アメリカの盛土
 


今、ハリケーンリタがテキサスに接近中です。そこで思い出したのがカトリーナの件。こないだ、あるTVでニューオーリンズでの堤防復旧工事の様子の映像が少し流れた。どういうことを、やっていたかたというと、採石のような粗い材料をダンプで持ってきて、それを堤防の上に積み上げているだけ。転圧など行っている様子もない。又、材料が転圧が効くようなものではない。ズバリ、これでは復旧になっていない。少し大きいハリケーンがやってきて、川や湖の水位が上がれば、直ぐに持って行かれてしまう。それと何か、薄っぺらな擁壁の映像があったが、USTRはまさか、これを堤防と云っているんじゃないでしょうねえ。ニューオーリンズの復旧は基礎から間違っているということです。この時期のハリケーン(日本の台風も同じ)は、一度来たら次に又来ると考えなくてはならない。だから本復旧工事はハリケーンシーズンが終わってからで、その間は応急復旧工事で対応する。その場合の築堤形式は大型土嚢のような、耐久性はなくてもよいが、施工が簡単で、ある程度断面剛性を持つ(自立性のある)材料を使うのが常識。
 そもそも近代的な築堤技術の基本を作ったのはアメリカ。中でもUSTR(合衆国陸軍工兵隊)はその中心として令名高い。戦前1930年代では、ウェストポイント卒業生の内、最も優秀な生徒は工兵隊に行き、一番駄目なのが歩兵とか騎兵に進んだと云われる。アイゼンハワーやパットンも劣等生だったのだ。我が国のダム、道路、空港等の土質構造物の設計・施工技術基準の多くはUSTRのスペックを採用している。又、国連援助事業の技術基準もUSTRスペックに基づくものが多い。そのような伝統あるUSTRが管理して、このような工事をやるようでは、アメリカには最早土木技術がなくなったとしか考えられない。その原因はレーガノミックスにある。レーガン政権下で、アメリカは公共事業をやらなくなった。その結果、アメリカでは土木技術者を目指す人間がいなくなり、みんな建築に移ってしまった。その結果がニューオーリンズの惨事である。
 なお、復旧工事は連邦政府予算でやるらしい。既にチェイニーのお友達のゼネコンが、復旧予算を分け分けしていると云われる。こういうのは談合とは云わないのだろうか?筆者のカミサンの友達の娘が今NYにいるが、その話しによると、一般のアメリカ人はこういうこと・・・ブッシュに近い人間が連邦予算を好きなようにしていること・・・を殆ど知らないらしい。我々はよく「税金の使い道をチェックしよう」と云われる。そのモデルがアメリカだが、現実のアメリカ人は、税金の使い道について無関心なのだ。おそらく、ルイジアナ州やニューオーリンズ市は、復興工事後、災害復旧とは関係のない、訳の分からない、工事の請求書を突きつけられることになるでしょう。何故こうなるかと言うと、小さい政府だからである。小さい政府の場合、普段から専門家を育てない。だからいざとなると対応がとれず、専門家と称する民間会社まかせになる。それが一部の政治家と結びついて居れば、あとは説明する必要もないでしょう。
 阪神淡路大震災の時、復旧工事の主体を握ったのは神戸市と兵庫県、あとは各民間事業者。国が直接関与する部分は殆ど無かったのである。だから復興需要は世間が期待するほどではなかった。震災直後、現地には東京のゼネコンがあふれていたが、一月もするとみんな引き上げてしまった。何故か、というと、当時の神戸市や兵庫県には、復興事業に携われる技術者が、沢山残っていた。つまり、大きな政府だったのである。だから買い物は、小さくて済んだ。ところがルイジアナ州やニューオーリンズ市は、おそらく連邦政府に忠実に、小さい政府を目指したのだろう。ところが、いざというときに対応がとれず、結果として大きな買い物をしかねかねない。要は、政府が大きいか、小さいかは本質的な問題ではない。必要以上に大きな買い物をしなくてよいか、どうかで政策を選ぶべきなのである。なお、これはアメリカだけのことではない。日本も何れこうなる。それも極く近い内にだ。(05/09/23)


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