堤防強化工法

 淀川流域委員会で4ダムの建設が下流3自治体に拒否され、突如浮かび上がったのが「堤防強化案」。筆者はこれを、てっきり下図の様に、堤防の内法を急勾配で切り土、通水断面を拡大した上で堤防を補強土工法で強化するものと思っていました。ところが、国交省の資料を見ると、国の云う「堤防強化」とは、既存堤防のほころびを繕うだけの根本的解決にほど遠い、安易な誤魔化し手段に過ぎないことが判りました。そこで一旦あきらめかけたのですが、元々の考えも悪くはないと思い、改めて筆者なりの構想を提案します。

1、基本構想 
 そもそも、「堤防強化工法」が基準化された経緯は、数年来の局地豪雨(04年北越豪雨、06年山陰豪雨その他)で河川堤防が破堤し被害が拡大した事に対し、中小河川堤防に対する応急処置法として提示されたものである。ここで中小河川とは、一級河川でも自治体委託河川及び二級河川を云い、直轄一級河川は含んでいない。平成16年に国交省から「中小河川堤防点検の手引き」が出され、これが堤防強化法の根拠になっている。この指針の考え方は@堤外への越流は許容するが、A破堤は防止する、というものである。筆者の個人的見解としては、これは甚だ現実無視の、虫のいい考えとしか言い様はない。何故なら、堤防越流という豪雨の場合、殆ど何処かでの破堤は避けられないからである。
 ことの発端は熊本県川辺川ダムに関し、県知事がダム計画放棄の代案として出した「堤防強化」と「洪水との共生」なる意味不明・無責任発言である。「洪水との共生」とはどういう意味なのか?言葉はきれいだが、共生を強制させられる住民こそたまったものではない。国交省は床下浸水までは認めるが床上浸水は防ぐ、と説明しているらしい。では、床下浸水と床上浸水を何処でどう区別するのか?そんなこと現実に出来るのか?というのがワタクシのような現場技術者の疑問である。無論浸水シミュレーションなどで浸水地域の範囲は判る。しかしシミュレーションは所詮シミュレーション。当たるかどうかは判らない。又洪水共生地区に指定されれば、そこは半永久的に浸水地区になる。資産価値は激減し、回復の見込みもない。出来るだけ越水を避けるか、越水の範囲を低減する事が望まれる対策である。ダムも駄目、遊水池も駄目なら、河川の通水断面を増やす以外にない(地下にバイパス河川を設けるという方法もあるが、それはここでは触れない)。そこで筆者が考えたのが下に示す「急勾配補強堤防」である。
 国交省「・・・の手引き」に拠れば、強化堤防が具備すべき機能として次の3点を挙げている。
 (1)対浸透機能
 (2)対浸食機能
 (3)耐震機能
(1)対浸透機能
 洪水時の、提体への浸透水によるパイピング、或いは提体下への浸透水による基礎地盤のパイピングを防止する機能である。基本的な対策は提体幅を大きくして流線長を長くするなり、土質改良により地盤の透水性を低下させて、提体内及び基礎地盤下の流速増大を防止することである。
(2)対浸食機能
 提内からの浸透水が外法に達したとき、提体表層が浸透水により浸食される現象である。この結果提体断面が減少し、(1)と合わさって破堤に至る。これの対策としては提体内での流速を低減したり、堤防表面の土質を浸食されにくい礫質材料に置換するなどの方法が採られる。
(3))耐震機能
 地震時での安定性の確保である。河川堤防の場合、特に留意すべきは地震時における基礎地盤の液状化である。

2、基本形状
(概要)
 @内法を急勾配で切土し、河川容量を増大させる→提外浸水域の発生を低減する。
 A河川内の土地有効利用面積を増大させる→親水(河川アメニテイー)空間の増大
 B切土により提体断面が縮小し、安定性が低下するが、これには適宜補助工法を適用して所要安定性を確保する。
  ○河川内切土斜面に対してはロックボルト等による補強を行い、すべりに対する安全性を確保する。
    ●水位急降下時
    ●地震時→耐震機能
  ○切土表面に対しては複合強化土工法(緑化可能で景観適応性も良い)、ポーラスコンクリート等による表面被覆を行う。→対浸食機能
  ○提体内土質改良による浸透圧の低減、遮水壁により浸透路長の増大を計る。→対浸透機能
 C基礎地盤が軟弱な場合は適宜地盤改良工法を併用する。
 D施工条件により、以下に示すようなバリエーションが考えられる。 

3、バリエーション
3-1)抑え盛土工法
  〇切り土による断面欠損部分を提外の抑え盛土で補完する。→対浸透機能
 (問題点)
  ○抑え盛土に要する用地確保。

3-2)提体内土質改良
  ○提体の一部を土質改良し透水性を下げ、提体内浸透圧を低減する。→対浸食機能
  ○提体下に遮水壁を設け必要浸透路長を確保する。→対浸透機能
 (問題点)
  ○環境基準を満足する改良工法の選定が重要。 

3-3)遮水壁

  ○提体内(基礎地盤の透水性が大きい場合は地盤内まで)に連続遮水壁を築造し、浸透圧の低減及び浸透路長の確保を図る。→対浸食機能、対浸透機能

 ○遮水壁の要求機能は提体の透水係数を1〜2オーダー下げればよい。不必要に強度の大きいものは不要である。工法としては土とセメントとのミキシング工法が挙げられる。


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