トンネル脱獄探知法

横井技術士事務所

技術士(応用理学) 横井和夫


1、 昨日(15/07/12)メキシコで、郊外の刑務所から麻薬シンジケートの大ボスが脱獄した。約1.5㎞のトンネルを掘ってそこから脱獄したらしい。こんな脱獄事件は前にもあった気がする。脱獄の逆だが20年ほど前、ペルーのリマにある日本大使館が極左過激派に占拠された事件があった。これに対し当時のフジモリ大統領は、外からトンネルを掘ってそこから特殊部隊を突入させ左翼ゲリラを制圧した。と言うことは中南米は結構トンネルが掘りやすいのだ。トンネルが掘りやすい地域は中南米だけでなく、北米や中東、中央アフリカからヨーロッパに広がっている。映画「大脱走」ではドイツの捕虜収容所から連合軍捕虜が集団脱走することになっている。
 これらの地域の地盤の特徴は、地下水位が低く地山の地質も単調で変化に乏しいことが挙げられる。こういう場所では、浅い土被りでも地山は自立する。また固結度も低いから、原始的な方法・・・例えば手堀りで木製支保工・・・でもトンネルは掘れるのだ。では日本ではどうか?日本ではなかなか難しい。何故なら日本の都市部は概ね沖積平野に発達している。こういう地域は地下水位が高いことと地山の変化が大きく、目論みどおりには行かないからである。従って地表から薬液注入などの補助工法とか鋼製セグメントが必要だとかという話になる。これがべらぼうに高い・・・薬注屋とか鉄鋼メーカーが相手の足元見て吹っ掛けてくる・・・ので、こんなことをして脱獄や銀行強盗をやっても、採算が採れないのである。

2、それはともかく、トンネルを利用した脱獄を事前に探知できないのでしょうか?とんでもない、我々プロの地質屋が一般の地質調査でやっている地下探査法の中では大したことはない。せいぜい中級者コースのようなものだ。ここでは中南米や中東をイメージして、トンネルを利用した脱獄を事前に探知する方法を考えてみましょう。
 こういう探査を「空洞探査」という。空洞とは地下に一定規模以上の大きさを持つ地質的欠陥である。一定規模とはなにかというと明確な定義は無いが、筆者の考えでは人間かそれに相当する大きさの生物が入り込める程度の大きさである。この種の空洞探査には、従来廃抗探査とか石灰岩の鍾乳洞探査などがあった。これらの空洞は昔から存在しており、いわば固定目標だった。おまけに鉱山の記録だとか、地表面での特徴的地形がその存在を教えてくれる。しかし脱獄トンネルがこれらと違うのは一つは何処からやってくるのか、もう一つはその位置が日々刻々変化するということである。一方有利な点は、廃抗や鍾乳洞は深さによっては探知不可能レベルのケースがあるが、脱獄トンネルの場合、深さなど大したことはない(せいぜい5~6m)ので、その点に気を使う必要は無いということだ。

3、筆者の場合、ある問題の解決法を考えるとき、その問題が生じたときの状況を想像してみる。想像できれば、問題点が次第に具体化してくる。その問題点に対する対応策を考える。これが出来ると後は大したことは無い。この問題は大きく次の2ステージに分けて考えたほうがよい。
    1)トンネルを掘っているかどうかの判断と、そのルートの予測
    2)トンネル位置の確認と待ち伏せ
1)トンネルを掘っているかどうかの判断と、そのルートの予測
 まずトンネルを掘る場面を想像してみましょう。トンネル掘削法には大きく(1)爆破掘削、(2)機械掘削、(3)手掘りの三種類がある。(1)爆破掘削派ダイナマイトなどの爆薬を使って掘削する方法だが、これは効率は良いが爆破振動が大きいので何をやっているか直ぐに判る。(2)機械掘削はブレーカーを使って地山を破砕しトンネルを掘削するものである。(1)に比べ振動は小さいが、高精度の地震計を使えば容易に探知できる。、(3)手掘りは前2者に比べ遥かに振動騒音問題は少ないから、探知はしにくいのだが、物凄く時間が懸かるので、脱獄したい大ボスが我慢してくれるかどうかが問題。
 筆者の考えでは(1)(3)はまず無理で組織側としては(2)機械掘削によるしかない。これから発生する振動を高精度振動計(無論日本製)で捉えれば、組織がどの辺りでトンネルを掘ってるかは直ぐ判る。
2)トンネル位置の確認と待ち伏せ
 1)で在る程度組織が行動していることは判るが、具体的にどの位置にやってくるかは曖昧である。そこで登場するのが地下レーダーと称する電磁波探査法。これは日本のような地下水位が高く、地形地質も複雑な場所では、行動できる場面は限られるのだが、メキシコや中東のような地域では十分機能する。刑務所の外側に側道を作っておき、地下レーダーで定期点検をやっておけば、脱獄トンネルがどの場所にやってくるかは直ぐ判る。無論待ち構えていても、刑務所側から反撃トンネルを掘って組織を一網打尽にする方法もある。

4、問題点
以上をまとめると、刑務所の外側に振動計をばら撒いておき、そこになにかひっかったのがあれば、それを捕まえようという発想である。しかしこの中に組織に買収されたものがいれば、この考えはたちまち瓦解しかねない。そこで筆者が言いたいのは、得られたデータを全てインターネットで公開することである。こうすれば犯罪組織も自分がやっていることが全て把握されていることに気付く。従ってウッカリしたことは出来なくなるのである。
(15/07/13)