若者の自殺=国家の自殺

 先日、広島マツダに飛び込んで民間人を殺傷した被告に、広島地裁裁判員裁判で終身刑判決が下りました。その前に東京秋葉原殺人事件に死刑判決が出ています。私は別に犯人を擁護するわけではないが、その背景にある、この日本という国の精神病理学崩壊状況を懸念するのです。精神病理学的に見れば、上記両犯罪とも犯人がウツ状態にあったのは顕かです。ウツ状態にある人間は、既に精神的に追いつめられている。逃げ場がなくなっているのである。そこに励ましや叱責が加わると、本人が絶望的になり、自傷行動(自殺)や、或いは統合失調症となって他傷行動(殺人、障害)を引き起こす。問題は一般人の多くがそういう現象を知らず、ウツ状態の人間を、やれやる気がないなあ、とかやれこの頃妙なことを云うなあ、などと原因を本人の弱さに持っていくことです。現在、そういう精神疾患者は100万人以上と云われる。みんなそういう精神疾患症の基礎的知識をもつべきです。ウツ状態にある人間を救うのは、励ましではなく原因を取り除くことです。環境の変化は重要です。
 なお、筆者が常々気になるのは「頑張ろう東北」という標語です。既に東北地方は地震と津波によって、衝撃を受け、更に原発事故やそれに伴う差別的行為が加わって十分ウツ状態にある。ここに「頑張ろう」などと云う標語は以ての外。もっとましな標語を思いつかなくてはならない。そういう意味で精神科医の役割は重要なのだ。
(12/02/25)

 居酒屋チェーンワタミで女性従業員が過重労働に耐えられず自殺。労災認定となった。月100時間の残業にも拘わらず、両親は「娘は頑張って居るなあ」と呑気な父さん気分でやっていたのだろう。そのあげくが娘の自殺だ。アホとしか云いようがない。報道によると父親は娘に対し「もっと頑張れ」と励ましたらしい。自殺をしたということは、この女性は既にウツ状態にあったと考えられる。ウツ患者に対し絶対にやってはいけないことは励ましである。この女性はむしろ父親の一言で自殺したとも云える。
 実は10数年前、筆者の娘が大学四年で阪急トラピックス(実名)という会社に就職した。内容は旅行ガイド(ツアーコンダクター・・・国家資格だが受験料・テキスト代金は自分持ち)である。本人は元もと旅行が好きで、親としては気に入ってやっていると思っていたのである。ところが、ある時、いきなり娘が「会社を辞めたい」と言い出した。その理由を聞くと、とにかく労働条件が酷い。ツアーの前には早朝から呼び出され、終わってからも深夜まで報告書を書かされる。その間の残業代はない。それどころか、経費の精算とか、ツアーのミーテイングでも交通費は自分持ち。それだけでも許せないが、私が頭にきたのは会社の態度である。ツアーがあると、娘は結構客には評判は良かった。ところがツアーバスにはお客様ご意見用紙というモノがある。そこで、娘はそれを正直に持っていくと、上司というのが「オレの顔を潰すのか」と怒鳴ったらしい。そこでその上司の年を聞くと「25か6」。そんなチンピラが偉そうなことを云う会社はろくなモンじゃない。そんな会社は辞めてしまえ、というのが父親の命令。娘は安心して、その馬鹿会社を辞め、もっと良い会社に移って、いまや孫も作って幸せだ。父親はいざとなれば、子供に「そんな会社は辞めてしまえ」という勇気を持たなくてはならない。必要なことは、子供の一人や二人、オレが喰わせてやる、という気概である。
 上で挙げた例で云うと、父親が如何に子供を護るか、という感覚を持ち合わせなかったのが原因である。何故子供を護ろうと思わないのか?これこそ現代の不思議である。しかし、正常者をウツ患者に仕立て上げるのは、過重労働や過度な競争と学校・職場でのイジメである。かつて松岡農水大臣が自殺したが、あれは典型的ウツ病自殺。かれをウツに追いやったのは、野党・マスコミの執拗な攻撃と、党内からの不本意な突き上げ。そしてアベ晋三の無神経な励まし発言である。これによって、松岡は自殺した。
 仮に父親の発言が不用意であったとしても、それで素因を作ったワタミの責任が消えるわけではない。なお、ワタミのオーナーである渡辺某は、かつてコイズミ内閣時の民営化委員会のメンバー。そして今は橋下と維新の有力ブレーンである。ワタミや橋下のような単純競争至上主義者が政権に関与することになれば、一億総ウツ状態になる。若者自殺が今の韓国のように日常風景になってしまう。これはいずれ国家の自殺に繋がるでしょう。
(12/02/23)


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