原発とその安全性

技術士 横井和夫

 


 四国電力伊方原発3号機再稼働差し止め訴訟で広島高裁がまさかの原告勝訴。理由は阿蘇山再噴火による影響が無視できないというもの。つまり阿蘇山噴火による火山放出物が、伊方原発に及ぶ可能性があるという判断である。地質屋の一人としてこの判断はいささか教条主義的ではあるまいか、と思う。
 火山噴火で発生する物質には大きく次の3者がある。
(1)溶岩
(2)火砕流及び火山放出物
(3)火山灰
 今後阿蘇山で起こる火山噴火は安山岩あるいはデーサイト質の活動と考えられる。その場合
(1)溶岩の量は僅かで、且つ粘性が高いので長距離を流れることはない。塊となって山麓周辺にとどまる。
(2)は火山泥流や砕屑物、火山弾などの雑多な物質集合体である。実はこれが最も危険なのである。9万年前の大噴火では、火砕流はほぼ南九州全土を覆っている。しかしこの時の阿蘇山は高さ5000mに達する巨大山塊だったとも言われる。9万年前にはこれの殆どが噴き飛んだのである。それに比べれば現在の阿蘇山はその残骸に過ぎない。つまりマグマが上昇してきても吹き飛ばすだけの材料がない。マグマは溶岩となって現地にとどまる。無論一部は火砕流を作るが、四国方面には途中に海があるので、そこで急速に冷却されるから伊方に到達することはできない。
(3)火山灰は軽いので数1000m上空まで上昇し、成層圏を覆う。その結果数年かそれ以上地球は寒冷化するだろう。穀物価格は上昇し、世界各地で紛争が起こるかもしれない。そっちの方が大事だ。しかしこれは伊方原発とは無関係。経済・政治の問題だ。
 かといって筆者が伊方の再稼働を無条件で賛成しているわけではない。その理由は対面の伊予灘における「中央構造線」の存在である。これが活断層であることは図らずも一昨年の熊本地震で証明された。中央構造線の活動域は幾つかのセグメントに分かれるが、伊方のある西予地域もその一つ。九州セグメントが一昨年起こったので、西予セグメントもそのうち動くだろう。無論福島のような津波はあり得ないが、あまりにも活断層に近いのでその揺れ方が従来のカテゴリーに当てはまるのかどうか、疑問なのである。
(17/12/14)

原子力規制委員会の新安全指針案骨子が発表されました。詳細は他マスコミに詳しいのでここでは触れません。中にはどうでも良いような者もありますが、この中で筆者が気になった点をいくつか挙げて、所見を述べることます。
1、航空機の墜落にも耐えられる壁を持った補助管理棟を別に設ける。
2、フィルター付きベントを設ける。
3、津波防止提を設ける。主電源が停止しても24時間可動可能なようなバッテリーを設ける。ケーブルを不燃性のものにする。その他
4、活断層の範囲を40万年以前まで広げる。

1、航空機の墜落にも耐えられる壁を持った補助管理棟を別に設ける。
 何故航空機の墜落が補助管理棟だけなのでしょうか?原子炉建家には落ちてこないのでしょうか?墜落してくるのは飛行機だけでしょうか?北朝鮮のミサイルは考慮しなくて良いのでしょうか?そもそも従来、こういった問題を議論してこなかったことが問題である。今から40年近く前、あるコンピューターソフト会社が、私のところにパイセスというプログラムを売り込みに来た。1ケース600万円という経費に驚いて使ったことは無かったが(今ではもっと安く、PCで動くバージョンもあるでしょう)、その時見たパンフレットでは、用途としてミサイルが原子炉建家に衝突したときの、建家の破壊シミュレーション例があった。アメリカでは40年以上前から、こういう過酷事故を想定していたのである。それに比べれば、日本の通産省(当時)や電力会社の無神経鈍感さ・平和ボケが如何に酷かったがよく判る。今回もテロなどのケースは滅多にないからと対策を見送った。しかし、福島の時も既に警告があったのにも関わらず、そんな地震は滅多に無いと対策を見送ったからあのザマなのである。1000年に1回の地震と、テロに襲われる確率を比較すれば、どちらが高いか直ぐに判りそうなものだ。
 その他、相変わらず設備・機械重視の発想から抜け切れていない感がする。筆者が既に述べているように、古い函型建家は構造としてはバラックのようなもので、過酷事故に対し極めて脆弱である。この形式を用いている原発は原則として廃炉にすべきである。東電柏崎、中電浜岡など)廃炉が出来ない場合は、現在の建家を撤去してドーム型に立て替えるか、外側に補強壁(今のようなバラックではなく、全体一体化する構造を有すること)を設置すべきである。円筒・ドーム構造でも過酷事故に対する安全解析を行い、必要であれば補強する。
 又、基礎についてなんら言及が無いのが気に懸かる。おそらく規制委員会のメンバーの中に、建築屋や土木屋がいないのでしょう。メーカー主導体質から一歩も抜け出せていない。
2、フィルター付きベントを設ける。
 これは別に構わないのだが、ベント弁他減圧弁を、過酷事故下でも確実に作動出来るようなものに取り替える必要がある。福島のように肝心の時に開かない弁では話しにならない。なお、ベント弁を煙突の様に屋外に立てるようになっているが、これの耐震性は問題になる。トンネル形式にして地下から地上に排気出来るようにした方が、地震に対しては安全である。なお、原発炉体には多数の排気弁が使われているが、これが炉体毎に違っている可能性がある。出来るだけ、形式を統一化しておいた方がよいだろう。
3、津波防止提を設ける。主電源が停止しても24時間・・・・・・・
 どうでも良いような事なので省略。
4、活断層の範囲を40万年以前まで広げる。
 これはいきなり出てきた話しである。40万年の根拠は何か?丁寧な説明が必要である。言い出した規制委員会の嶋崎は、人間活動の高まり云々と訳の判らないことを云うが、全く説明になっていない。活断層が原発で問題になるのは、地震の発生確率である。これは地殻変動の活発さに関係する。地殻変動は人間活動とは何の関係もない。何の関係もないことを無理矢理くっつけることを「牽強付会或いはこじつけ」という。本来活断層の定義は、中新世以降のネオテクトニクスという時代における”その地域”の、地殻変動の状況から決められるべきである。 ここで”その地域”と地域を限定しているのは、地球は広い、従って地殻変動の状況も場所によって大きく異なっても当然だからである。例えばアフリカで起こっている現象を、そのまま日本に持ってきてもナンセンスである。
 地殻変動量は地盤隆起量で表すことが出来る。日本及び世界各地のネオテク時代の地殻変動量が求められている(下図の左)。これによると、アジア各地では100万年ぐらい前から隆起を始め、50〜60万年前ぐらいから活発化していることが判る。これを活断層期の始まりとしても良いのだが、その後の地殻変動は一様定常的とは限らない。つまり休止期と活動期が繰り返すはずである。これを近畿地方でもう少し詳しく表したのが右の図である。これによると三つのイベントが読みとれる。第一は基盤岩の隆起が始まった時期で、これは大阪層群の層準ではアズキ火山灰の時代であり、約70〜80万年BP、第二は丘陵面の隆起が始まるMa8〜10イベントである。これは30〜40万年前BPである。第三は高位段丘面の始まりで、おおよそ20万年BPである。それぞれの中間が休止期で、イベントの開始が活動期見なる。近畿地方では今のところ、高位面が発生した時期が最も新しい活動期と考えられるのである。

 活断層の定義の中に、「最も新しい時代に活動し、今後も再活動が予想される」というものがある。


 日本の原発建家には大きく分けて次の2種類がある。
1、函型建家
2、円筒+ドーム型建家

函型建家(東電福島第1 1999) 円筒+ドーム型建家(関電大飯)

1、函型建家
 これは上に挙げた中電浜岡原発を始め、東電福島第1、第2、柏崎刈羽など東日本の、それも供用後40年以上を経過するようなサイトに多く見られる形式である。福島第一ではTP34〜35m程の海岸段丘を、TP10m迄掘削した上で建築している。その上に盛土をしているので、一部のプラントでは地下2Fという表示もあるが、これは真の地階ではなく、只の覆土である。
 ではこの種の建家の構造はどういうものか?電力会社はその詳細を出さないので、我々は別の側面から推測しなくてはならない。下の写真は福島第1原発4号機の最新の映像である(NHK)。これから、このタイプの建家の構造が見えて来る。

1)基本的な骨組みは、RC造の単純梁構造である。
2)壁はブロック毎につくられており、壁と柱や梁とを繋ぐ鉄筋が見られない。あっても大したものではない。つまり、骨組み構造と壁とは一体ではなく、その境界が構造上の弱点となり、少し力が加われば簡単に剥がれてしまうレベルのものである。
3)壁にも十分な鉄筋が入っているようには見えない。そもそも鉄筋が細い。こんな鉄筋、今時安物のマンションでも使わない。
4)天井にトラス状構造物が見えるが、これはクレーンの走行路であり、建家の構造体ではない。
5)斜材のような耐震構造物はみられない。つまり建築後耐震補強が行われていない可能性が高い(東電は過去常に耐震性は問題はない、と言い張っていたが、それが本当か疑わしくなる写真である)。
6)地下1〜2F程度であり、建家の大部分は地上に露出する。建家は40〜60mの高さがあり、地震時には著しく不利になる。よく揺れるということだ。

 一方、柏崎刈羽原発は福島第一と異なり、下図に示すように建家全体の2/3近くが地下に埋設されている。建家そのものの構造は福島と大差ないだろう。地下に埋設されている分だけ、基礎部の耐震性は高いが、地上部分の構造が如何にも華奢である。これでは福島と同様事故が起こった場合、全面的に破壊され、放射性物質の広域拡散は避けられない。

 つまり函型建家は、設計思想として最早前時代のものであり、構造的にも現在の設計基準に適合しないケースが考えられる。更にこの種の建家が如何に過酷事故に脆弱で危険かは、福島事故で証明されている。従って、このタイプの建家を有する原発は早期の廃炉、或いは地上部分の構造補強や二重覆蓋のような放射性物質拡散防止施設の設置が必要である。

2、円筒+ドーム型建家

 このタイプの建家は関電始め西日本の電力会社、東北・北海道など、比較的後期に建設された原発に多く採用されている。構造はPCシェルといって、函型のRCとは全く異なる。これは縦と円周方向に鉄筋を組み、それに沿わせてPC鋼線を張って、コンクリートに初期緊張を掛けるものである。その結果、コンクリートにプレストレスが加わるので、RCに比べ遙かに高いコンクリート強度が得られる。又函型のように、梁・柱と壁が別々になることもなく、全体が一体化する。函型に比べ遙かに進化したタイプである。
 コンクリートと鉄筋が一体となっているので、水素爆発が起こっても、函型のように壁が吹っ飛ぶようなケースは考え難い。おそらくメリメリとクラックが入って、そこから放射性物質が漏れ出す程度で、拡散範囲も函型に比べ遙かに小さいと考えられる。無論問題無しなどとは云わない。これも現在のプレストレスド強度が、過酷事故時の炉体内圧力をカバー出来ることが前提である。福島事故を前提に、炉体建家の強度を再チェックする必要がある。例えばPICSESのような動的応力解析プログラムを使えば、建家各部での安全解析が可能である。
 3・4号機では下図を見る通り、基礎はPC工法(プレストレスドコンクリート)を使っている。福島や浜岡のような古いタイプの原発ではRCだが、この点も異なっている。PC材はRC材に比べ引っ張りに強い。大飯原発では1号機直下に破砕帯(と称する割れ目・・・・こんなもの六甲山に行けば幾らでもある)を、モノを知らない頭の悪い地形屋が「活断層の疑いがある、これが動けば原子炉もアブナイ」などと狼少年発言。それを、これ又アホのマスコミが真面目に採り上げるから、日本はアホの2乗状態になってしまった。それはそうとして、仮にその破砕帯が動いて、その左右の岩盤にズレが生じたする。基礎がRCの場合は剪断面に沿ってバラバラになるケースもあるが、PC造ならクラックが入る程度。

 但し電力会社による安全診断、保安院審査が上記の点も含め検討しているのか?そのいずれもイマイチ信用出来ないのが問題である。
 

 なお、敢えて難点を云えば、建家の大部分が地上突出型ということである。半分くらいを地下に埋設しておけば、地震時安定性は更に増す。又、この種の構造物は、過酷事故時の耐圧強度が不足すれば、外周にPC鋼線を張り、プレストレスを加えて強度を向上させることが出来る。1・2号機基礎はRC造だが、これも同じ工法で補強が可能である。
 


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