令和5・ 6年能登半島地震

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 今回の能登半島地震は半島全体に甚大な被害をもたらしましたが、中にはほっとしたのもいる。中でも一番胸をなでおろしているのは関西電力だろう。1980年代、関電は能登半島先端に珠洲原発を計画し、立地可能性調査の段階に入った。その関係で当時筆者が務めていた会社でも、珠洲原発の活断層調査を始めた。他にも珠洲原発をあてこんで群がる業者も多かったはずだ。
 ところが90年代に入って、突然のバブル崩壊。電力需要が激減。折からの円高でこれ以上電気を作っても売れない、というわけで関電は珠洲原発を取りやめた。この間新聞を見ていると、この関電の撤退を反対派住民の粘り強い運動のおかげなど甘っちょろいことを云っていたが、実態は冷徹な資本主義論理の結果なのだ。
 このせいで、珠洲原発を当て込んでいた連中はがっかりだが、被害は他にも及んだ。それは関電が珠洲原発と並行して計画していた、滋賀県北部から岐阜県に跨る金居原揚水式水力発電所である。
 この発電所は珠洲原発と連動したもので、珠洲が取りやめになったら当然これも取りやめ。関連業者もショックだが、更にショックなのが、関電の電力交付金とか地元協力金を当て込んでいた地元の金居原町。予算まで組んでいたのにそれがパーになったのだから腹の虫がおさまらない。関電に損害賠償を求めるやなんやらで大騒ぎ。それも今は昔の物語。今関電は「やっぱり珠洲を辞めておいて良かった」と胸をなでおろしているだろう。
(24/01/31)

 クラックが入った能登の「白米千枚田」。このクラックが地震ではいったものか、その後の大雨で入ったかは分からないが、クラックの様子から、地すべりの活動度としては「確定変動」の段階に入っていると思われる。つまり何時全面崩壊を起こしても不思議ではない状態。
 そもそも「棚田」というものは、地すべり地に作られるものだ。棚田のあるところ、潜在地すべり地と考えておいたほうが良い。その点で、今回この地点で地すべりが生じても不思議ではない。
 地すべり対策に地震時を加えるかどうか、決まった基準はない。筆者が現役サラリーマンだった頃の「河川砂防技術基準」では地震時は無かった。新耐震設計指針が公布されて、宅造法では地震時の安定計算が必須になったが、農地と宅地とでは異なる。全ては事業者・・・この農地が国営なら農水省、そうでなければ石川県・・・の判断だ。
(24/01/21)


 24年能登地震で、約4m隆起したと云われる能登半島の海岸。その分領海もEEZも広がる訳だが、何よりも重要なことは、このような地学現象は滅多に見られるものではないので、典型的な場所を選定して一刻も早く「特別天然記念物」に指定して保存を諮るべきである。そうでないと波浪浸食で折角の貴重な記念物を失ってしまうことになる。
(24/01/18)

 これが今能登の救援活動を遅らせている元凶なのでしょう。場所が輪島市とあるから、おそらく国道249号の一部。写真中央の崖が崩れて道路を塞いでいるため車両が進めず、物資が道路上で滞っている。この際超法規的措置で左の空き地に覆工版なり仮設盛土で仮設路が作れれば、問題は一挙に解決。その間に並行して崩壊土砂の撤去工事を進めればよい。国交大臣が地元に頭一つ下げれば済むことだ。公明党はそんな度胸もないのかね。
 なお撤去工は斜面上部は人力土工、ある程度量がまとまった段階で重機土工に切り替える。但しそんな大きなものはいらない。とりあえずは小型バックホウを分解して持ち込むことも考えられる。
(24/01/10)

熊本地震の自衛隊投入2.5万人に対し、能登半島では5000人。それも一次動員は2000人で後は数100人づつの増員。これに対し兵力の逐次投入」とか「ソースモール ソースロー」とかいう批判がある。別に岸田の肩を持つわけではないが、批判する側にも問題がある。
 熊本地震の場合、被災地の大部分は広い熊本平野の中にある。ここは道路・鉄道といった交通網も発達している。高速道路や新幹線まであるのだ。つまり支援部隊は東西南北何処からでも進入できる。平坦地だから山地災害はあっても救援の阻害にはならない。なんといっても熊本は人口は5万を越える大都市で、都市インフラもそれなりに発達している。とにかく震災の翌日には、早くも風俗店が営業を再開するような逞しい街だ。
 これに対し能登半島は平地は海岸部に点々と分布するだけで後はみんな山地。その間を縫うように道路が走るのみ。幹線道路としては、国道は半島を一周するR249と県道の珠洲道路のみ。R249は輪島地域では土砂崩れなど破損がひどく、半島の日本海側ではまず使い物にならない。その他の地域でも破壊が生じ現在全線通行止め状態。こんな処に外野の評論家が云うように大量の人員を送りこんでも、各所で渋滞が生じ混乱をつくるのみである。2年前のウクライナ戦争の始まり、ロシア軍は短期決戦を目論んで首都キーウを制圧仕様とベラルーシから侵攻したが、侵攻路を高速道路一本に絞ったため65qもの大渋滞を生じ、ウクライナ軍ジャベリンの餌食になってしまった。というわけで、何の準備も整えない段階での兵力大量投入は返って危険である。
 そもそも自衛隊の災害派遣は自治体から政府に要請があって始めて実現される。政府は防衛省が主体となり自衛隊と協議して実施命令を出す。自衛隊は被災地における部隊からの報告を受け、状況に合わせた災害派遣計画を作成して実施寧例を現地部隊に指示する。おそらく自衛隊側としては、部隊の一気大量投入は無理で逐次投入やむなしと判断したのだろう。
 陸が無理なら海や空からではどうか?陸上からの救援は道路状況に左右されるが、計画が決まれば民間業者の協力も得られるので、着実に進めることが「できる。しかし海や空は天候に大きく左右される。冬の裏日本で天候が安定することは珍しい。竹中平蔵は日本にはヘリコプターが800基あるからそれを使ってピストン輸送をやればよいとノーテンキなことを言うが、これだから只の数字使いがうまいだけの文系経済屋は駄目なのだ。数さえ揃えば後は勝手に動くと思っている。ヘリとウーバーのチャリンコとは訳が違うのだ。
 但しこれがドローンなら話は違う。偵察用ドローンを使って被災地の状況を詳細に把握できれば、それを専門家に見せアドバイスを受けてより的確な対策を講じることができるし、、孤立した集落・民家への物資補給も可能になる。昨年防衛省は自衛隊内に1万人規模の「災害対策部隊」の創設を発表した。ぜひともこの中にドローン部隊を含めるべきだ。
、海も冬の日本海は時化るから簡単ではない。港湾も輪島・珠洲方面は津波で港湾施設がダメージを受けているから直ちに大量の物資を受け入れられない。ホーバークラフトによる海岸輸送が行われているがこれがせいぜいだろう。
 広域災害救助はいわば戦争と同じである。戦争で重要なのは情報と兵站である。情報の重要性は言うまでもない。兵站で重要なことは兵站線は出来るだけ短いほうが良い。といいうとは巣用兵站基地は後方に置いていてもよいが、出来るdだけ前方に前進兵站基地を設ける。
 まずは兵站基地と兵站路を確保することが先決である。能登の場合、穴水に前進基地を設ける。ここは七尾湾の奥だから津波の被害もない。また、R249の中継点でもあり、ここから珠洲道路に繋がる交通の要衝でもある。穴水への道路も通行止めだが、多分港湾は大丈夫だと思われるので、富山あたりから船で物資・人員を送りこむ。
 穴水を起点に珠洲」方面に支援物資を届けると同時に並行して海岸の国道の復旧に努める。」また穴ミスから県道が二本輪島方面に伸びている。これを利用して輪島への補給を行う。輪島ー珠洲間に国道の被害が集中している。これの復旧には相当時間がかかる。従ってここはとりあえず後回しにして、当面は輪島・珠洲両市の救援と復旧に全力を注ぐべきである。つまり今回の地震復旧対策では穴水が極めて重要なポジションを占めるということだ。
(24/01/09)

 奥能登地域の救援活動を妨げる要因の一つが道路の損壊。写真は一部の道路盛土が崩壊した事例。こういうのが幾つも連なっているのだ。この崩壊地だけで見ると、対策としてはまず救援優先という考えで、大型土嚢や復興版で仮桟橋をつくり、救急車や軽トラ・小型重機などの通行を確保し、その間に内部を補強して大型車が通行できる様にする。最終形は別問題。
(24/01/08)

 今回の地震で巣口衛星「だいち」により約4m隆起したといわれる能登半島の海岸(読売新聞)。活断層が活動する(地震)と、その上盤側が隆起する(アッッププレッシャーマウンド)のは、活断層の教科書には必ず出てくる。しかし実際その様子が目視で現認出来た例は珍しい。
 この現象断層近傍では隆起するが、背後では沈降する。関東平野を例にとると、外房地域の鋸山などの丘陵地はアッププッシャーマウンドで隆起域だが、その背後の関東平野中心部は沈降域で、1500万年掛けて沈降を続けたために数1000mの土砂が堆積する。見事に対象的である。能登半島も同じで北の珠洲、輪島地域は隆起するが、南の七尾地域では沈降が進む。何もこれは能登半島特有の現象ではなく、日本列島何処でも起きている。日本列島の海岸地形の大部分はこれで出来ているといってよい。
(24/01/07)

 令和6年元旦能登半島地震がおきてから三日が経ちました。当日自室でPCをみていると突然ユラユラと揺れ出す。揺れ方の感じからこれは遠いが大きい地震だと直感したので、テレビをみるため隣の居間に移動。しかし未だ揺れている。相当継続時間が永い。揺れ方から判断するとかなり長周期成分が含まれている様だ。
 テレビをつけてNHKにまわすと、女子アナが緊張感あふれる声で「直ぐに避難しなさい」「テレビなんか見ている暇はありません」「直ぐに避難すること」とアナウンス。テレビ屋がテレビを見るなというのも矛盾だが、なんとなく小学校の先生に叱られているような気分になった。
 それはさておき、今回の能登半島地震の原因だが、メデイアには相変わらず「未知の活断層」とか「地下水の上昇」という説が流れている。但し最近では地下の流体と言い換えている。筆者はこの流体こそが蛇紋岩と考えている。蛇紋岩マグマは高温で流動性に富み、周囲の岩盤の割れ目や隙間に沿って浸透していく。京都府北部から兵庫県南西部にかけて「超丹波帯」と呼ばれる地質帯が帯状に分布する。これはジュラ紀付加体と各種の異地岩体からなる複雑な地質体である。。この中に蛇紋岩が貫入している。蛇紋岩の分布・形状は極めて不規則で当に浸透といってよい。
 この蛇紋岩は周囲のジュラ系堆積岩に広域的な熱変質による珪化を与えているので、相当高温だったことがわかる。これは能登半島北部地下の低比抵抗の存在を説明できる。一般に溶融した物質が凝固固結する段階では退席変化が起きる。これには膨張と収縮がある。膨張の代表的なものは水である。この場合は膨張圧によって圧縮応力がはたらく。一方重金属の大部分は凝固時に体積が収縮する。蛇紋岩の主成分は鉄やMg、ニッケルやクロムである。これらは収縮するので引張応力が働く。
 一般の岩石、特に珪質の岩石は圧縮強度より引張強度の方が小さいので、小さい引張強度でも破壊し地震を発生することは不思議ではない。それだけでM7.6の地震が誘発できるかどうか分からないが、マグマの例極・固結の過程は結晶分化過程でもある。蛇紋岩活動の初期に流体成分が消費されれば、後に残るのは斑レイ岩とか橄欖岩などの塊状の深成岩。これが熱水の圧力で一気に上昇すれば、規模の大きい地震が起こる可能性はある。
(24/01/04)

 地震で崩壊した石川清涼高校の盛土斜面。のり面勾配は1:1.8ぐらいはあり、宅造法の基準はクリアーしている。では為せ崩壊したのか?盛土の土質が一つ考えられます。もう一つは年末に低気圧が通過しているので、それによる雨又は融雪で発生した水が地下に浸透した影響も考えられます。盛土内に排水層の設置が見当たらない。排水を兼ねた補強材を盛土内に加えれば問題はクリアー。
 今後復旧7工事になりますが、それには是非この点をおわすれなく。
(24/01/03)

 24/01/01能登地震でひっくり返った富山市内のビル(朝日新聞ニュース)。これを見ると、阪神淡路大震災の時、宝塚南口で生じたダスキン社員寮の転倒を思い出します。あれから随分時間が経っているのに何故こんなことが起きるのでしょうか?周辺の建物にこのような倒壊は発生していなので、事故はこのビル固有の原因と考えられます。基礎の設計ミスか、それとも施工の手抜きか?保険金の支払いを巡って揉めますねえ
(24/01/02)

 これは金沢大学が発表した今回の能登半島地震の余震域の図。活断層に伴う地震なら、普通は帯状に分布するが、ここでは面的に広がっている。発表者はこれを「未知の活断層」とか「伏在断層」とか言っているが、そんなことでは断層が分かっていない。昔なら学部の三回生程度のレベルだが、うっかりこんなことを云うと、まともな地質学科なら「このアホー」と怒鳴られる。
 それはともかく、このように震源が面的に広がり、明確な活断層とも関係しないタイプは他にもある。例えば紀伊水道の周辺、安芸灘、響灘など瀬戸内海西部、日向灘等。どれも原因は分かっていない。能登半島については、筆者は蛇紋岩のような、高温のマントル物質の急速な上昇を考えている。この図と比抵抗断面図を重ねると面白い結果が出るはずです。
 なおこの辺り、掘れば間違いなく温泉が出ます。狙い目はー・・・・?期待しましょう。
(23/05/13)


 能登半島珠洲地震の原因について、当初から地下の流体の存在が指摘されてきました。その根拠は昨年行われた深部物理探査(多分TDEM法)で検出された、低比抵抗帯を水の影響と解釈したためでしょう。しかし筆者はこれを能登半島北部の地熱構造を表すものと指摘しています。
 このほどやっとそれに気が付いたのか、付近の温泉の泉質調査が行われるようになった。しかしこんなショボイ調査では何にも分からない。思い切って5000から10000m級のボーリングをやって、徹底的に調べたほうが良い。コストは大体数10億円位で済む。
(23/05/12)

 

 

 F-1

 F-2

 昨日の石川県能登半島地震で、珠洲の海岸沿いで地盤隆起があったと云われます。報道写真(F-1)を見る限り、これは地盤の液状化です。ここでは地盤がにクラックが入り、そこから泥水が噴き出したともいわれるから、間違いない。
 注目してもらいたいのは道路の背景。建物や電柱が傾いていますが、写真の左側では左に、右側では右に傾いています。これは地震波の通過に伴って地盤が傾いた現象で、一種の褶曲です。この現象も液状化に伴って発生することがあります。図fF-2は能登半島地震で生じた、何処かの川の堤防の崩壊。堤体の円弧すべりと思われますが、基礎地盤の液状化の可能性もある。

 なお今回の地震、規模は小さくはないが大したものでもない。少なくとも官邸がワアワア騒ぐレベルのものではない。
(23/05/08)

 

昨日京都大学が発表した能登半島北部の比抵抗構造図。ネットでは方法は明記されていなかったが、探査深度から見てTDEM法と思われる。深度数q位になると、比抵抗は殆ど温度で決まってくるので、この図は地熱構造図と云ってもよい。図で色が赤いほど、比抵抗が低い=地温が高いと思えば良い。
 京大は図右下の赤枠内を流体と云っている。「流体」というと何か水のような液体を想像するかもしれないが、そうではなく高温で岩盤の物性があたかも流体のように振舞うという意味である。例えば地震でP波速度が低下するとか、S波が捉えにくいとか。山陰・北陸地方は中新世に火山活動があった。この高温域はその時に活動したマグマの残熱とも考えられる。
 そこから2条、地表に向けて熱の流れが見られる。熱のプリュームのようなものか?この地域、むしろ地熱開発・・・例えば温泉や地熱発電・・・が有望だ。やってみますかあ。
(22/10/26)