2023年 トルコ東アナトリア断層地震
2023年3月6日、トルコ南部カフラマラシュ付近を震源とするM7.8の地震が発生しました。


 本日5/14はトルコ大統領選挙です。トルコの大統領などどうでもいいじゃないか、と思うでしょうが、結構これは国際政治的に意味を持ち、世界中が注目しているところです。今のところ野党候補がリードしているようですが、現職のエルドアンも、脅迫・買収・世論誘導等あらゆる手を使って書き換えしを諮るでしょうから、予断はできない。
 現在のトルコ政府の外交方針は、明らかに親ロシア反欧米だが元々そうだったわけではない。更に一般トルコ国民のがみんな親ロとは云えない。今のトルコ共和国の前身はオスマントルコ帝国だが、19世紀以来オスマン帝国は西欧への接近政策を進めてきた。その理由は北の熊ロシア帝国への対抗である。
 オスマン帝国とロシア帝国が始めて接触したのは18世紀始め、ロシアのピョートル大帝が南下政策を始めてアゾフ海に進出しロストフナドヌーを建設した頃。当時ウクライナは南部はオスマン英国が、北部はポーランド/リトワニア連合王国が支配していた。ウクライナを実質上支配していたのはコサックである。
 18世紀半ば以降、ロシアの南方への領土拡大が進み、エカテリーナ二世期には、ほぼウクライナ全土からカフカス地方が実質上ロシア領となり、19世紀にはクリミア半島への進出も始まった。この結果生じたのがクリミア戦争。これでロシアの拡大は一旦収まるが、トルコ帝国の衰退に乗じ、19世紀末から20世紀始めにかけてバルカン半島への進出が始まった。
 その間トルコは10数度に渉ってロシアと戦火を交えるが常に負けてばかり。その都度領土をむしり取られていく。そして戦争するのは一般のトルコ民衆。従って彼らの子孫である現代のトルコ国民が、ロシアに良い感情を持ってる筈がない。
 一方ウクライナに対しては別である。オスマン帝国時代、スルタンの妃は主に白人のキリスト教徒出身だった。バルカン地方やウクライナの子供を買い取り、イスラムに改宗させた上で、様々な教育を施し、然るべき年齢に達するとスルタンに献上する。その娘は後宮(ハーレム)に入り)、更に宮廷生活にふさわしい教育を受ける。その中でスルタンの気にいられたものが、妃となる。この中にウクライナ人がかなりいる。つまり歴代のスルタンの中には、ウクライナ人の血が結構混ざっているのだ。
 つまりトルコ民衆のロシア、ウクライナへの感情は結構複雑で一概には捉えられない。エルドアンの親ロ政策が全て受け入れられているとは限らない。エルドアンは元々親ロというより、欧米及びその影響を受けているケマリズムへの敵視がその根底にあると思われる。反ケマリズムは反リベラルとなり、強権主義へと繋がる。しかし現代トルコを作ったのもケマリズムである。ケマリズムの否定は自分を否定することになりかねない。その矛盾の回答が得られるのが、今回のトルコ大統領選である。
(23/05/14)

 想像を遥かに越えたのが今回のトルコ東アナトリア断層地震。既にトルコ・シリア両国で死者が4万人を越えると云われる。その原因としてトルコ国内で湧き上がっているのが、建物の手抜き工事疑惑の追及。トルコではかなりの数の建築請負業者が逮捕されたり、国外逃亡しているらしい。
 筆者も被害者数が2万人を超えたあたりから、いくら直下型といっても地震規模からみても多すぎる。建築基準が甘いか、厳しくても基準通りに設計していないか、設計していても工事で手抜きしているか、それらのどれかだろうと思っていた。一方、震源の近くには、建物の倒壊は全くなく死者も出ていない街もある。この差は何か。行政の差かもしれない。
 とにかく地震規模に比べ異常に多い死者数は、地震の直接被害よりその後の救援の遅れとか救援資材の不足・停滞など人的要素つまり人災と云わざるを得ない。これは当然政権批判に繋がる。
 今の7エルドアン政権は経済成長優先で、折角作った国際基準並みの建築基準を骨抜きにしたり、建設業界が政権の支持団体の一つだったりして、国民に不信を抱かせる要素が多い。今年には大統領選挙がある。 仮にエルドアンが敗れたりすると、これは国際政治特にウクライナ戦局に重大な影響を及ぼしかねない。
1)スウェーデン・フィンランドのNATO同時加盟は、トルコ=エルドアンの反対で頓挫している。しかしこれが一転、同時加盟賛成にまわるかもしれない。
2)半導体他武器部品のロシア輸出は、現在アメリカ、EUや日本・韓国などにより規制されているが、密輸ルートもありロシアはこれによって部品を調達できる。この密輸ルートの一つにトルコが含まれると考えられている。エルドアンが黙認している可能性もある。エルドアンが失脚すれば、このルートが遮断される。
3)戦争中にも拘らず、ロシア富裕層は相変わらず海外リゾートで遊び惚けている。そのリゾートの一つがトルコだ。つまりロシア人とって、トルコは安心出来る裏庭なのだ。これもエルドアンが失脚すればどうなるかわからない。
 現在トルコはNATO加盟国であるが、ロシア、西欧の関係には中立の立場をとっている。時に西欧に秋波を送るかと思えば、ロシアにすり寄ったりする。しかしこれがトルコ国民全体の意志とは思えない。
 そもそもロシアとトルコの関係は良くはない。17世紀ロシアが領土拡張政策を始めて以来300数10年間、トルコとロシアは戦争を繰り返してきたが、トルコは負けてばかり。18世紀末にはウクライナを、19世紀にはバルカン半島東部の大部分をロシアに奪われた。つまりトルコ人にとって、ロシアは潜在的な敵なのである。現在のエルドアン政権のような親ロシア政策こそ、トルコ/ロシア関係では異常なのだ。
 ということで今回の地震でエルドアン政権が倒れれば、トルコの対ロシア政策は大きく変化し、それはウクライナ戦争の行方にも大きな影響を及ぼす。だからアメリカ、NATO、日本はトルコ救援、復旧支援に力を注がなくてはならないのである。
(23/02/17)

 これは出典は判りませんがネットで見つけた図。多分産総研か地理院でしょう。この記事では根拠は示されてはいませんが、震源断層となった東アナトリア断層は左横ずれになっています。偶然かもしれませんが筆者と意見は一致している。
 なお被害は人的被害のほかは建物の倒壊に注目が行っていますが、ある動画情報では湖の側の築堤にクラックが入っている。これはすべりというより基礎地盤の液状化の可能性があります。今後調査が進めば、更に様々な変状が明らかになるでしょう。
(23/02/15)
 

   

 今月6日にトルコ南部で起こった地震の、衛星レーダースキャナーによる地表変位画像。図中で青点は衛星から遠ざかる、赤点は近づくとあるが、衛星がどの位置にあるかわからない。但しそれぞれの断層を境にした変位量のピークにずれがある。これから見ると、どの断層も左横ずれ断層ではないかと思われる。詳細は現地調査の結果に待たなければならない。これから数年はこの断層関連のニュースや論文が出回るでしょう。
 なお余震のM7.5地震は、図北の断層と震源は一致しているが、本震のM7.8地震はどの断層とも一致していない。別の未知の断層があるにしても、知られていないということは断層規模が小さいということで、地震規模とは矛盾する。この辺りも今後検討が必要だ。
(23/02/11)




本日トルコ南部を襲ったM7.8の地震の震源。震源はほぼ、紅海ーアカバ湾ーヨルダン川に沿って走るプレート境界断層(図破線)の直上です。破線の右はアラビアプレート(AR)、左はアフリカプレート(AF).。小アジア半島南部にも断層があって、それらが交差する場所で地震が起こっています。衛星写真を見ても、この辺りは大小のリニアメントが走り、地質構造は複雑。
 内陸直下型地震でM7.8は相当大きい。地震エネルギーは、阪神淡路大震災を起こした1995年兵庫県南部地震の20倍位になります。被害はもっと拡大するでしょう。
(23/02/06)