2005年、コンドリーサ・ライス女史がアメリカ国務長官に任命された。私自身としては彼女の能力を全く買っていない。それどころか、極めて危険な思想の持ち主と考えている。彼女が今度のイラク戦争で、どういう過ちを犯したかは徹底的に検証する必要がある。以下に述べることは、イラク戦争開始後、アメリカが犯した過ちの幾つかを取り上げて批判したものである。この過ちの中にはライスが直接関係したのではないものも含まれるが、開戦の決断に彼女が大きな影響を与えたのは間違いないので、間接的には責任を持っているといえる。そこで、以前アップしたがその後の情勢変化で取り消した論説を引っ張り出して、アメリカの(言い換えれば大統領補佐官であるライスの)当初もくろみが如何に甘いものであったかを証明することにする。
以下の論述の内、次期大統領が誰であるかを除けば、事態は概ねこのとおりになっているのである。(05/01/28)
ひょっとするとサダムが勝つかも……理解しがたい米英軍作戦
関連記事 ・イラクの失敗
・ライスはあてになるか
T作戦に対する疑問
アメリカ・イラク戦争でイラクが勝てる、という妄想を描いた人間は世界中で当のサダムフセイン以外にはまずなかっただろう。筆者もサダム以外の大多数の一人である。 しかし、開戦後3週間を経過すると色々見えてこなかった部分が見えてくる。米英軍の作戦には次のような点で疑問が感じられる。
1、何故バクダード進撃を2ルートにしたのか。
迎え撃つ側としては、補給路が2本ならその内1本に兵力を集中させてそれを麻痺させれば、敵の前線兵力を半減できる。更にそれへ兵力を集中出来れば「死中に活を求める」こともあながち不可能ではない。ロンメル将軍ならその手を使うだろう。
2、バスラやイラク南部の油田地帯を制圧する必要があるのか
そもそもイラク南部はシーア派が多く、反フセイン雰囲気の強い地域であったと云われる。そうなら、後ろから刺されるおそれがないから何もこの地域に兵力を割いて制圧する必要はない。ところが米英軍が制圧に乗り出した。その過程で住民被害が出るのは当然で、これが反米感情に繋がり、寝た子を起こした結果になっている。又、油田の制圧は当初米英が否定していた石油利権に関し、「あーやっぱり」という憶測を国際的にまきちらす。つまり戦争の大義に疑問を発生させることになっているのである。
3、してはならないことをやって反米感情を増幅させている
南部のある都市で、米軍が学校にかかっていたイラク国旗を引き下ろし、星条旗を掲げ、住民の反発を買ったといわれる(1)。又、クルド人地域の飛行場を制圧した部隊が、これを「ジョージブッシュ国際空港」と名付けた。これらの行為はかつて大東亜戦争で我が日本軍が東南アジアでやった失敗と同じである。前の戦争で日本は東南アジアから欧米勢力を追い出した。そこまでは良かったが、その後欧米旗を日章旗に変えたり、地名を日本名に変えたりして、返って現地人の反発を買い、敗戦後侵略行為と見なされてしまった。占領地の国旗と地名には敬意を払うべきである。もし、このような行為が当初の作戦計画に含まれていたすれば、当初計画そのものに戦略的配慮が欠けていたということになるし、現地部隊が勝手にやったとすれば上級司令部の統制が混乱していることになる。
(1)これが星条旗ではなく、イラク国旗だったらアメリカ軍は解放軍として迎えられたろう。星条旗だったから占領軍になってしまったのだ。
4、戦争目的が二転三転する「戦争目的の拡散」
そもそも、今回の戦争の大義は「イラクの大量破壊兵器」の破壊のはずであった。ところが、その後正義の戦争が、開戦直前にはフセイン一派の追放・イラクの解放と民主化が付け加わり、この間のブッシュ演説では、バース党の解体・イラクだけではなく中東の民主化・「完全なる勝利」といった抽象概念まで含まれるようになった。つまり、戦争の範囲を無制限に広げており、且つ終戦を判断するハードルを高くしている。
これはワシントンの政治家にとっては大したことはないかもしれないが、前線指揮官にとっては大変迷惑である。一般に戦争を始める時には、戦争目的を明確(どういう形で戦争を終結させるか)にしておき、それを目標に戦争計画を建て、必要な工程・コストの見積もりを作ることが基本中の基本である。太平洋戦争の日本は肝心の戦争目的を明確にしないまま、衝動的に開戦に踏み切り、開戦後の勝利に調子が載って戦争目的を分散させたために最終的に敗戦に至ったのである。
我々の仕事でいえば、例えば当初300mの契約で始めたボーリングが、ある日突然500mに変更になるようなものである。営業は設計変更で売り上げが増えたと大喜びかもしれないが、現場は大混乱である。300mと500mとでは機械設備が変わるし、第一ケーシングプログラムを全てやり直さなくてはならない。口元からの掘り直しになって結局は赤字になってしまう。そして、責任をとらされるのは必ず前線の現場代理人か主任技術者で、営業は知らん顔である。結果として、現場と本社との間に不信感が生まれる。ブッシュは若い頃にビジネスを立ち上げては失敗を続けていたといわれるが、その原因はどうもこのあたりにありそうである。
Uブッシュの性格とその周辺に対する疑問
では、このような作戦の混乱が生じた原因が何処にあるかと云えば、ブッシュ大統領その人にあるとしか思えない。従って、この問題の解明にはジョージブッシュUの心理学(精神病理学)的分析が是非とも必要である。
結論的にはブッシュは真性の統合失調症(以前の言い方では精神分裂病)の疑いがあり、様々な徴候から要注意と判断されてもおかしくない。
今年のアカデミー賞授賞式でムーア監督が「嘘っぽい選挙で嘘っぽい大統領が誕生し、偽の理由で戦争を始めている」と発言した。このあたりが本質だろう。ブッシュはかなり性格的に弱いタイプである(顔を見れば判る…演説時に表情が変化しない。テレビに出るときに彼は不必要に胸を張って大股で歩く。元々短足だから歩数が多くなるので、テレビのこちら側からは無理をしているとしか見えない)。彼は大学進学からテキサス州知事まで父親の世話になりっぱなしと云われる。従って、父親に強いコンプレックスを持っていると考えられる(エデイプスコンプレックス)。ハーバード時代の恩師がテレビでブッシュの性格をコメントしていた、「彼は、頭は悪くないが、思いやりがなく偏見を持っている」。かなり偏った性格である。こういうタイプは父親の愛情を知らないで育った人間の特徴である。本人は個人的には善良で素直なのであるが、しばしば他人…特に弱い人間…に対し残酷になる。例えば神戸A少年のように。
よく9.11テロが彼のトラウマであると云われる。しかし、筆者にはそう思えない。彼の本当のトラウマは前回の大統領選挙である(心理学的には更に深い部分もある)。今でもアメリカ国民の半分はジョージブッシュUは本当に大統領資格があるかどうか疑っているだろう。少なくともブッシュ本人はそう思っているのではないか。確かにあの時の騒ぎは、民主党とマスコミのブッシュいじめ以外の何者でもなかった。性格がそもそも攻撃的で、心に何らかのコンプレックス(傷)を抱いている人物があのようないじめ(強い心理的ストレス…これが統合失調症発症の原因になる)に遭ったとき、彼は社会に対し復讐を誓う。どの様な方法で復讐を果たすだろうか。それは再来年の大統領選挙で圧勝し、「嘘っぽい」のではなく「本物の」大統領になることである。イラク戦争はそのための手段にすぎない。
Tの4 で述べた戦争目的の再三の変更は、彼自身の思想*1の反映ではなく、再来年の大統領選挙に向けて、支持団体であるネオコングループやユダヤ保守派の要求を…これまでのビジネスと同じように…無批判(無責任)に受け入れた結果に他ならない。
*1第一ブッシュは他人に語るべき思想を持ち合わせていない。このあたりはヒトラーの奪権闘争とよく似ている。
米軍の予想外の停滞についてラムズフェルド国防長官と統合参謀本部の確執が取りざたされている。我々にとってはどうでも良いのだが、一般の会社でラインとスタッフの間に意見の対立があった場合、両者の意見を調整し、経営方針を明確化することは経営者の責任である。ブッシュは合衆国大統領であり、4軍最高司令官だから、当然国防総省(ライン)と統合参謀本部(スタッフ)の意見調整を指導しなければならない。どうもそれがうまくいっていないのではないか。作戦が失敗し、各セクションの不協和音が表に出た場合、最高司令官としての統御能力不足と判定される。これは大統領選挙にとって著しいマイナス要因になる。
ブッシュは若い頃何度かビジネスを試み、その都度失敗し、父親に面倒を見て貰っていたと云われる。筆者はそれがどういうビジネスでどういう経緯で破綻したのかは知らないが、今回の騒ぎを見ると判らないではない。ブッシュUはプライドは高いが、性格は弱く、人のよいお坊ちゃんなのだろう。世間の「やばい連中」のことは知らない(これは我が国のコイズミ首相にも当てはまる)。こういう人間が会社の社長になればどういうことになるか。云うまでもなく、彼を食い物にしようとする取り巻きが近づいてくる。彼らの望むように無批判に事業を展開していけば、何れ破綻するのは当然である(飛島、熊谷の破綻も似たようなものだ)。これが過去に於ける彼のビジネス失敗原因であり、今回の戦争に於ける「戦争目的の拡散」に繋がる。そもそも経営に対する基本が判っていないのだろう。
V 結論 ブッシュは次期選挙に勝てるか
次期大統領選挙までおおよそ1.5年しかない。それまでに彼が果たさなければいけないことは
(1)イラクに対する「完全な勝利」
(2)中東の民主化(アメリカ企業、特に石油・兵器産業が自由に活動出来るような体制という意味。その点で最も民主的な国はイスラエル。アジアでは日本・韓国・台湾・フイリピンが民主国家になる。政治制度や人権などどうでもいいのです)
(3)アメリカの経済回復
である。こんなことがこんな短期間で出来ると思えるだろうか。殆どナンセンスとしか云いようがない。特に問題は「アメリカ経済の回復」である。今回の戦争だけで9000億ドルの補正を要求している。これが1.5年以上に長期化すれば、正規戦が今回で終わるとしても、戦費だけでこれの3倍以上になるだろう。そして得られる戦果はゲリラの数〜数100人にすぎない。 1.5年後の米国議会が認めるでしょうかねー。
サダムは今回の戦争で殺されるかもしれないし、イラクに親米政権がとりあえず誕生するかもしれない。しかし、全体としての反米感情はイラクだけでなくその周辺にも残る(ラデインは未だ生きているのだから)。更に親米政権といっても寄り合い所帯だからろくな政権ではない(サダム以下の可能性は十分ある。アフガニスタンでもカルザイなど実力はないから、何時までたってもアメリカ頼りである。何れ彼も殺されるだろう)。政情は不安定なままで、結果として米軍が何時までも駐留しなくてはならないようになる。つまり、世界的な平和と景気の回復はまだまだ遠い。これがボデイーブローのように効いてくると、ブッシュは次期大統領選挙を落とすかもしれない。そうなれば最終勝利者はサダムになる。
なおイラクを相手に、ここまで手こずっているようでは、アメリカは北朝鮮相手には、とても勝ち目はないだろう。地形は複雑だし、兵士の教育練度も高い。フセインは国内にクルド人や反フセイン勢力という内部の敵をかかえていたが、金正日にそのようなおそれはない。第一地質は花崗岩や白亜紀層が主体なので、バンカーバスターはまず効果はない。その貫通能力は、北朝鮮ではせいぜい地下10数mである。