次世代型原子力発電所(地下式原発)


横井技術士事務所   技術士横井和夫

 地下原発推進議員連盟と言う団体が超党派で結成されたらしい。当社はああいういかがわしい連中と関わりはありません。こんな物に何故議員連盟が必要なのでしょうか?原発を地下に作るかどうかなど技術屋に任せておけばよい。欲ボケ議員に後ろでウロウロされると、出来るものも出来なくなってしまう。
(11/06/01)


 ここで議論するのは次世代型原子力発電ではなく、あくまで原子力発電所のタイプである。これまでの原子力発電所は、その構造に本質的な問題が多く、最早現代的ではない。
(1)海に近すぎる。その結果標高が低い。海からの侵入が容易である。
(2)明かり(オープン)施工である。そのため原子炉本体やタービン室など、重要施設が地上にむき出しになっている。
(3)その結果、地震・津波やテロ、或いは某国からのミサイル攻撃・艦砲射撃など外的脅威に対し根本的脆弱性がある。
(4)そもそも設計の思想が古い。特に建家や構造物の設計が、いまだに「耐震設計」という旧世代技術にしがみついている。
 従来の原発は、主にプラント屋(発電屋)の発想に基づいたものであった。これが(2)外部の脅威に対する脆弱性を産んでいる。次世代型原子力発電所は、これらの欠陥を解決出来るものでなくてはならない。その一つとして原発地下立地がある。以下はその私案であるが、これの思想は主に土木(トンネル)及び地質の観点に基づいている。

1)原子炉本体、タービン室等最重要施設は地下に収容する。こうすれば、テロや津波に対しても安全。地下は地震動も地表よりは小さくなるので、地震に対しても安全である。

@非常用給水タンク;特に説明の必要なし
Aベント、非常時注水用パイプ収納立て坑;これも特に説明の必要ないが、将来の廃炉で、原子炉室をコンクリートで充填するとき、この種の立て坑は色々役に立つ。
B原子炉本体坑;直径、高さとも数10m級の大断面空洞で、もっとも重要度は高い。十分な土被りとともに、良好な岩盤状況を要する。施工は基本的にNATMで無普請とする。図で髭のように延びている線はアンカー。
Cタービン、管制室等;これも数10m級の大断面トンネル。同上
D外部との連絡用サービストンネル;施工時の作業導坑、資材搬入坑と同時に、運用後は作業員の通勤、物品の搬出入、使用済み核燃料の取り出し、緊急時避難路等様々な用途に用いられる。従って、直径で10〜12m位の断面が必要になるだろう。
E管理棟、受送電施設他外部施設区域;BCに比べ重要度の低い施設をこの区域に集約する。但し、福島事故を踏まえ、この場所は海岸線から数q離れているか、海水準より少なくとも15〜20m高所とする。
F取排水トンネル;海までの間に堆積層Iがあれば、その下を、又中間に民地公共用地があれば、地表から最低40m以上の土被りを確保すること(「大深度法」)。
G取排水施設;これも岩盤等十分安定な地盤に設置すること。福島事故ではこれが盛土の中にあった疑いがある(震災後のピット部分の亀裂)。
H原子炉〜タービン室連絡トンネル;Dと同様。
I堆積層;海岸近くではしばしば軟弱な沖積層が分布することがある。
J岩盤;従来の発電所での建家に相当するものである。従来方式では建家があまりにも脆弱であった(殆どバラック並み)。地下立地方式では、建家にCH級以上の岩盤を用いる。従来の建家に比べ遙かに強い。只のバラックが高級建築並みの施設になる。
Kサージタンク、汚染水処理プラント;福島事故でも汚染水の処理に大変困りました。そこで出てきたメガフロートを、先に作っておこうという老婆心。

2)「耐震設計」という旧世代の設計法を排し、BCEの様な重要施設には免震設計や制震設計という最新設計法を取り入れる。この結果、原発施設の対地震安全性は遙かに向上する。それにしても、原子力安全委員会や電力業界がなぜ、今まで「耐震設計」に拘ってきたのでしょうか?確かに日本で原子力産業が始まった頃は「耐震設計」は最新の技術だったのだが、今や陳腐化している。それをいまだに変えようとしない。謎ですねえ。原発そのものが「国策」だったから、現実派の技術者が改善を提案しても、国策官僚や国策学者が反対したためではないか。かつての大日本帝国陸海軍で、似たようなことが一杯起こっていた。歩兵などやめて航空と戦車を重視すべしと主張した東久邇宮は、歩兵が国策と信ずる陸軍中央に睨まれて干されてしまった。大艦巨砲主義を国策と信ずる国策官僚軍人は、戦艦大和などというナンセンスモンスターを作って国を滅ぼした。

 もう当たり前の話しだが、明かりによる原発新規立地は当分無理だろう。と言うことは、次世代原発は今の原発近くに立地せざるを得ないのである。現在稼働中の原発で、設計寿命を過ぎたプラントは出来るだけ早期に廃停止し、その背後に地下発電所を作り、現発電所用地はハイレベル廃棄物処分場に転換すべきである。
 なお、このタイプの次世代原発は地質的には、日本中何処でも出来るわけではない。西日本は海岸近くに先新第三紀基盤山地が接しているケースが多いので、有利である。特に本当は瀬戸内地方が一番有利である。理由は安定した花崗岩が広く分布していること、外洋の震源地と離れていること、直下地震も大したことはない。しかし、問題は人口密集地が多く、民意が五月蠅い。特に広島ヤクザや瀬戸内環境団体が邪魔をする。逆に東日本の方が不利である。基盤山地が海に近い地域は東北地方なら北上・阿武隈山地しかない。つまり、東通とか柏崎などはが地盤が新第第三紀層だから、そもそも本案の主旨には合わない。福島は始めから、背後の阿武隈山地に立地しておけば、今回のような惨事にはならなかったのである。
 実は筆者が原発地下立地を思いついたのは今が始めてではない。今から30年ほど前、あるコンピューター会社の営業がやってきて、「PICESS」というソフトを売り込んできた。そのパンフレットを見ていると、「PICESS」ソフトの応用例として、某国ミサイルが原発建家に命中したときの、破壊プロセスの解析というのがあった。誰が考えても、ミサイルが命中して助かる原発建家などある筈がない。こういう馬鹿馬鹿しい計算をやっている暇があれば、原発を地下に埋め込んだ方が手っ取り早いと考えるのが当たり前。最近になって、原発地下立地案が取りざたされているが、実は電力業界の一部では25年位前に検討されている。経営者が採算を理由に、それを無視してきたに過ぎない。
(11/05/12)


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