グアテマラ陥没(1)

 これは先日、中米グテマラはグテマラ市で発生した陥没の状況です。直径は20〜30m、深さ約150mの竪穴が開いた。その後当局は地下の下水管が破損して陥没が生じた、と説明しています。しかしそんなこと信用出来るでしょうか?第一、地下150mの深さに下水道をどうやって敷設するのでしょうか?各家庭から150m下の下水本管まで縦坑を掘るのでしょうか?馬鹿げた説明はいい加減にして貰いたいものです。
 本地域の基盤が石灰岩台地だという可能性が考えられます。石灰岩中の鍾乳洞が発達してドリーネを作り、それが陥没孔となって地表に達したというのが考えられるストーリーです。数年前、日本でも岡山県で同じような陥没が発生しています。逆に言うと、この地域では将来この種の陥没が多発するということです。それが噂になるのが嫌で、当局は下水道破損という話しをねつ造したのでしょう。
 なお、写真を見ると、陥没地盤は大きく2層に分かれます。上部は地下数mまでの赤色層。その最下部白色層がありますがこれが何かは判りません。これらは最も新しい堆積層です(沖積土?)。その下の褐色層はやや締まった砂質土層です。日本でいうと大阪層群相当でしょうか?

グアテマラ陥没(2)

 三年前(07年6月)に続いて、本年(2010年)5月28日、グアテマラで又陥没が発生しました。陥没の形状は前回とそっくりで、写真を見比べると、場所も全く同じです。つまり、前回陥没した場所を埋め戻したところ、同じところが又陥没したというわけです。これは陥没ではよくある現象です。当局が陥没のメカニズムを全く理解していない証拠になります。
 前回よりは詳しい映像がインターネットで公開されているので、より詳しい解説が可能になりました。
 また、前回(上)の解説は一部訂正します。
陥没の近接写真です。グアテマラ市が全体として、平坦な台地上に位置することが判ります。手前の道路に割れ目が入っていることに注意。
陥没の斜め写真。台地を構成する地質構成がよく判ります。地質は全体としてaからdの4層に分けられます。
a;黒色土。盛土或いは先住民の焼き畑農業の跡。
b;前回はこれを何か新しい堆積層と考えましたが、そうではなく、石灰岩が風化しラテライト化した部分でしょう。
c;やはり石灰岩の風化帯ですが、成分(おそらく炭素)が地下水によって溶脱を受けて白色化したゾーンでしょう。
d;台地を作る石灰岩の本体。ややどす黒いのは、炭素を多く含むためと思われます。下方で黒くなっているのは別の地質というより、深くて光りが入らないか、下方で穴が開いているためと思われます。
 ここで、重要なのは,石灰岩の中に、縦の亀裂が密集するゾーン(図のe)があり、これと上の道路の亀裂がほぼ一致するということです。次の陥没が発生するのは、この亀裂の延長線の何処かでしょう。その何処かはなかなか写真だけでは決めきれません。レーダースキャナー探査などを使えば、なんとかなるでしょう。
(10/06/05)

ギアナ高地の巨大陥没孔と石林


これは南米ベネズエラ、ギアナ高地に見られる巨大穴の写真です(NHKスペシャル「ギアナ高地巨大穴の謎に迫る」から拝借)。これも上のグアテマラ陥没と同じく、地下空洞の成長に伴う陥没の結果と考えられます。
 
ギアナ高地が出来たのは数億年の昔と云われます。NHKスペシャルの解説に従って、全体をレビューしてみましょう(但し、途中で筆者の見解に変わります)。
1、約20億年前のゴンドワナ大陸の一部に広大な湖が出来、そこに大量の土砂が堆積する。これがギアナ高地を作るロライマ層群。約2億5千万年前(ということは二畳紀末か三畳紀の始め)ゴンドワナ大陸は分裂を始め、ジュラ紀にはほぼアフリカ大陸と南米大陸は分離する。
2、数億年前頃からロライマ層群は隆起し、2000万年前頃(とうことは中新世半ば)にギアナ高地を作る。浸食により、高地の周辺に斜面が出来る。
3、地下に微細な割れ目が出来る。大きさは幾ら小さくても構わない。但し、斜面まで達していること。
4、この割れ目を伝って地下水が流出する。それに伴い割れ目周辺の岩盤が浸食され、初期空洞が形成される。
5、浸食が進み、初期空洞がある程度大きくなると、空洞周辺の岩盤が緩み、断続的に崩壊を繰り返す。この結果、空洞は加速度的に成長する。
6、空洞の何処かに、縦方向に脆弱な部分があると、そこでは崩壊は垂直方向に拡大し、地下に縦抗が形成される。
7、縦抗が地表近くに達し、ゆるみアーチが地表に達すると、一気に陥没する。
 ここで、4、5のプロセスが始まったのは、大体2000万年前あたり?と言うことは中新世で、丁度アルプス造山期に当たります。6が始まったのせいぜい数100万年のオーダーでしょう。7は非常に最近のことと考えられます。まず、穴の周囲が明瞭だから長期的な二次崩壊の影響を余り受けていない。高地上の植生と穴の中の植生が共通している模様なので、高地表面が熱帯雨林化して以降。おそらく1万年以内。地表に穴が空いたのはグアテマラ陥没と同様、殆ど一瞬の出来事です。崩壊年代は、穴の廻りの地表で最も新しい土壌の年代と、穴の中に保存されている最も古い土壌の年代を測定すれば、かなりの精度で決定できます。
 では、この穴はランダムに発生したのでしょうか?どうもそうではなく、何か規則性を持っているようです。
左の図はNHKがCGで作ったギアナ高地の立体映像です。穴が三つ直線に並んでいることが判ります。私もTV映像で穴が直線に並んでいるのを見ているので、これはNHKが故意に作ったものではありません。この直線が岩盤の弱線(割れ目の密集帯)を作り、上に述べた初期空洞の原因になったと考えられます。更にこれに交叉するような弱線があれば、その交叉点は更に割れ目が密集して、垂直方向の脆弱部を作ります。こういうところが空洞が成長しやすくなると考えられます。穴を結ぶ直線は何者で、どうしてできたのでしょうか?
 日本の様な変動帯では、こういう弱線は断層のような構造線であることが多く、それは主に地震によって作られます。しかし、ベネズエラのような地震の無い地域では、別の理由を考えなくてはならない。
上の図のように、台地の両脇に垂直に近い崖が出来ると、台地端に引っ張り応力が発生し、永い間には引っ張り亀裂が出来てそこから崩壊が発生し、新しく切り立った崖が出来ます。すると更に内側に新しい引っ張り亀裂が発生し、そこに陥没孔が発生する。更にそれが崩壊を繰り返す。穴を繋ぐ直線は、このようにして出来た引っ張り亀裂である、とするモデルは考えられます。無論、地震(ギアナ高地の隆起を作った造山運動に伴う)が考えられれば、話しはずっと簡単です。但し、それを証明する為には写真だけでは無理で、現地で岩盤の割れ目解析をする必要があります。割れ目にストリエーション(擦痕・・・岩盤が剪断で破断したときに出来る模様)が見つかれば、地震説で決まりになります。
 現在、台地の周囲には鬱蒼としたジャングルが広がっていますが、かつてはここにも同じような台地が在ったはずです。それは上に述べた様なプロセスで陥没と崩壊を繰り返して、地上から消えてしまったのです。周囲のジャングルの表面にその残骸が残っているはずです。
 では、引っ張り亀裂の発生と崩壊・陥没を繰り返して行けば、この台地は将来どの様になるのでしょうか?その良い例が中国雲南省の石林です。
 石柱が林立する中国石林の奇景は、いろんな旅行ガイドやTV映像などでご存じと思います。切り立った石が当に林のように林立しています。これは石が木の様に成長したのではなく、元もと台地を作っていた岩石が、崩壊・溶蝕を繰り返して今のような状態になったものです。
 石林はギアナ高地と異なり、石灰岩で出来ています。石灰岩と云ってもその中には硬いところ、軟らかいところがあって、堅さは一定ではありません。そこに割れ目が入る(中国では地震の影響を考えて構いません)と、割れ目を伝って雨水が浸透します。石灰岩は岩石といっても炭酸カルシウムの塊ですから、簡単に水に溶ける。次第に割れ目は拡大して、地下に空洞を作る。これが横に連なったものが鍾乳洞、縦方向に拡大したものがドリーネです。軟らかい部分は次々と崩壊・溶蝕を繰り返し、次第に横方向に拡大します。ついには、硬い部分だけが針のように取り残されます。これが石林です。
 ではこの石林は最期はどうなるのでしょうか?幾ら硬い部分が残っていると云っても、所詮は炭酸カルシウム。いずれは溶けて無くなります。数万〜数10万年後には跡形もなく消え去っているでしょう。
 同じようにギアナ高地もいずれ消え去ります。現在のギアナ高地は元のロライマ層群堆積盆地の1/10位でしょう。2000万年懸かって9割が無くなったとすると、残り1割の寿命はおおよそ200万年ということになります。つまり200万年先には、ギアナ高地も地球上から消え去っているはずです。では無くなった部分は何処へ行ったのでしょうか?みんな海に流れ、ギアナ高地から流れ出した砂や泥は大洋底に堆積し、島を作ったり、石油や天然ガスを蓄えたりしているかもしれません。石林の石灰岩は海水中の炭酸カルシウムとなって、珊瑚や貝殻、鯨や魚の骨に変化しているわけです。このように地球上では常に死と再生のドラマが繰り返されているわけです。

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