自噴泉


長崎県島原町の大手川という川の河床にずいぶん昔からパイプがあって、そこから湧水があるという情報。下の写真はその状況です。ここではその原因を考えてみましょう。

 
 これがその全景。河床中央の白い部分がパイプ」から湧き出す水です。  パイプの近景。湧水はかなり勢いが良く、水頭差としては数mはありそうだ。ということは河床からの水圧は数10KPa位はあると思われる。

 さてこの湧水の原因を考える上で次のことを前提にしておかねばならない。
1、この河川は以前河川改修工事が行なわれている。つまり河道の多少の移動や、河床高は変わっている。
2、この河川の周囲は地下水が豊富で、湧水も頻繁に見られたらしい。
3、島原町のある島原半島は雲仙火山のある火山=地熱地帯である。

 まず3が基本条件である。地熱地帯ということは地下水がマグマによって加熱され、その結果地下のガス圧が高くなっていることを意味する。この高いガス圧が地下水を被圧するため、2の湧水を引き起こす。こういう場所で河川工事のような掘削工事で河床が低くなると被圧水圧に対する土被りを減少させることになるので、工事敷きに湧水は発生し、施工面が水浸しになる。これでは工事が出来ないので、被圧帯水層までパイプを打ち込み水を抜いて水圧を下げる。こういうやり方は、多分現地では業者が経験的に分かっていたのだろう。分かっていなかったのは監督する役人だけだったり。そして工事が終わってもパイプはそのままにして水は抜いたままにした方が良い。うっかりパイプを抜いたり閉塞したりすると、河床の玉石敷の境界から水が噴き出したり、玉石がガタガタになるおそれがあるからだ。
 実は筆者は昔仙台市のある古い水道ダムの調査で、水叩き・・・・重力ダムだからその基本三角形の前址・・・でボーリングをやったところ、水が噴き出して、うっかりパッカーを絞めると周りからも水が噴き出してくる経験をしたことがある。ダムの真下だから、それは怖いはなしだ。原因はそのダム・・・大正か昭和初期の作品・・・が基礎のカーテングラウトをやっていなかったからである。ということで、湧水の原因は雲仙火山を起因とする島原半島の高いガス圧。それに対応した水抜き工法である。
 なおこの湧水は当然雲仙火山による地下の挙動を反映しているはずである。ということは、湧水量を継続観測しておれば、雲仙火山の噴火予知に繋がるのである。
(19/12/08)


 水を汲みに来た男女2名が死亡した福島県の某炭酸泉。温泉水から分離した二酸化炭素が井戸内とか周辺に滞留していた可能性がある。当日の気候は無風だったのでしょう。このように日本の温泉は結構おっかないのである。その点を海外からの旅行客もよく知っておくように。又、迎える日本側も十分な告知と安全対策が必要なことは言うまでもありません。
(19/08/16)

 東北地方や中部山岳地帯では、山の中に自然に温泉が湧いていることがあります。このように、人工の手を加えずに、自然に湧出する温泉を「自噴泉」と云います。では、自噴泉はどうしてできるのでしょうか?

自噴泉の機構

 我が国では北海道、東北、北関東、九州地方を中心に、多数の自噴泉があります。地下から暖かい、あるいは熱い水(熱水という)が噴き出してくるというのは、非常に不思議な現象です。何故このようなことが生じるのでしょうか。
 我が国の自噴泉は大きく2タイプに別れます。
       (1)火山型
       (2)非火山型
(1)火山型
 北海道、東北、九州地方の代表的な自噴泉は、大部分これに属します。高温で湯量、泉質も豊富なことが特徴です。地質学的には、第四紀に活動した活火山の火口や周辺に湧出します。地下には未だ高温のマグマが存在し、地表から浸透した地下水がマグマによって加熱され地上に湧出するものです。マグマの表面温度は1000数100゜Cに達し、その周辺でも数100゜Cの温度はありますから、周辺の地下水は高温の熱水になり、地下水面の上では高温、高圧の蒸気が発生します。この蒸気圧によって地下水が押し上げられ、地上に湧出するのが火山型自噴泉です。

 最近、話題になっている白骨温泉も「火山型温泉」の一つです。北アルプスには、北は宇奈月峡から南は御岳・乗鞍まで多数の温泉がありますが、これらは何れも第四紀の火山活動に関係したものです。

(2)非火山型
地質的には全く火山の兆候がないにも拘わらず、温泉が自噴する例が、関西を中心に存在します。代表的なものが兵庫県「有馬温泉」です。そのため、この種の温泉を「有馬型」と呼ぶこともあります。兵庫県「湯村温泉」、岡山県「湯原温泉」、愛媛県「道後温泉」などがこのタイプに属します。火山型の泉質が大抵、強度の酸性又はアルカリで、成分濃度も高いのに対し、このタイプの温泉は概ね中性で、成分濃度の低い単純泉であることが多いのが特徴です。では、非火山性であるにも拘わらず、何故自噴するのか、「有馬温泉」を例に採って説明してみましょう。
有馬温泉は神戸市の後背を作る六甲山地の、丁度裏側の狭い谷間に開けた盆地です。ここで、兵庫県唯一の高温高食塩泉が湧出しています。有馬温泉のやや南に、「有馬ー高槻構造線」がほぼ東西に走り、それに沿って多数の断層が錯綜します。この内の「射場山断層」と呼ばれる断層より北は、白亜紀中期の有馬層群と呼ばれる火山岩、南は白亜紀後期の花崗岩が分布します。有馬層群は火山岩と言っても、7000万年も昔の話なので、現在の火山・地熱活動には何の関係もありません。有馬温泉の中には、民間所有以外に、神戸市所有の間歇自噴泉が幾つかあります。こlれらは下図に示す「ラッパ管」と呼ばれる、独特の方式で間歇自噴を行っています。
(1)ボーリング孔の中で、地下水位より上の位置に「ラッパ管」と称する、下開きのラッパ状の装置を設置する。
(2)ラッパ管の中には揚湯管が入っている。
(3)ラッパ管の中に地下水から分離した蒸気(CO2)が滞留する。
(4)管内のガス圧が高くなり、一定限度を超すと、ガス圧により孔内地下水が揚湯管から噴き出す。
(5)管内のガス圧が低下し、自噴が停止する。
(6) (3)〜(5)のプロセスを繰り返す。


 この機構は、人工的なボーリング孔内の出来事ですが、自然界でも同じことが行われていると考えられるのです。非火山性温泉は、何らかの形で断層のような地殻の割れ目と関連があります。この時、割れ目がボーリング孔に相当します。地盤内には、表土や断層粘土等の水やガスを通しにくい層があります(不透水層)。これがラッパ管に相当します。地下深部から遊離してきたガスが、地下水位と不透水層の間に滞留し、その圧力で地下水を押し上げると、地下水が地表に湧出することはあり得ます。水質が只の水であれば、只の湧水です。しかし、温度が高かったり、何らかの成分がついておれば、それは温泉になります。又、このプロセスは本質的に間歇的です。有馬の場合は、熱源岩体の規模が小さいことや、何よりも涵養水量が乏しいため、このプロセスの時間間隔はやや大きなものにならざるを得ませんが、岩体規模も水量も十分あれば、このプロセスは殆ど連続的に発生しているように見えます。湯村や道後温泉が常時自噴しているのは、そのせいと考えられます。
 以上のように、自噴泉は火山性であろうが、非火山性であろうが、自噴の機構は地下のガス(水蒸気、火山性ガス、C02)の作用によるもので、ガス圧のバランスが自噴の状態を左右するということが、理解出来たと思います。そしてこれが、温泉地帯での土木・建築工事で認識しておくべき、最も重要な点なのです。

自噴泉の作り方
 上記の機構を利用すれば、非火山性地帯でも「自噴泉」を造ることが出来ます。但し、何処でも、何時でもと言う訳ではなく、自噴を得るためには結構面倒な手間や時間が必要です。要するにトライアル&エラーが必要です。


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