。
 昼のワイドショーで問題の支柱を見ると、基礎からひっくり返っている。JRのいうとおり、部材の老朽化なら根元からぽっくり折れるはずだが、そんな様子はなく、支柱そのものにも大きな老朽化の跡は見られない。これは倒壊原因が支柱の構造破壊ではなく、基礎の転倒であることを物語っている。実際映像を見ただけで基礎が小さいことが判る。つまり原因は基礎の設計ミスだったのだ。
 当該支柱はもともとは単純梁だったが、新型支柱交換のため、梁が撤去され一本足で立っていた。それでは不安定だというのか、隣接支柱にワイヤーで連結された。何故こんなことをするのか理由が判らない。安定のためなら三点支持が原則だが近接施工ではそんなことできるわけがない。ワイヤーで連結すれば、ワイヤーに重力が働くからワイヤーが撓む。それにつれて、支柱に水平力が働く。この結果鉛直力との合力の作用点がミドルサードを外れて転倒する。返って転倒を誘っているようなものだ。これは高校1年の物理で学ぶレベルの問題である。
 両方の支柱を同時に撤去すれば何の問題もなかった。何故そうしなかったか理由がわからない。支柱同時撤去などそれほど難しい工事ではない。筆者の義父などもっと難しい工事をしょっちゅうやっていた。
 ずばり結論を言うと、今回の事故は支柱の老朽化でもなんでもなく、支柱基礎の設計および取替え工事計画のミスという人為事故である。国交省やJRは支柱の一斉点検を行うとしているが、これは対策として完全にピント外れ。これが国鉄民営化の成れの果てだ。
(15/04/13)

 後進国と言えばJR東海という会社も相当の後進企業です。名古屋という土地柄が後進国だから、こういう後進企業を生むのでしょうか?先進か後進かという区別は、金を持っているとか、ファッションが先進かと言うことでは決まりません。重要なことはモラルです。
 何を持ってJR東海という会社を後進会社というか、というと、5年前91才の徘徊老人が踏切に入り、列車を止めたため、その賠償金720万円を未亡人(当時85才)に請求したことです。この夫人自身が認知症であったため、法定代理人が管理責任不在の訴訟を起こしたところ、先日名古屋地裁が夫人の管理責任を認め、360万円の支払いを命じたことです。この件は見方によっては鉄道会社の管理責任が問われる可能性もあります。
 筆者が仙台にいた頃に新聞で見た判決(今から30年ほど昔の話し)。仙台市内の東北道で熊が道路に現れ、自動車と衝突した。自動車所有者が道路公団を相手に提訴したところ、仙台地裁は原告主張を認め、道路公団の管理不行き届きという判決を下した。熊には責任は問えないと言うわけだ。今回の件で云えば、徘徊老人の知能を熊並と考えれば、その責任は問えない。JR西日本の管理不行き届きである。この様な判例があるのに、それを見逃している名古屋の裁判所も、相当の後進性がある。
(14/04/27)

福知山線脱線事故強制起訴・・・・・・3+1のウソ

JR西日本福知山線脱線事故に関する強制捜査初公判。これまでの訴訟について、被告側主張根拠に、事故地点と同様のカーブは他地点にもあるというものだ。山崎裁判でも、判決はこれを根拠に無罪とした。果たしてそう言えるかについて筆者は強い疑問を持っている。これを次の2点について吟味する。

1) 事故カーブではR70という標識が立っている。これは何を意味するのか。事故発生確率には、Rの大小と通過速度が関係する。通常は設計速度に対し標準のRが与えられる(最小値)。しかし前後の関係で、これに依り難い場合は特例値が許可される。特例認可手続きは本省審査で大変面倒。ここはどうするんだ、あそこはどうするんだと云われ放題。最期は鉄道技研の意見書を持ってやっと認可。これは最終的にはトップ交渉になるので、事業者トップが知らないということはあり得ない。事故発生直後、鉄道技研があのカーブでは時速110qでも大丈夫という声明を発した・・・何故こんな短時間にそんなことが判るのか?関係者はみんなあのカーブがアブナイと思っていたのだ。そのかわり代替措置が許可条件になる。上述のR70という標識がその証拠である。だから経営者が、当該地点を特例区間と認識していなかったことはあり得ない。これは許可条件で、とりもなおさず経営者の指示によるものだ。
2)事故地点のカーブは、JR西日本の営業戦略にとって重要な意味をもっている。JR西日本が発足して最初の大事業が、地下鉄東西線と福知山線との連結である。元々、福知山線上り線は伊丹を発進すると、事故地点の手前で左に緩くカーブを採り、尼崎駅の北ホームで東海道本線と接続した。一方東西線との接続のため、尼崎駅では南に福知山線ホームが造られた。そのため、福知山線は事故地点で右に大きくカーブを切り、更にその先で左にカーブし、東海道線を高架でオーバーパスし、全体としてS字カーブで尼崎駅で東海道線に接続することになった。この高架区間も問題で、とにかく線形が悪い。高架橋の構造は鋼製ランガーだが、結構小さいRを持っているので、走行時の擦過音が大きい(列車が走っていると、レールと車輪がこすれてキリキリと音を立てるのである)。こんな路線は始めてだ。おそらくこの区間も特例区間だったのだろう。そして事故地点で周りを見れば、福知山線の尼崎駅南部タッチを前提とすれば、ルートは現ルート以外にあり得ないし、当該地点のRも70m前後以外に無いことがよく判る。ということは、本地点付近での線形計画は、旧国鉄時代を含め、相当綿密に検討されていたということだ。そういう経緯をJRトップ、まして鉄道本部長である山崎が、部下に任せていて自分は知らなかったなどと云うことはあり得ない。それは当時の経営トップである井出他2名にも云える。

 以上の点から、従来のJR西日本経営者が、当該地点の特殊性・危険性を認識していなかったことはあり得ない。もしそうだとすれば、彼等が如何に無能・無責任であったかの証拠である。JR西日本は、速やかに旧経営陣に対し、本事故で蒙った損害の賠償訴訟を起こすべきである。山崎裁判に関しては、検察・裁判官ともに本地点が特例区間であるということを見逃している。特例区間であれば、只の標識ではなく、他区間に先駆けてATSを設置すべきだし、運転士・車掌にも教育指導を徹底しなくてはならない。従来のJR経営者はこの点を怠っている。労働法・労働衛生安全規則による安全教育義務違反である(旧国鉄にもこの種の規定はあったが、身内の約束だから甘い。JRは一般企業なのだから、外部規定に従わなくてはならない。これは電力会社でも同じ)。又、この種訴訟においては、運転手・車掌だけでなく検察官・裁判官の技術教育が不可欠である。
 今は原子力ムラが話題になっているが、その前に旧国鉄一家というのがある。前の山崎裁判で明らかになったのが、この国鉄一家の結束と思い上がり。これではJRはいつまで経っても近代化できない。世界企業になれないのである。
 それにしても驚くのが井出前会長の厚顔と強心臓。あまり幸せな死を迎えられないだろう。
(12/07/06)



 これはJR西日本の事件ではありませんが、昨日JR東日本平塚駅である女性による無差別刺傷事件が発生しました。この女性は刃物で周囲の市民に斬り付けた後、構外に出たところを大学生によって取り押さえられた。本来ならJR東職員が取り押さえるべきなのである。本日某TVニュースを見ていたら、平塚駅からの中継。案の定JR職員は見えなかったのだが、番組の終わりぐらいに、これ見よがしにJRの腕章をつけたのが、テレビカメラに写っていた。あんなの皆さん普段みたことありますか?殆どヤラセだね。JR東職員は事件が発生したとき、何もしなかったのである。ホームには多数の監視カメラが設置されているが、誰も何も見ていなかったのか、見ていても何もしなかったのだろう。
 以前「JRはどうやって変わったか」という本が出版された。これをもてはやすマスコミの馬鹿もいた。筆者も本屋でパラパラと見たことがあるが、内容ははっきり言えば、テキ屋の手代の自慢話。とても読めた内容ではない。昔国会で「国鉄の使命はなんぞや?」という質問があった。そのとき答弁に立った国鉄副総裁は「ダイヤを守ることである」と言い切った。これは当に戦前・戦中における国鉄の使命である。そして数10年後、国鉄官僚の後継者は「JRの使命は金を稼ぐこと」と言い切るだろう。守る対象がダイヤから金(企業利益)に変わっただけである。どちらにも共通しているのは、乗客の安全は二の次だということだ。そして、乗客はほっといて、自分たちだけの安全を守る、これは旧国鉄時代から全く変わらない。
(注)国鉄の土木関係マニュアルがある。このマニュアルは如何に必要な安全性を確保するか、という目標で組み立てられているが、この安全性は軌道の安全性という意味で、乗客の安全性ではありません。
(08/07/29)

 先日(08/06/28)、業界団体の講習会があって、久しぶりに大阪に出、JR大阪駅の6番ホームを歩いていたら(12:30頃)、女の人が倒れて足がぴくぴく痙攣している。他の女の人が・・・多分行きずりだろうが・・・二人介抱している。「駅員を呼んでいるのか?」と聞くと「呼んでいます」と云う返事。ところが一向に駅員がやってこない。待っていても仕方が無いから、駅員を呼びに行こうと思って東口の方へ歩いていった。すると一人の駅員が走ってやってきた。何をするのかと見ていると、別に他の駅員を呼ぶわけでもなく、側でじっと立っているだけ。これじゃ話にならんと思って、直接駅員を呼び出そうと思って東口の方へ急ぐ。そのとき駅のホームを見渡すと(6番ホームだけではなく全部のホーム)、駅員が一人もいない。そして東口コンコースに降りて見ても、駅員が誰もいないのである。なんてことだ、もし何かあって駅員に報せようと思っても報せる相手がいないのである。そこで改札口の端っこには必ず改札員がいるからそこへ行って、「今6番ホームで急病人が出ているから直ぐに誰か行け!」というと20台ぐらいの駅員が二人いたが、ポカンと口を開けただけで何もしない。そこで後ろにドアがあったから、そこを開けて中を見てみると3〜4人ぐらいの職員がいたので、「急病人が出ているからさっさと行かんか!このドアホ」と怒鳴ってやった。すると女の車掌がやってきて「ここから入ってもらっては困ります」と状況をわきまえない馬鹿発言。そこで「そういう場合か!このドアホ」と再び三度怒鳴りつけたのである。そこで押し問答すること数分。やっと若いのが一人出てきて現場に行こうとする。それは良いのだが云うことが情けない。「6番線の何処ですか?」。これでこちらも完全に切れてしまった。「そんなこと聞いている暇があれば、さっさと行け!」だ。誰でも知っているが、鉄道のホームという物はまっすぐだ。走って行けば必ずターゲットに出会うのだ。こちらも講習会の開始時間があるから何時までもつき合っていられないので、その当たりで切り上げたのでその結末がどうなったのか判らない。しかし、筆者のこれまでの人生で、これほど怒ったことは無かった。私が病人を発見してあれこれやった時間は、前後10〜15分ぐらいか。急病人にとってはこの時間は大変重要なのである。
 さて、この件で感じたのは、JR西日本という会社の途方もない縦割り構造である。それが社員の骨の髄までしみこんでいるのだ。まず、ホームの上と下、改札口の中と外、とか部外者では判らない部分に敷居があって、そこから向こうは私は知らない、逆に敷居の向こうの人には入ってもらっちゃ困る。その典型が、あの女の馬鹿車掌だ。お客さんが苦しんでいるより、自分達の職場の平穏を守るのが大事なのである。もしあなたがJR西日本の何処かの駅で突然心臓発作で倒れたとしましょう。上の例で挙げた親切な人がいればともかく、いなければその場でほったらかしだ。何せ、ホームには駅員が誰もいないんだから。もしいたとしても、通報を受けてから駅員が駆けつけるのに15分も20分も懸かる。しかもやってきても何をするわけでもなく、患者の横でただ立って見ているだけ。これではお陀仏だ。というわけで、JR西日本(他のJRでも似たようなものだと思うが)で、何か起こった時は、まず助からないと思った方がよい。いざとなればあの世行きを覚悟して電車に乗るべきだ(あの世行き新快速電車)。例の福知山線脱線事故直後、事故電車に乗っていた車掌が負傷者の救助も手伝わず、自動車で現場を立ち去ったという事件があったが、この日改札口裏の室内のJR社員の対応を見ると、それも当たり前なのである。筆者に「このドアホ!」と怒鳴りつけられた縦割り無責任意識は、経営者トップ(旧国鉄出身者)に染みついた物で、これが末端まで伝染している。殆どJR文化と云ってよい。経営者自身が日勤教育を受けるべきだろう。
 この二三日前に大阪駅のホームで、三人ほどを刃物で刺してそのまま逃走したという事件があった。これは当然だと思った。当たり前だが、ホームどころか構内にも駅員がいないんだから、何事が起こっても駅員は知らない。犯人はさっさと逃げられる。ということは、JR西日本の駅では、乗客は自分の安全は自分で守らなくてはならないとうことだ。上で挙げた事例は当にこのことを証明している。JR西日本のHPを見ると、安全宣言だとか何とかきれい事を並べているが、ホームで倒れている乗客一人、刺された乗客三人を救えないような会社の安全宣言など信用出来るでしょうか?JR西日本は駅の正面に「当社はお客様の安全は保証いたしません」と張り紙を出すとか、切符にもそう印刷すべきである。

(08/06/30)


山陽新幹線の問題・・・・・・大きい会社の小さい政府の問題

 最近、山陽新幹線の徳山とかその辺りで、高架橋のコンクリートが剥離し、鉄筋がむき出しになっているらしい(この間の某民法 TVニュースでやっておりました)。原因は骨材に海砂を使用したこと。その他に、トンネルの覆工の剥落とか、山陽新幹線には色々問題が多く、評判はあまりよくありません。なお、山陽新幹線は旧国鉄が施工したもので、今のJR西日本とは関係はありません。ところが、関東辺りには山陽で問題が起こると、これを関西の責任だと勘違いする馬鹿がいる。関東は平将門以来、馬鹿の勘違い野郎が多く産出するところだから仕方がないが。山陽新幹線の問題は大きくは次の二つがある。
     1、山陽新幹線で、国鉄の設計基準が大幅に変わった。
     2、国鉄の民営化
1、設計基準の変更
 これは若い人は余りご存じないかもしれない。特に大きな変更があったのは、トンネルと構造物である。トンネルでは、東海道では45pあった覆工厚が25pになったりした。これで迷惑を蒙ったのは建設省。会計検査で「鉄道の覆工は薄くなっているのに、何で道路は何時までも厚いままなんや」などと詰られて、建設省も設計基準を改定することになった。しかし、本当に迷惑を蒙ったのは、我々一般国民・納税者ではないか?数年前、長野県でトンネル覆工が崩落して人身事故が発生し、その後の調査であちこちで覆工の損傷が見つかり、その補修で莫大な費用を要している。不必要に覆工を薄くしなけりゃ、こんなことにならなかったかもしれない。
 構造物でもそうで、高架橋など殆ど建築の設計基準になってしまった。鉄筋も細くなり(正確には細い鉄筋を使っても良いことになり)。コンクリート被りも建築並に薄くなってしまったのである。更に重要なことは、従来使用が禁止されていた海砂の使用が、山陽で許可されるようになったのである。何故、こういうことになったか?というと、その当時の社会・経済情勢が大きな影響を与えている。
1)空前の高度成長、特に大阪万博を控えて工期の制約が極めて厳しかった。つまり、とにかく早くやれ、ドンドン行け!の時代で役人も政治家も世間も突貫工事をけしかけた。東海道のような、のんびりしたやり方では間に合わない。特に時間がかかるのは、トンネルと構造物である。これらの施工工期を短縮するにはどうすればよいか?ズバリ、ぎりぎりまで断面を縮小せよ、だ。しかし、役人というものは、基本的に、自分が責任をとらなくて良いようにするためにどうするか、を先に考える生物である。その結果が、鉄道技研に圧力をかけて、設計基準の見直しに繋がったのだろう。
2)従来、コンクリートの骨材に海砂を使うことはなかった。主に使用されていたのは、川砂である。昭和30年代までは全国各地の河川で川砂採取が行われていた。高度成長で、川砂の採取量が増えてくると、@河川水質の劣化、A河口の海浜の減少による漁獲高の減少、のような問題が発生した。これだけなら、建設省が動く訳はない。ところが、各地で河床低下という現象が発生し、橋梁基礎が洗掘されるという事態にまでなった。そこで、昭和45年頃だと思うが、建設省は全国河川での川砂採取を、全面的に禁止したのである。そこで困ったのが他省庁や土木・建築業界。山陽新幹線はまともにその影響を受ける。川砂が入って来なければ、新幹線は作れない。そこで、国鉄だけでなく、国鉄一家の土木業界も動員して、建設省はおろか、自民党辺りまで陳情して、海砂採取の許可を取り付けたのだろう。
 ところが、根室沖地震の後を受けた「新耐震設計指針」の影響で、この後の上越や東北新幹線では、元に戻って耐震設計をするようになったから、高架橋の断面は又大きくなった。平成7年兵庫県南部地震で、山陽新幹線の高架橋はガタガタになったが、この間の新潟県中越地震や、宮城県沖地震では高架橋そのものは何ともなっていない。軌道が揺れただけである。つまり、山陽新幹線ほど、旧国鉄当局のご都合主義に振り回された路線はないのである。
2、国鉄の民営化
 山陽新幹線でのトラブルが現れだしたのは、民営化してから5〜6年経ってからである。民営化後、どういうことが行われたかというと、列車の増便と、「のぞみ」の投入に代表される高速化である。これが鉄道施設にどういう影響を与えるか、について考えてみよう。
1)トンネル
 新幹線でトンネルに入ると、内圧がグッとかかるのは誰も良く実感する。これは、簡単に云うと、トンネル内の空気が列車の進入によって圧縮され、トンネル内の気圧が一時的に高くなる現象である。列車を圧縮する力は、そっくり同じ力でトンネルの壁(覆工)を圧縮する。(1)覆工が地山に密着しておれば、覆工には圧縮応力が働くだけなので、問題は少ない。但し、余り高速化が進むと、列車通過後に乱流が発生する。その場合、覆工に負圧が発生して、覆工表面に引っ張り応力が発生するので、長期的には覆工表面が剥離することはあり得る。(2)古い(在来工法時代)トンネルは掘削後、型枠を組んでコンクリートを流し込むが、重力が働くので、コンクリートはどうしても下に移動する。そのため、トンネル頂部には大抵空洞が出来る。そこで、コンクリート打設後、裏込め注入を行って、空洞を充填することになっている。ところが、この充填が上手くいくことは殆どない。つまり、在来時代のトンネルは、頂部に空洞が空いている、と考えてまず間違いはない。こういう状態の所に、列車通過に伴う内圧が加わるとどうなるか、というと、覆工は最早、版ではなく梁になり、外力としてモーメントが作用することになる。コンクリートが一体化しておれば単純バリだが、コンクリートの打ち継ぎ目にかかり、それが開口しておれば片持ちバリである。このモーメントは梁を折る方向に作用する。これが何度も繰り返し加わると、コンクリートはついには崩壊し剥落する。更にトンネル内で上下線が離合すると、大雑把に考えても覆工に働く外力は倍に増えることになる。
 民営化で、高速化が進み、列車が増便されると、トンネル内で発生する内圧が大きくなると同時に、繰り返し荷重が加わる回数が増えるのである。
2)高架橋
 高架橋も同じで、列車が通過する度に、柱には列車振動が作用する。振動とは圧縮と引っ張りの繰り返しである。コンクリートは特に引っ張りに弱い。一回毎の応力は僅かでも、これが繰り返されると、ついには材料の破断に達する(この破断は直ぐには現れず、長期間経ってから現れる。BSEかAIDSのようなものだ)。従って、供用中に発生する繰り返し回数は、許容繰り返し回数以内に収めなくてはならない。これが累積損傷度理論で、これは航空機や原発の安全管理に応用されている。土木でも、打ち込みグイの施工管理基準に採用されている。無論、これを無視する不届き者・・・・例えばJALといった航空会社や、関電といった電力会社*1・・・もいるが、大抵は天罰を蒙っているのである。
 仮に繰り返し回数がコンクリートの許容値を越えても、柱の内部には鉄筋が組み込まれているから、これが内部のコンクリートを拘束するので、破断は直ぐには、柱全体の破壊という形にはならず、コンクリート表面の剥落という形で現れる。しかし、内部にも目に見えない破壊が進行しているのである。では、同じ鉄筋コンクリートで、列車の運行本数だったら、山陽より遙かに多い東海道で、コンクリート剥落事故が起こらないのは何故か?これは上で挙げたように、柱の断面積が違うことと、東海道には海砂が使われていなかったため、コンクリートの耐久性が高いためである。

 現在では、プロだけではなく、高校野球でも、大体100球を目処にピッチャーを交替させる。東海道が9回完投能力のあるピッチャーとすれば、山陽は6、7回まで持てば良いレベルのものである。そういうピッチャーに9回完投どころか、延長20回になっても未だ投げさせているようなもので、いずれパンクするのは目に見えている。(07/11/05)

(JR西日本の見解)
 冒頭に挙げた、ニュース番組で、JR西日本の安全管理責任者である土木部長が、TV局のインタビューに答えて「@全面補修をしようとすれば、列車を止めなくてはならない。A今のままでも安全です。絶対大丈夫です」という意味のことを述べていた。土木部長ともあろうものが、こんなことを軽はずみに喋って大丈夫なんですかねえ。
@について;柱の取り替えだけなら、全面運休しなくても出来ますよ。民間土木の技術力を馬鹿にしてはいけません。例えば、ガーダーで桁を支えておいて、柱を取り替えるとか。柱を取り替えた後、桁を一晩で取り替えるとか。こんなことは、旧国鉄ならざらにやっていたことですが。今のJRには、当時の技術力が残っていないのでしょう。
A鉄筋がむき出しになった鉄筋コンクリートが、大丈夫であるはずがない。放っておいて、柱が一本でも座掘すると、高架橋そのものが傾斜する。そこへ高速の新幹線が突っ込んでくれば、尼崎事故どころではない大惨事が起こる。JR西日本という会社は未だ、尼崎事故を実感としてうけとめていないのだろう。再解体が必要かもしれない。

*1;昨日(07/11/05)、関電の秋山会長が定例記者会見で、「地方自治体の改革が遅れている。自治体職員の数は半分に減らせ」と、ぶちあげげたらしい。よくいうよ。美浜原発のデータ改竄がばれたの、はついこの間のこと。もし原発事故が起こったら、これまでのコストカッテングなど問題にならないコストがかかる。関電は潰れてしまうよ。自分のムラもろくに守れないで、他人のことに口先をだすんじゃない。たかが、電気屋の分際で生意気な。下郎下がりおれ、だ。
(07/11/06)


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