パキスタン(08年)南西部地震

 08年10/29、パキスタン南西部、アフガニスタン国境近くでM6.4の地震が起こりました。その一ヶ月ほど前には、中国、タジキスタン、キルギス国境付近でも地震が起こっています。

現地はヒンズークシ山脈から南西に延びる山脈の一画で、写真中央の赤丸が震源らしい。この付近は北西のユーラシアプレートと南西のオーストラリアプレートとに挟まれた衝突テクトニクスの場で、地質はユーラシア大陸へのプレートの沈み込みによる付加体が発達する。これは写真で見られるように、両大陸による圧縮によって激しく褶曲している。写真の左側、アフガニスタンとパキスタンとの国境に沿ってNNEーSSW方向の直線状の谷が2本入っていますが、これはおそらく断層でしょう。これの西側にはラジャスタン砂漠が広がります。南北方向に尾根を持つ砂丘の発達がよく見えます。
 

 もう少し近づいて見ましょう。


この地域は地層が激しく褶曲していることが判ります。震源は丁度この褶曲軸の真上にあります(グーグルが間違えていなければ)。しかし、褶曲軸で地震が起こる事なんてあるのでしょうか?私自身、これまでそんなことは見たことも聞いたこともありません。大陸には列島とは異なる現象が起こるのでしょうか?震源の北方7qほどにENE-WSW方向(写真は上が北)の直線状の谷があります。これは断層の可能性があります。震源はひょっとするとこの断層かもしれません。褶曲帯の地層は全体として赤っぽく、周りの地層より流動性が高いようです。何となくチャートっぽい感じがします。断層?の上に東西方向の赤いバンドが見えます。これは何でしょう。


 この赤色バンドは走向ほぼE-W、60〜70゜位の高角度で南に傾斜しています。赤い色の素は鉄です。おそらくかつて何らかの理由で海水に酸欠が起こり、鉄を食うシアノバクテリアが繁殖して、その死骸が沈積したものと考えられます(死骸には鉄が含まれる)。酸欠が起こる理由は色々考えられるが、一つはなんらかの環境変化・・・例えば水温の上昇・・・でプランクトンが増殖したとか、 海底での熱水活動とかが挙げられます。また、このバクテリアは鉄だけを食うのではなく、他の希土類元素も食べます。赤色バンドの中には、鉄だけでなくMn、Ti、Niなどのレアメタルが含まれている可能性があります。断層の南の褶曲帯の地層も赤いので、これにも大量の鉄(とそれに伴うレアメタル)が含まれていると考えられます。
 赤色バンドの両側に白色帯が分布します(実際は黒色帯と互層する)。白色帯は何でしょうか?海底熱水活動で硫化水素(H2S)が吹き出すと海水のH20と反応して希硫酸(H2SO4)を作ります。
 これが海水中の炭酸カルシウム(CaCO3)と反応すると   H2SO4+CaCO3→CaSO4+CO2+H20
 により硫酸カルシウム(石膏CaSO4)を作ります。その後海水温が低下したり、海水面が低下して水圧が低下すると、CaSO4の溶解度が低下するので海水中に析出して海底に沈積し、熱水鉱床を作ります。これが地殻変動で地表に露出したものが、白色部とも考えられます。無論、既にあった地層の中に熱水が浸透して熱水変質を与え、熱水鉱床を作ることもあります。

最近松江市のホテルの地下から致死量に達する濃度の硫化水素が噴出するという事件がありました。警察はホテル改装で発生した石膏ボード(硫酸カルシウム)を、地下室に不法投棄し、そこに雨水が浸透し、石膏と雨水が化学反応を起こして硫化水素を発生させたと推定しています。犯人が石膏ボードということはまず間違いないでしょう。しかし石膏が水に漬かっただけで硫化水素が発生するでしょうか?もしそうなら、石膏を水に溶かして塑像を作る美術大学は、しょっちゅう硫化水素騒ぎにあわなくてはならない。石膏から硫化水素を発生させようと思えば、過酸化水素水(アストリンゼン水は過酸化水素水を薄めたもの)のような強い酸化剤が必要です。雨水にそんな酸化作用があるとは思えない。無論最近問題になっている酸性雨も犯人の可能性はありますが、それは地下を浸透してくる間に大部分中和されてしまうので、主犯とは考えられない。ポイントは石膏ボードが地下室に廃棄されていたということです。この地下室は完全密閉型で、採光もなく空気の流通もない。また、湿気でジメジメしている。そういう場所こそシアノバクテリア発生に好条件。バクテリアが硫酸カルシウムを分解して硫黄を作り、それが空気中の水分と反応して硫化水素と遊離酸素を作る。遊離酸素は水や室内中の金属塩と反応して酸化物を作って、更に酸欠をすすめるのでバクテリアが増殖する、と考えた方が現象を説明しやすいと思う。
 なお、室内に紫外線灯を付けておけば、バクテリアの繁殖を防ぐことは出来ます。別に不法投棄を勧めるわけではありませんが。


 海底熱水鉱床にはカオリナイトが出来ている可能性が考えられます。カオリナイトは地下の熱水活動によって出来る粘土鉱物です。幾らでも細かくなるのと、幾らでも延びるので、陶器の材料になりますが、電動性が良いので今では光ファイバーの原料を始め、ハイテク、ナノテク材料になります。熱水鉱床ではバクテリアの生物濃集作用で金、銀、水銀など貴金属の存在も期待できます。この地域は殆ど人も住まない荒れ地ですが、大変な資源の宝庫かもしれないのです。交通などのインフラが未整備ということと、治安の問題が資源開発のネックになっています。
 お隣のアフガニスタンも負けず劣らずの地下資源の宝庫と考えられますが、ご存じのとおり戦争のため全く資源開発に手が着いていません。これらの地下資源を有効活用出来れば、パキスタンもアフガニスタンも麻薬なんかに頼らずに、もっと豊かな国になれるはずです。
 (08/11/01)
 


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