援戦から反戦まで


 近現代の戦争の歴史を眺めていると、マクロには戦争と国民世論の関係は、戦争を仕掛けた側では、概ね次のような段階を経て変化する傾向が見られる・
    1)援戦→2)継戦→3)厭戦→4)反戦

1)援戦;戦争の意義・大義(本当か嘘かはどうでもよい)が国民各層に行き渡り、国民意識が最も高揚する時期。政府支持率は4段階を通じて最高レベルにある。
2)継戦;1)の続きだが、国民意識はやや冷静になる。しかし、一旦始めたものを途中で辞めるわけにも行かないので、ナントカ理屈をくっつけて、戦争継続を支持する。しかし、これは面向きのことで、厭戦の準備期間でもある。
3)厭戦;更に戦争が長引くと、犠牲は増え、物価は高騰し、国民生活にも戦争の影響がマイナス方向に出始める。国民の中に政府に対する不信感が芽生え、政府支持率は目に見えて低下する。一部にサボタージュや反戦運動が発生する。
4)反戦;3)が最高度に達した段階で、政府は国民世論をコントロール出来なくなり、政府支持率は最低レベルに低下する。反戦運動は日常化し、時には、反戦が反戦に留まらず反政府運動に発展し、政府の崩壊、革命に至るケースもある。
従って、政府は戦争を始める場合には、出来れば1)の段階で、せいぜい2)の段階で戦争を終わらせるよう、計画・工夫・努力が必要である。そしてみんなそう思うのである。しかし、世の中はそう甘くはない。
 これらの段階がどの程度の時間で発生するかというと、それは時代・民族性によって若干の差はあるが、過去の戦訓を見ると、@援戦はせいぜい半年と見るべきである。人間はそれ以上緊張感を持続出来ない。A継戦は1〜2年程度。2年も経つと普通の人間は飽きてしまう。戦争が3年目以上になるとB厭戦気分が横行し、トータル4年を過ぎると反戦状態が発生する。但し、これは旧大陸の人間に対しての一般値である。アメリカ人は旧大陸人に比べ、精神と頭脳が鈍いので、もう少し時間が懸かるかもしれない。
 現在のイラク戦争がどの段階にあるかというと、筆者は既に2)継戦の段階に入っていると考えている。これ以上続けていると、間違い無く3)厭戦段階に到達する。

 近現代の戦争史を概観すると、概ね次の3パターンが見られる。
1)始めから、早期戦争終結・戦後処理を計画し、幸運も重なってそれが実現し、成功するケース。
2)早期終結・戦後処理を計画したが、見通しが甘く、戦争が思惑通りにならなくなって、だらだらと続け、結局自滅するケース。
3)始めから何も考えずに勢いで戦争を始め、気がついたら自滅していたケース。

1)のケース
 これには、普仏戦争や日露戦争のように、モルトケに指導されたり、モルトケ理論に忠実だった戦争がその例として挙げられる。特に日露戦争はその典型とされる(司馬遼太郎史観)のだが、これだってあと1年戦争が長引いていればどうなったか判らない。
2)のケース
 これの例として挙げられるのは、第一次、第二次大戦のドイツ、そして朝鮮戦争である。第一次大戦では、ドイツは当面の敵フランスを屈服させれば全ヨーロッパは、ドイツの下に休戦を乞うと甘く見たようだが、アメリカが参戦するとは思わなかったのが裏目に出た。このケースでは、厭戦が反戦に拡大し、最終的には革命に及んでいる。第二次大戦でも、イギリスがあそこまで抵抗するとは思わなかったし、アメリカの中立化工作に失敗したのが、最大の裏目。このケースでも厭戦から、一部反戦活動(1944年のヒトラー暗殺未遂事件)が発生している。
 朝鮮戦争の時、金日成は次の2点で見通しを誤った。(1)米ソ対決の主戦場はヨーロッパとし、極東にアメリカが兵力を裂く余裕は無いと判断した。(2)韓国の李承晩腐敗政権は国民の支持を失っており、ドアを一蹴りすれば、韓国民は北朝鮮軍を解放軍として歓迎するはずだ。
 実態はどうかというと、確かに開戦初期は韓国軍は総崩れだったが、その後次第に抵抗を強化し、アメリカも日本を兵站基地として、大量の兵力を送り込んできた。北朝鮮としては、韓国民の抵抗や、アメリカの介入(国連まで引き込む)は予想外だったのだ。中国の介入が無ければ、間違いなく金日成政権はこの段階で潰れている。
3)のケース
 太平洋戦争の日本やベトナム戦争のアメリカがこれに相当する。説明する必要は無いでしょう。

 さて、問題はイラク戦争が、上記のどれに当てはまるか?だが、私の印象では2)のケースに該当している。特に開戦前に報道された、ブッシュ政権の、特にライス補佐官の戦後処理の見通しの甘さは、つい「こいつは馬鹿じゃないか」と思ってしまったのだ。やっぱり馬鹿だったのだが、こんなアホ女を教授にするアメリカの大学のレベルってどうなっているんでしょう。彼女はIQ200と称されているが、これはマスコミが煽り立てた数字。現実にIQ200など測定できない。ただ単に、目先が利くだけ。それはさておき、冒頭に挙げた戦争経過の4段階から見ると、今のアメリカは最早、1)は過ぎて、2)の段階に入っていると見るべきである。開戦当初90%近くあったブッシュ支持率は、50%を切っている。大統領選挙の前は、現職有利で10数%ぐらいは上乗せされているから、実質支持率は40%を切っているかもしれない。仮にブッシュが再選しても、支持率は2年で半減しているから、2年後の中間選挙では、30%台に落ちているかもしれない。従って、イラクでめざましい進展が無ければ、落ち込みは更に非道くなる。どうせ、戦争で支持率を延ばした政権だから(中身はない)、戦争が終わったり、戦争が思い通り行かなくなった時が、落ち目なのだ。その時、日本はどうするのか。ベトナムと同じように、アメリカがイラクから撤退すると、日本は国際的孤立が避けられなくなる。だから、日本は特定の政権に過度の思い入れをしてはならないのである。(横井和夫 04/11/01)

 最近の報道では、もはやアメリカ国内では厭戦気分が発生しているらしい。開戦3年目に入っているから、そうなってもおかしくない。そうだとすると、来年(06年)には、早ければ今年の秋ぐらいから反戦活動が発生するかもしれない。(05/06/27)


(関連)
 先日、ラムズフェルドがイラクを訪問したとき、現地部隊兵士からかなり厳しいコメントをぶつけられた。曰く「装甲車両が足りない」、「ゴミ捨て場から防弾ガラスや鉄板を探してきて、防弾材料に使っている」、「一体、我々は何時までイラクに留まればいいんだ」等々。又、国内では予備役兵士から「兵役延長は詐欺だ」という訴えが起こされた。これは既に現場の兵士レベルでは「厭戦状態」が発生していることを意味する。冒頭に挙げた4段階も、発生のタイミングは危険な前線と安全な後方(国内)とでは、タイムラグが生じる。一般に前線で早く、後方では遅い。太平洋戦争でも、太平洋やビルマでは、前線兵士の中では、殆ど反戦状態になっていたのに、後方の司令部や国内では、相変わらず「必勝を期す!」なんてノーテンキなことを云っていたのだ。
 しかし、ある意味でアメリカの強さを感じさせられた。それは何かというと、ラムズフェルドが直接、兵士と対話したこと、その様子をTVで放映したことである。前後して日本でも、大野や冬柴など、いてもいなくてもどうでもいいのが、イラクを訪問しているが、その間何をしていたのか、全く伝わってこない。全ては外務省や防衛庁の役人が演出し、何も見せないようにしている。この点がアメリカとの違いである。


(関連)
 開戦前、ブッシュと小泉の間でどういう話し合いが行われたか? 無論、戦後処理、特に石油利権の分け前の話だろう。おそらく、ブッシュ側から、「イラクはアメリカのものになる。この際、こっちの側に付かなければ石油供給は保障出来ないぞ。分けてやらないぞ」といった脅しが掛けられたに違いない。度胸の無い、ついでに頭も無い小泉は、この脅しにへなへなになったのだ。それは、イラク派遣自衛隊結団式や、サンプロでの石破の発言(国家利益である油を護るために行くのだ)にも裏付けられる。そのあげくが、中国にも足下を見られて、尖閣列島騒ぎになった。この問題のA級戦犯は、以前の堀内経済産業大臣。石油公団の腐敗を暴くまではいいが、公団まで廃止してしまった。これこそアメリカの思うツボ。公団の腐敗は中にいる人間を追放し、機構を立て直せばいいことで、手段まで潰す必要はない。そこの処が、全く判っていない。だから、資源問題でも中国に追いつかれて、その内追い越されるだろう。


(戦争を長引かせて自滅する原因)
 これには次の二つのパターンが考えられる。
     1)開戦国家が頑迷固陋な独裁者に率いられている場合。  
     2)独裁者は判断能力を失い、当事者能力の無い政府がだらだらと戦争を続ける。
     3)政府が頑迷な官僚主義に乗っ取られ、事態の変化への対応能力を失っている場合。
1)のケースにはナポレオンや、第二次大戦のドイツ。2)のケースには第一次大戦のドイツ、ロシア。3)のケースは太平洋戦争の日本、ベトナム戦争のアメリカなどが挙げられる。今後のブッシュは2)のパターンに該当するだろう。
 最近1)パターンに類する面白い例を見付けた。それは島田伸助マネージャー殴打事件である。この件を上のパターンに当てはめて見ると、被害者である40才の吉本女性マネージャーが1)の独裁者に相当するだろう。事件の詳細は既にメデイアで報道されているから省略するが、この件に関し、今まで明らかになっている事実は次の通りである。
(1)加害者である島田伸助は、事件後直ちに事実を認め、謝罪した。但し、被害者はこれを認めていない。
(2)一方、被害者は話し合いを拒否し、あくまで刑事事件として扱うことを要求し、大阪府警淀川署に被害届けを提出し、刑事告発を行った。
(3)11/04淀川署は島田伸助の取り調べを行い、同日大阪地検に書類送検した。
(4)被害者はそれでも納得せず、島田伸助の逮捕を要求した。

 ここで、問題点を整理してみよう。
(イ)島田伸助は逮捕されるか。
(ロ)公判が行われても、それが被害者にとって利益となるか。

(イ)島田伸助は逮捕されるか。
 被害者は、随分簡単に人を逮捕出来ると思っているらしいが、日本の逮捕手続きは結構ややこしくい。先ず逮捕の必要要件としては、@容疑者が逃亡のおそれがある時、@証拠隠滅のおそれがある時で、それに限って、裁判所に逮捕状を請求し、給付を受けなければならない。伸助の場合、罪を認めており、その社会的立場から逃亡のおそれはないし、証拠は被害者の傷とか医師の診断書ぐらいしかないので、伸助側から隠滅することは出来ない。従って、警察が逮捕状を請求出来る要件を満たしているかどかうか疑問だし、裁判所が令状を発給するかどうかも疑問である。要するにマスコミ向けのパフォーマンスとしか受け取られかねない。無理矢理、逮捕状を執行させても、伸助側の弁護士から刑事訴訟法上の不備を訴えられる可能性が高い。
(ロ)公判が行われても、それが被害者にとって利益となるか。
 以上の状況下で、公判が開かれたとしよう。被告自身が罪状を認めているから、事実関係が争われることはない。争われても、平手で一発か、拳骨で数発かの違いに過ぎない。今回の事件は、実刑としても大したことはない。多くて、懲役6カ月程度。伸助は初犯で且つ罪状を認め、陳謝しているから執行猶予が3年はつく。つまり、被害者は何も得るところはない。それどころか、弁護士は国選じゃないから、弁護費用は自分持ちになる。
 更に民事で争うケースを考えてみる。日本の民事裁判は、基本的に和解・調停の場である。一方が和解を拒否した場合のみ、判決になる。今回の場合、当然被害者は判決を要求するものと見られる。処で本件の場合、加害者が陳謝しているのもかかわらず、被害者は加害者との話し合いを拒否しているから、裁判官の心証は極めて悪い。一方、伸助は謝罪していること、番組出演を控えている点を考慮すれば、社会的制裁を十分受けているとして、仮に慰謝料の支払いを命じたとしても、原告請求の数分の1ぐらいに、値切られてしまう可能性の方が高い。せいぜい2〜300万程度じゃないか。その程度の金は弁護士にみんな取られてしまう。結局残るのは借金だけ、ということになりかねない。
 つまり、被害者があくまで公判を請求しても、被害者の利益になる部分は極めて少ない。何故こうなるかというと、被害者(独裁者)が戦争の早期終結を望まず、長期戦を主張するからである。弁護士の役割は、国防大臣か参謀総長のようなものだから、プロとして、戦争の早期解決を図るのが当然の義務である。従って、弁護士は、仮に被害者が強硬姿勢であっても、依頼者の最大利益を護るために、早期和解を奨めるべきである。ひょっとすると、弁護士が売名のために被害者をたきつけている疑いもあるが、その場合は上記の1)で、独裁者が別人に乗っ取られているケースである。
 伸助はタレント生命を奪われるんじゃないか、と心配する人がいるかもしれないが、彼はこの先一生遊んで暮らせるだけの金は貯めこんどるよ。


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