東電柏崎原発関連(3)

 想定外の地震とは、事前の応答解析で想定された卓越周期より、長周期側で発生した大きな揺れです。当初これは地盤に起因するものと思っていましたが、地盤系の地震動記録を検討すると、これは地盤によると云うより、建家の構造に由来する可能性が大きくなりました。
 対策は色々考えられるので、ゆっくり考えて下さい。ワタクシは最早耐震構造よりも、免震工法や制震機構を取り入れるべき、と考えています。

1、始めに
 前回(東電柏崎原発関連(2))では、(1)基準地震動による応答解析で得られた卓越周期より長周期側に加速度のピークがある、(2)いわゆる想定外加速度とされたものは、この領域での加速度である、(3)原子炉建家で起こった被害の内、微量放射性物質漏洩には、この領域での揺れが寄与した可能性が考えられる、(3)想定より長周期側の揺れは、新潟平野全体の地質構造(例えばグリーンタフの分布)を反映している可能性がある、と考えた。しかし、この検討で使ったデータは原子炉建家内のもの(構造系)だけである。これ以外に、建家の構造が関係している可能性もある。その後東電hpを見ていると、「柏崎刈羽原子力発電所平成19年中越沖地震に於ける地震波形の解析に関する報告(第2報)」なるレポートがあることに気がついた。そしてそれを見ていると、地盤系の地震動データが公開されていることが判った。これと前回使った構造系のデータを見比べると、長周期の揺れが地盤に起因するものか、建家の構造に由来するものか、区別出来るはずである。そこで、東電による地盤系地震動データを検討してみた。
 結論は、地盤系の地震動データには長周期側の加速度スペクトルは含まれず、従って想定外の長周期振動は、主に建家の構造に由来するものの可能性が大である。

2、使用データと検討方法
 公開されている地盤系地震動データは(1)1号機、(2)5号機、(3)サービスホールの3地点計13機の地震計によるものである。但し
(1)当日10:31の実地震では、各地震計ともデータ上書きがあって生データは得られていない。公開データは全て当日15:37の余震記録である。従って、測定データの絶対値は本震と異なる。構造系データとの正確な比較は出来ないが、検討の目的はスペクトル分布の比較である。スペクトルモードは基本的にはアナロジーが成立するので、検討目的には支障は無い、と考えられる。
(2)地盤系応答スペクトルは「変位速度kine (p/sec)〜周期(sec)」で表されている。一方構造系は「加速度gal(p/sec2)〜周期(sec)」で表されている。何故、地盤系を速度型にしたのかは判らない。ある時期から、気象庁が計測震度計を採用し出した。この時、気象庁は震度の基準を変位速度で定義する事にしたから、それに合わせたのかもしれない。しかし、これでは構造系と比較出来ない(構造系は設計の都合上、地震力を力に置き換えなければならないから、加速度に拘るのである)。従って、次の方法で地盤系データを加速度〜周期の関係に換算するものとした。
 振動速度Vと振動加速度αとの間には周期(T)をパラメーターとして、次のような関係がある。

α=2π(1/T)V・・・・・・(2.1)

 ある周期Tでの振動速度Vが判れば、(2.1)式により簡単に加速度に換算出来る。実際にはもっと簡単で、速度〜周期関係図に勾配2πの直線を加えれば、ある周期Tに於ける振動速度から、直接加速度を求められる。又、これに直交する(勾配-1/2π)直線を加えると、変位((p)が、読みとれるのである。つまり(2.1)式を座標変換すると、一つのグラフから他の要素がややこしい計算をしなくても読みとれるようになっている。
(例)
 図-2(1号機地盤系EW成分)の地表面(G7)データについて、周期T=0.3秒での振動加速度を求める。
 T=0.3secでの振動速度は V=19p/sec 従って α=2×3.14159×(1/0.3)×19=397.9gal≒400gal(加速度〜周期の関係・・・・図の右上がりの直線から読みとれる)
 この時、変位〜周期の関係(図の右下がりの直線)から、T=0.3秒での地表面変位は約1p弱と読み取れる
(3)(2)の方法で周期に対する加速度を読みとり、これをグラフに記入する。但し、元の構造系加速度スペクトルと同じ算術目盛りとする。

3、検討結果
 加速度への換算結果は、各データに加速度スペクトル(各図の赤線)として表してある(図1〜図6)。但し、地下の地震データは、周期0.5〜0.7秒以下(加速度レベルでは数10〜100数10gal以上に相当)では殆ど変わりはない(重なってくる)ことから、地下データはそれぞれの施設の、基礎版上地震計に相当する深度のもののみを取り上げた(赤破線)。又、比較のために地表面データも併記した(赤実線)。
1)地下の地震動データでは、0.1〜0.2秒の間に、加速度スペクトルのピークが現れる傾向がある。しかし、0.5秒以上の長周期帯域にスペクトルのピークが見られる事はなく、スペクトルモードは単振動的である。
2)地表面データでは、1号機・5号機の加速度レベルが、地下のそれを大きく上まわっている。表層の影響による増幅と考えられる。しかし、サービスホールではそういう傾向は見られない。表層地盤の影響とも考えられるが、はっきりしたことは判らない。本震で地震計の重心が僅かでも移動した可能性も無くはない。
3)地表面データでは1号機EW、5号機EW、サービスホールEWの、それぞれ0.5秒付近にスペクトルのピークが見られる。しかし、0.1〜0.2秒前後のそれに比べれば加速度レベルは小さく、メインの振動とは思えない。

4、まとめと提言
1)原子炉建家で長周期(0.5秒以上)の地震動が発生したのは事実である。又、「東電柏崎原発関連(2)」で述べた、原子炉建家で生じた様々な事象の中に、長周期地振動に由来していると考えざるを得ないものがある。この長周期地震動は、事前のS2応答解析では確認されなかった。
2)一方、地盤系に関する計測結果では、柏崎原発地盤の振動は0.1〜0.2秒前後の短周期地震動がメインで、0.5秒以上の長周期地震動は極めて乏しいということになった。
3)以上のことから、原子炉建家で観測された長周期地震動は、実は地盤に起因するものではなく、建家の構造に由来するもの、という可能性が高いと結論せざるを得ない。

つまり、今回の微量放射性物質漏洩の根本原因には、何らか人為的ミスがあった可能性が考えられるのだ。

 さて、どうすればよいか?結論から云えば次のどちらかを選ぶことになるだろう。
(1)周期0.5秒以上の地震動で発生する力に対応出来るよう、原子炉施設を補強する。
(2)長周期地震動をカットするような基礎構造を採用する。
(3)両者の併用。

 ここで、(1)はいわゆる耐震工法であり、現在の原子力安全委員会推奨の方法だろう。しかしこれも全く問題がないとは云えない。例えば既存構造体と補強材との接合部に応力不均衡が生じ、新たに構造上の弱点を作りかねない、といった点である。無論、その部分を更に補強する、という考えもあるが、それをドンドン広げていくと、構造物の断面は無限に大きくなり、工学的に意味をなさない構造物が出来上がるおそれがある。
(2)は、いわゆる免震工法の採用である。これまで検討から、本工法を採用することによって、原発の安全性が遙かに高くなるのは疑いない。これには大きく、@建物に免震スリットを入れる、A岩盤と基礎、或いは基礎と柱の間に免震ダンパーを入れる、の2法がある。@は施設の完全密閉を求める現在の原子炉保安法の建前から云って、採用は難しいだろう。Aは原子力安全・保安院の云う、施設を岩盤に固定する、という要件の中に免震ダンパーが入るかどうか、がハードルになるだろう。筆者自身は、こんな保安院のタワゴトなど無視すれば良い、と思うが、原発反対論者にとってはこれが最後の砦になるかもしれない。
 新設原発は別にして、既存原発に免震ダンパーの適用は現実的は可能かどうか、という疑問はあるかもしれない。しかし、既存原発は安全な岩盤に固定されている筈だから、むしろこれは可能なのである。要するに免震ダンパー設置位置までトンネルを掘って行き、ダンパー施工空間を切り広げれば良いだけだから、施工技術としてはそれほど難しい問題ではない。
 筆者自身としては、現実に稼働中原発が地震に見舞われたのだから、今後の対応として、やれ耐震だやれ免震だ、などという神学論争はさっさと卒業して、今原発施設の安全度を高めるために、最も可能性の高い方法を選択すべきと考えている。
(07/09/08)


図-1   1号機地盤系NS成分 図-2   1号機地盤系EW成分

図-3   5号機地盤系NS成分 図-4   5号機地盤系EW成分

図-5   サービスホール地盤系NS成分 図-6   サービスホール地盤系EW成分

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