酒匂川十文字橋の折れ曲がり

 この種の災害は日本ではあまりないので、どう呼んで良いのか判らない。そこでとりあえず「橋の折れ曲がり」にしておきます。この事故は平成19年台風9号により、神奈川県酒匂川で発生した増水により、十文字橋という橋の中央部橋脚が沈下し、橋が縦方向に折れ曲がったものです。

 この事故は、橋脚基礎の洗掘かパイピングによるものと考えられます。この結果地盤が緩んで支持力が低下し(空洞ができていた可能性大)、構造物全体が沈下を生じたものです。この原因は、洗掘やパイピングを生じやすい地盤上に、不適切な基礎を設計し施工したことです。これらが原因で構造物が崩壊した例としては、2年前のハリケーンリタによるアメリカニューオーリンズの堤防崩壊や、我が国では30年ほど前に、東海道本線大井川橋梁の流失事故があります。
 本地点は酒匂川の中流域の氾濫源で、河川の氾濫による緩い砂礫層が厚く堆積している地域です。又大正期(1913)の作品らしいから、基礎はおそらくベタ基礎。沈下を起こした橋脚は河道中央にあるから、洪水時には上流側と下流側とに水位差が出来るので、河川水の中では乱流が発生したり、基礎下では水圧差が大きくなって、洗掘やパイピングを発生したと考えられます。なお、こういう事故が、いきなり起こると言うのは考えにくい。以前より洪水の度に、洗掘やパイピングが少しずつ進行しており、かなり不安定になっていたところに、今回の洪水で一気に破壊、というのが通常のパターン。
 なお、緩い砂礫と言っても、常時ではこの程度を橋梁を支える程度の支持力はある。しかし、長期的には洗掘・パイピングの危険があり、更に大地震の時には、一時的に支持力が低下する事もあるので、現在のレベルでは、重要構造物の支持層として不適当と判定される。そのような地層を支持層とした点で、本橋梁基礎は不適切な基礎、と云える。
 この種の橋梁は他にあるでしょうか?詳しくは知りませんが、概ね昭和30年代より前に築造され、改修されていない橋梁は危ないと思って於いて良いでしょう。但し、山の中の岩盤の中に立っている橋は、返って問題はないと云えます。河川中流域の氾濫源に残っている橋が要注意。
(07/09/11)

 原則論を云うと、橋梁のような重要構造物は安定な支持層に、適切な基礎で支持させなければならない。これを実現するには、地盤調査を行って、安定な支持層の位置を確認し、そこへ確実に基礎が設置出来る工法を選択しなければならない。支持層の位置が深ければ、特殊な工法が必要になる。本橋梁が出来た大正期では、地盤調査という概念すらなく、まして深い基礎を施工する技術もなかった。だから、こういう事故が起こっても矢無を得ない、という理屈を弄ぶ連中がいるかもしれない(特に、県の役人)。しかし不思議なことがある。全国の1・2等橋は定期的に耐震診断が行われる。当然、基礎を含めて安定度照査が行われる。酒匂川は二級河川だから県が管轄する。本橋梁も県が管理しているはずだ。その結果は国に報告しなければならない。まして、神奈川県は東海地震特別対策地域でもある(公共予算の優先度が高いと云うこと)。と言うことは、県は十文字橋の基礎と地盤について、問題点を把握していなければならなかった筈である。そうでなければ、耐震補強工事は出来ない。その為には、地盤調査資料は不可欠なのである。大正期だから地盤調査の資料が無いといっても、その場合は県の単費でボーリングをやればよい。大した費用ではないのだ。何か、重大な行政の不作為が感じられます。
(07/09/12)


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