福島汚染水処理と日本人

技術士(応用理学) 横井和夫


 ロシアが中国に続いて、日本からの水産物輸入を全面禁止した。何故か?まもなく始まる「一帯一路」サミットに出席するため、ウクライナ戦争開戦後、始めて中国を訪問する。その時の手土産か。この件では、中国は国際的孤立を深めている。ここにロシアという超大国が加われば、アリバイ作りの役に立つ。
 しかしロシアが放射性物質による海洋汚染を問題にする資格があるでしょうか?ロシアの前身である旧ソ連は、アメリカと並んで世界の二大核物質製造大国だった。ソ連の核実験場は二か所あり、一つはカザフスタンのセミパラチンスク。ここは主に原爆実験が行われた。もう一つが北極海に面するノヴァヤゼムリヤ島。ここは大気圏内水爆実験が1950 ~60年代にかけて行われた。中でも1961年には地球史上最大の水爆実験が行われた、そのエネルギーは広島型原爆の3300倍とも云われる。セミパラチンスクもノヴァヤゼムリヤ島も、実験場は未だ立ち入り禁止である。無論、これらの実験で大気中にばらまかれた放射性物質の量は莫大で、これに比べれば福島第一原発事故で生産された核物質など、ゴミ以下に過ぎない。
 米ソ核実験の残渣は現在でも観測出来る。その中にはトリチウムも含まれている。つまり我々は、今でも数10年前に米ソによって作られた、トリチウム水を飲んでいるのだ。なおストロンチウムなどの変幻気の長い物質は地中に滞留し、生物特にキノコ類によって濃縮される。その最も濃縮度が高いのがトリュフという説がある。日本の松茸はどうでしょうか?
 そんなこれまで散々地球大気を汚染してきたソ連の末裔であるロシアが、福島処理水海洋投棄を批判するなど笑止千万。自己矛盾も甚だしい。というわけで、ロシアによる日本産水産物輸入禁止措置は、あくまで中国習近平への、プーチンの媚びへつらいの明かしです。ロシアも落ちたもんだ。
(23/10/17)

 世界中のほとんどの国・・・但し所謂先進国・・・が了解しているにも拘わらず、一人飽くまで我が道を行くのが中国。云わずと知れた福島原発処理水海洋投棄問題。IAEAがOKを出しているにも拘わらず、国際監視団を出せと要求したり、今度は日本発の外航船全部に放射能測定を義務付ける決定を出した。当初は、只の日本イジメ、外交交渉手段かと思っていたが、どうも本気で放射能・・・トリチウム・・・を怖がっているのではないか、という気がしてきた。無論中国人全部が怖がっている訳ではない。現在の中国という国家の特質を考えれば、トップの誰かがこうだといえば、全てそうなる。その誰かというと、いうまでもなく習近平。習は本気で放射能・・・トリチウム・・・を怖がっているのかもしれない。
 習が怖がったもう一つがコロナだ。あの過剰ともいえるゼロコロナ政策は、コロナから人民を守るというより、コロナから自分を守るため、と読み替えたほうが、実態がよく分かるかもしれない。
 放射能とコロナへの恐怖はプーチンにも共通する。どうも独裁者というものは、目に見えないものに過剰に反応する傾向があるようだ。そしてそれを利用して国民を煽る。そういえばアベ晋三も野党の国会質問で、「日教組!日教組!」という下品でナンセンスなヤジを飛ばしたが、当時日教組など組織率3割りを切り、客観的には政治勢力としては殆ど脅威ではなくなっていた。それにもかかわらず、こんなヤジをとばすのは、頭の中に・・・例えばジジイの岸信介に刷り込まれた・・・古い「日教組脅威論」が消えずに残っていたからであろう。
 ”目に見えない脅威”の典型は陰謀論である。上にあげた三人の独裁者は、いずれも陰謀論の信奉者だ。ヒトラーは何でもかでもユダヤ人の陰謀に、スターリンやブレジネフも自分や共産党の失敗を西側資本主義者の所為にする陰謀論者だった。アメリカのトランプが陰謀論者なのは明らかである。
 独裁者の罪で最大のものは、自分の根拠なき思い込みを、全国民に押し付けることである。押し付けるだけでなく、刷り込みも諮る。今の北朝鮮をみればよく分かる。そして最初は人民をだますつもりで吹聴した陰謀論に、何時の間にか自分も取りこまれ、それから逃れられなくなる。独裁者とその周りが陰謀論から目覚めるのは、独裁者があの世に行った時だけだ。そしえて独裁者が長年かかって振り撒いてきた陰謀論など、あっというまに消えてしまうのが大抵のオチだ。
(23/09/15)

 「処理水」を「汚染水」と云い間違えたり、「中国の水産物全面規制は想像もしていなかった」と、ノー天気ぶりを発揮したり、非難轟轟の今の農水大臣だが、岸田だって似たようなものだ。今回の中国による日本産水産品全面禁輸は、短期的に見れば地域経済や水産業界にとって大変な痛手だが、その対策をやれ補償だの補助金だのという小手先でやっていたのでは、何の解決にもならない。今回の騒ぎは100年に一回位の、日本漁業の構造転換を諮るチャンスである。
 日本の沿岸漁業の特徴は、家族単位の小規模零細漁業ということである。その結果漁船は数10t程度の軽量な物が主体となる。何故こうなったかというと税金が関係する。船舶重量税は排水量49tを境に跳ね上がる。だから零細船主では漁船の大型化は諮れない。一方、中国・韓国は船が大型化すると逆に税金はやすくなり、政府の補助金まで出る。これでは勝負にならない。サンマ、イワシ等の回遊魚の取れ高が減ったのは、これが原因している。2010年東北太平洋沖地震の後、宮城県で漁港・漁協を集約化して構造転換を諮る動きがあったが、結局漁民・・・というより集約で既得権益を失う漁協と、それをバックにする議員・・・の反対で潰されてしまった。
 今日本産水産物輸入禁止をやっているのは、中国・北朝鮮・ロシアだけである。アメリカや、イギリス・EU諸国は禁止していない。しかし水産加工品の輸出先は圧倒的に中国・香港だった。であれば、輸出先をアメリカやイギリス・EUに広げればよいじゃないか、と思うだろうがそうはいかない。これらの各国は独自の基準を設けていて、それをクリアーしなければ輸入してくれない。その基準とは、ISO14000、所謂「環境ISO」である。
 ISO取得は事業所ごとに行う。零細事業者でこれを単独でやるのは難しいというより、殆ど不可能なので、1漁港につき加工所を一つに集約した上で申請したほうがよい。そしてISO資格を取得すれば、イギリス・EUへの輸出が可能になる。岸田は、水産加工品輸出先の多様化を諮るというが、くちさきだけでなく、国際基準を踏まえた業界の構造改革が必要なのである。まずISO14000取得だ。今はそのチャンスだ。小手先の琴線援助・補償で7誤魔化していては、そのチャンスをのがすだけでなく、日本の沿岸漁業の滅亡を招くだろう。
(23/09/01)

 東電福島第一原発から放射能処理水第一弾が放出されましたが、早速出てきたのが各地の”風評”。中国人が勝手にやるのは致し方ないとしても、それが日本農産物全般に及んだり、国内一部スーパーでも福島産を敬遠する動きがでるのは、その民度・知能を疑ってしまう。こうなるのも、これまでの東電・政府の取り組みに問題があったからだろう。特に岸田・経産西村等のようなボンクラが問題だ。彼ら、中でも岸田が分かっていないのが、危機管理である。危機管理で最も重要な点は、危機が生じたとき、それを今以上に広げないように早めに手を打つことである。
 岸田に危機逃亡癖があるのは、7月台風7号で西日本が豪雨に見舞われた時、呑気にヨーロッパに出かけて行ったことでも分かるが、処理水放出でも似たようなことをやっている。かなり以前の地元漁協への東電説明会で、漁民から「テメエが呑めよ!」と詰め寄られたとき、東電側は何も返事せず黙っていただけ。その時「無論、私が真っ先に呑みます!」と啖呵でもきれば漁師なんか単純だから、雰囲気は大分替わったはずだ。25日の放出でも、最初の処理水を岸田が呑めば良かった。信頼回復、序でに支持率回復にも繋がる折角のチャンスを、岸田は自ら潰してしまった。
 西村も放出前日に福島へ行って、マグロを旨いうまいとくっていたが、こんなパフォーマンス、なんの意味もない。それどころか、一日前にくるなんて、やっぱり処理水は危ないのか、などと余計な不安を与えるだけで逆効果に過ぎない。もし食うら処理開始後一カ月ぐらいたってからにすべきだ。
 放出批判者・・・マスコミや中途半端評論家・・・が一様に云うのは、「拙速だ、世間の理解を得てからにすべきだ」、などと責任逃れのたわ言。そもそも踏み出す足元が違っているのだから、幾ら話し合いをもっても、理解が深まるわけがない。無駄な話し合いなどせずに、筆者が云ったように、関係者に実体験してもらうのが一番良い。それを隠すから疑われる。
 なにを今更と云う感もあるが、岸田も西村も東電会長も、出来るだけ早い段階で現地に赴き、漁師やマスコミが見ている前で、処理水をグイーと飲み干す位のパフォーマンスをすべきだ。これにビビっているようでは話にならない。中国や日本の原発反対論者は、処理水放出で、まるで太平洋全体が汚染されるように思っているようだが、太平洋全体の水量からくらべれば、福島処理水など全量を放出しても、50mプールに涙一滴にもならない量だ。それと海流の流速から考えて、処理水が太平洋全域に達するのに何10年も掛かる。というより拡散範囲はもっと狭くせいぜいカムチャッカからハワイ程度。中ロが主張する大気圏放出こそ、トリチウムを全世界に、それも短時間にばらまくのだから、よっぽど問題が大きい。
(23/08/26)

 今月22日に福島第一原発放射能処理水の海洋放出開始と、いきなり発表。こんなことをするから地元民の反発を買うのだ。その余興として、本日岸田は福島原発を視察。それならそこで、処理水をテレビカメラの前で呑めばよい。それ位のパフォーマンスができなけりゃ支持率は上がらない。
 岸田だけでなく、内閣では経産・環境の各大臣、原発推進派の代議士、東電社長始め東電幹部も、岸田に倣って処理水を呑むべきだ。別になんともない。これは筆者が思い付きでいっているのではなく、科学が保障しているのだ。科学を信用するか、それとも訳の分からない陰謀論に組するのか、その分かれ目だ。
(23/08/20)

 福島第一原発処理水放出を巡って、今のところ国レベルで意義を唱えているのは中国だけになった。中国は対外的な脅しに輸入制限のような経済政策を絡ませて、いやがらせをする傾向がある。しかし大概失敗している。
 例えば2010年尖閣沖で中国漁船と日本の巡視船が衝突したとき、中国は日本へのレアメタル輸出を禁止して、日本のハイテク産業に圧力をかけようとした。しかしそれから6年後、どうなったかというと、日本は代替品の開発や調達先の多様化で対抗し、対中輸入6割り削減に成功した。その代わり、中国ではレアメタル輸出が6割り減少し、採掘業者の6割りが倒産した。その結果、レアメタル輸出は元に戻った。
 最近では、台湾バナナ事件がある。数年前中国はいきなり台湾産バナナの輸入を禁止した。バナナは台湾にとって重要な輸出品。それも大口輸入国は中国・香港。これをストップされると、台湾のバナナ農家は大打撃。これに対し日本が台湾からの大量買い付けを行ったので台湾は一息。お陰で日本でも、バナナ価格は下がり安定した食品になっった。
 福島産魚介類の輸出額の7割りは中国・香港。これがストップすれば台湾バナナと同じ死活問題だ。これに対し、福島産魚介類を国内販売に回せばよい、そうすれば魚の価格が下がっていいとこずくめだ、という意見がネットに載っていた。いささか単純過ぎる感もするが、今後の食糧問題を考える上でも、真面目に考えたほうが良い。
(利点・長所)
1、国内産を国内で売るのだから誰からも文句は言われない。
2、食糧自給率向上に貢献できる。
3、流通過程での誤魔化しを捕捉しやすくなる。
(短所、或いは問題点)
1、風評被害に耐えられるか?つまりビジネスとしてなりたつか?・・・処理水放流に関するある世論調査によると、賛成は約55%、反対は35%という数字が出ている。この数字を信用すれば、風評被害は起こらないと考えるのが普通。
2、国内市場に大量の福島産が流入すると(他府県産)が値崩れを起こす・・・これで始めてまともな競争が始まる。
 仮に中国が福島だけでなく、日本産海産物輸入を全面禁止すればどうなるか。なんといっても、中国・香港では、日本産海産物の人気は高い。それがはいってこなくなるのだから、目に見えているのは、中国の海産物輸入勝者の大量倒産である。結局は習近平政権の失策として、政権支持率の低下を招くだけである。これが分からないのが、中国文化大革命世代の最大の欠点だ。未だに頭の中には「毛沢東語録」が残っているのだろう。
 福島県漁民も、ありもしない風評被害などに脅えてばかりいるのではなく、科学的根拠に基づいて、積極的に販路拡大に注力すべきである。なんとなく、福島県漁連や福島県、宮城県等の近辺ステークホルダーが風評をばらまいている感がする。
(23/08/09)

 公明の山口が東電福島処理水海中放出について「海水浴期間中は控えたほうが良い」などと、余計な口出し。公党の代表自ら”風評”をばらまいているようなもので、無責任極まりない。政府・東電にとっては、当に「背後からのナイフ」的発言だ。これで自民内に自公連立解消論が強まるだろう。
 筆者の立場は処理水海洋投棄は積極的に賛同もできないが、かといって反対する理由もない、というものである。海洋投棄反対論者・・・特に中国共産党及び韓国進歩派という嘘つき集団・・・の主張は、長期的には生物を介してトリチウム体内被曝が発生し、健康被害が発生するというものである。トリチウム粒子を取り込むことはあるが、それが直ちに健康被害には直結しない。むしろ目的は国内向けウケ狙いと考えられる。
 西太平洋の潮流分布・・・理科年表でもネットでも、誰でも見れる・・・を見ても、誰も福島沖の潮流が韓国・中国沖に達するとは思わない。なんならChatGPTに聞いてもよい。韓国でも中国でも消費者の力は強い。消費者は食物の安全性に敏感だ。そのため、魚介類でも産地表示が義務付けられる。ところが中国も韓国も近海の水質汚染で、主力は海外遠洋漁業にシフト。中でも日本近海産、特に福島沖産は人気が高い。そこへ今回のトリチウム騒ぎだ。中国・韓国の水産業者にとって死活問題になる。これが中・韓両国が処理水放流に反対する根本的な理由である。つまり中韓両国の海洋投棄反対は、環境問題ではなく国内産業保護が狙いなのだ。山口の海水浴発言は、中・韓両国の非現実的イチャモンに匹敵するナンセンス。自分が何を言っているのか、分かっていないのだろう。
 なお今回、福島で放出されるトリチウムとは桁違いのトリチウムが、かつて大気中に放出されたことがある。それは1950年代後半に、米ソで行われた空中核実験である。これで生産されたトリチウムは風に乗って、世界中に拡散し、地下水に潜り込んで、今も精密な測定を行えば検出される。つまり、1950年代後半以降、世界中の人はなにがしかの形でトリチウム汚染食糧を食べているのだ。それでもトリチウムによる健康被害等聞いたことがない。以前、韓国野党指導者が福島にやってきて、日本の経産省か東電だかの誰かに「処理水を呑め」と迫ったことがある。日本側は黙って飲めばよいのである。少しでも躊躇したところを見せると、それみたことか、となる。
 福島汚染地下水よりもっと酷いのが中国の地下水汚染だ。最近になって中国原発のトリチウム排出量が明らかにされたが、もッと酷いのがレアメタル、レアアース採掘・精錬に伴う排水。中韓両国の河川水と福島処理水の水質を比べたら、福島のほうが綺麗だ。
 今リニアでトンネルから出てくる水が、静岡のものか山梨のものかもめているが、これもトリチウムを測定して地下水流動経路が判れば、決着するかもしれない。但し一か所では駄目だよ。広域的に何か所も測定しなければ、何にもわからない。
 nお福島汚染水についていえば、もっと原発周辺の地下水調査をまじめにやって、それに合わせた対策を取れば、汚染水は1/10以下の量で済んだはず。それをせずに、只漫然と教科書に書いてあるようなことを繰り返してきたから、今のような目にあったのだ。
(23/07/03)