ニューオーリンズのハリケーン災害から何が云えるか?

 ハリケーンリタの接近による増水で生じた、ニューオーリンズの堤防決壊。画面左下の擁壁(丁度電信柱の様な柱)から中央部にかけてが決壊部分。決壊部分は手前の堤防陥没部分と、その先の越流部分に分かれるが、全体として一体。運河側(画面左)の水位が提体頂部に達していないので、この決壊は、提体又は基礎地盤のパイピングによるものと考えられる。従って、この区間の復旧工事は単に土を放り込めばよい、というものではありません。次のハリケーンに備えた応急対策なら、堤防外側にも大型土嚢を積んで抑え盛土を行う。恒久対策は基礎地盤を含めた抜本対策とする。又対策区間は破堤箇所だけでは駄目。基礎地盤の変化を考慮した検討が必要。この程度のことは、かつてテルツアギーに教えられた筈ですが。堤防自身、相当老朽化し、擁壁も全体として連続していないように見える。かつて決壊した部分を応急修理しただけのものか?(05/09/24)
 なお、その後の報道で、この場所はカトリーナによって一旦破壊されたのを、応急復旧したらしいことが判りました。

上の写真で、決壊箇所の対岸に、なにか帯状のものが斜めに横たわっているのが見えます。当初、これが何者か判らなかったので、無視していたのですが、本日それが何かが判る映像が入手出来ました(05/10/03毎日新聞朝刊)。それが左の写真です。決壊部の映像から、この帯は鋼矢板であることが判ります。(上の写真で、擁壁に見えたのは、実は鋼矢板頭部を繋ぐパラペットでした。)このことから、本護岸は湖側に連続鋼矢板を打設し、市街地側に築堤で抑え盛土を行ったものと判断されます。別にこれ自身は、不思議な工法ではありません。写真手前の矢板法線が、妙に蛇行しているのが気になりますが、屈曲部が曲線的なので、今回のハリケーンによる影響では無いと考えられます。軟弱地盤上で、片側に盛土を行うと、構造物が変位するのはよくあることで、多分その一種と思われます。
 決壊部の延長部を見ると、写真上部中央で護岸は大きく沈下し、その右では矢板は湖側に転倒している。この現象は矢板先端地盤がパイピングを起こし、基礎地盤の土砂が、市街地側に流出していることを意味しています。
(1)写真上方右は、パイピングで矢板前面の土砂が流出したため、前面の抑えが無くなり(受動土圧が無くなる)、後方に転倒した。
(2)中央部は、基礎基盤のパイピングによる土砂流出で、基礎地盤の支持力が無くなり、矢板全体が沈下した。
 以上の原因は、矢板先端地盤が、パイピングを生じやすい地層(粒径の揃った、緩い砂。沿岸部の沖積層にはざらにある)に止まっていること、つまり矢板の根入れ不足と言うことになります。設計ミスと疑われても致し方無いのですが、それだけでしょうか?設計時では設計基準をクリアーしていても、その後の繰り返し水位変動により、少しずつ土砂流出が生じ、地盤のゆるみが進行して行った可能性も考えられます。実際の崩壊は、上の写真での決壊部で最初のパイピングが生じ(極く小さい穴)、それが拡大して堤防を決壊させ、更に周囲に逐次伝播していったものと考えられます。当に、蟻の一穴千里堤防をも、です
 一般人は、何か土木構造物が出来ると、その安定性は永久に続く様に考えているかも知れません(特に改革派と言われる国会議員やその支持者)。ところが、土木構造物も人間と同じで、年を取ると傷んでくる。常に手当をして行かなくてはならないのです。
 対策は、単に決壊部分を埋め戻すだけではなく、基礎地盤対策から始めなくてはならないのは当たり前です。
 以上述べたことからから、ニューオーリンズの街は、相当の軟弱地盤地帯と考えられます。この際、世界に冠たる日本の軟弱地盤対策技術を、アメリカに売り込んではどうでしょうか?(10/03)

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